第百四十一話 試作強襲機(後編)
『エルオール様、本当に蟻塚の上空から落としてしまってよろしいのですか? ちゃんと訓練は積んでいますから、超低空で蟻塚に接近することも可能ですが……』
「そうする必要があったら、その時はちゃんとお願いするさ。蟻塚周辺は樹々が生い茂っていて、エア・トランスポートが超低空飛行を続けてもすぐに見つかってしまうし、超低空だと機体の切り離しが難しい。それなら、爆弾に見せかけて蟻塚に落下した方がいい。ラウンデルの投下の腕前に期待する」
『ご期待に添えるよう頑張ります!』
総旗艦ゾフ所属のエア・トランスポート部隊が、王都郊外で見つかった蟻塚に向けて飛行を続けていた。
全機に爆弾が装着されており、誰が見てもエア・トランスポート部隊は蟻塚を爆撃しに行くと思うはずだ。
異邦者たちもそう思うだろう。
だが実は、隊長機が抱える大型爆弾はハリボテで、その中には私が搭乗する強襲用の魔晶機人改Ⅱが収められていた。
電波通信を傍受する異邦者の出現により復活、改良が進められることになった魔法通信機越しにラウンデルの心配そうな声が聞こえてくるが、この手の軍事行動には慣れているし、引き際も心得ている。
できれば前線や編制中の精鋭部隊を動かしたくないので私が動くことになったが、無理ならゾフの部隊に任せるつもりだ。
『爆撃開始!』
ラウンデルの命令で、エア・トランスポート部隊が蟻塚を標的に爆弾を投下した。
創設初期の部隊で、ラウンデルがしっかりと訓練しているために爆撃は正確だったが、急いでいたので通常爆弾であったことと、蟻塚は地下にあったのであまりダメージは与えられていないはずだ。
「それでも、異邦者の目を眩ませることはできる。ラウンデル!」
『投下!』
ラウンデル機は、大型爆弾のハリボテに隠れた私の機体を投下する。
「……よし!」
急あつらえのハリボテなので外部にカメラなどついておらず、操縦席内からは外の様子がわからない。
タイミングを誤ると地面に激突してしまうところだが、念波のおかげで的確なタイミングでハリボテをパージ。
爆撃後も仲間の残がいの近くで蟻塚への入り口を守っていた異邦者に対し、手に持っていたショットガンを発射した。
「特別製の弾丸だから、痛いだろう?」
火器の火薬量には限度があるので、弾丸をタングステン製にして威力を高めたものだ。
劣化ウラン弾もフィオナから提案されたが、環境のことを考えると今のところは使う気がなかった。
この世界ではまだウラン鉱山も見つかっていないからな。
新人操者たちを多数撃破した異邦者たちであったが、見た目は八本脚の蟻といったところで、その大きさは兵士クラスの倍はあるようだ。
「それでも働き蟻ってところか。おっと!」
蟻塚の入り口の奥からタンが放たれたので咄嗟に回避すると、後方の大木に当たって幹を粉々にした。
「この蟻塚だけだろうが、かなり強力な異邦者だな」
新人操者たちが機体を失っても仕方がない強さであったが、私には通用しない。
一発、入り口から蟻塚の中に向けてショットガンを放つと、中からタンが飛んでこなくなった。
「念のためだ」
今後、蟻塚攻略に必要だろうということで、試作品の魔晶機人用手りゅう弾を蟻塚の中に投げ入れてから、蟻塚へと突入する。
少し奥に入ると、ショットガンと手りゅう弾の餌食となった蟻型異邦者の残骸を発見する。
「定石としては、巣の奥に女王でもいるのかね?」
どちらにせよ。
異邦者はこの世界の魔物や無法者と融合したり、その特性を得て数を増やしていることが確実となった。
異邦者は繁殖力が低いという常識も、魔物と無法者の能力を獲得することで克服しつつあるようだ。
「食らえ!」
まずは、これから蟻塚に突入する後続の新人操者たちのために、可能な限り見つけた異邦者を倒していく。
「弾切れだな」
ショットガンを捨て、今度は腰のラックに装着していた自動小銃を構える。
口径は47ミリだが、貫通力は最新型の57ミリ銃よりも高く、マガジンに装填できる弾数も多かった。
弾の発射も、単発、連射と切り替えも可能で、今後はこの自動小銃を魔晶機人用の基本火器として採用するつもりだと、フィオナから聞いている。
「確かに、使い回しはいいな」
なにより、蟻型異邦者でもある程度の弾数を撃ち込めば倒せるのもいい。
「片手でも使用可能なのも素晴らしい」
片手で自動小銃を発射しながら、足のラックに装着していた大型ナイフを持ち、蟻型異邦者の首を斬り裂き、落としていく。
「生物型になったことで、かえって弱点がわかりやすくなったようだな」
最初の金属片や岩塊に寄生した異形の異邦者は、心臓を破壊しなければ倒せなかった。
ところが、蟻の形と性質を受け入れた結果、蟻と同じく首を斬り落とせば倒せることが判明する。
当然蟻型の魔物よりも強いし、巣を作る能力も繁殖力も戦闘力も高いが、倒し方がわからなくて苦労することはない。
「この蟻型の異邦者は、人間の急所である後方拠点を突くため、橋頭堡となる地下型の蟻塚を素早く作り、繁殖力も高いようだ」
蟻型の異邦者を倒しながら巣穴の奥に進んでいくと、あちこちに魔物と思われる骨が大量に積まれていた。
魔物を狩って女王に与えて卵を産ませ、孵った蟻型異邦者に蟻塚を掘らせる。
これにより、短期間でここまでの規模の巣を作ることに成功したのだろう。
「そして、増やした蟻型異邦者が王都に一斉に襲いかかる計画だったのか……」
ゾフ王国ならなんとか対応できるが、他の国はどうだろう?
ようやく反撃に出られると思って戦力の大半を国境付近に移していると、本拠地の近くに異邦者が秘かに蟻塚を作り、ある日突然奇襲をかけてくるかもしれないのだから。
「他国に警告を……。聞いてもらえるといいけど」
今後は異邦者が地下に蟻塚を作らないよう、その監視も必要ということか。
人手が足りないので、専門の探知機器をフィオナに作ってもらわないと。
「これは使いにくいなぁ」
試作品には色々なものがあったが、足に装着できる『矢箱』は使いにくかった。
操縦席に設置したスイッチで矢が飛ぶが、照準をつけるのが難しい。
ミサイルランチャーを地下の巣穴で使うと自分も生き埋めになるので、今回は矢を発射する箱を足に装着していたのだ。
使い道がなくなった矢を消費するために試作されたが、矢箱が正式採用されることはないと思う。
なにより矢を使うので、かなりの数を撃ち込まないと異邦者を倒せなかったからだ。
「ハンドガンは、最後の最後で護身用に使うのが一番かも」
思っていたほど威力が低いわけでもないので、普通に異邦者を倒すことができた。
だが弾数の少なさが致命的で、攻撃には使いにくい。
これにロマンを感じる人がいるかもしれないけど、護身用で装備するのが精々だろう。
「一回り大きい蟻? これだ!」
ミサイルは持ってこなかったが、棒の先についた使い捨ての携帯ロケットランチャーを放って一撃で撃破した。
正式名称は『パンツァーファウスト』だ。
「威力は素晴らしいが、これも照準のつけかたが難しいな」
だが、構造がシンプルで量産しやすいという利点もあったので、これは正式採用しても損はないだろう。
「他国への援助に使えるな」
最新の火器は、他国だと整備と修理が難しい。
その点、このパンツァーファウストなら一発撃って終わりだし、残った棒の部分は他国でも簡単に作れる。
ロケット弾頭の部分だけ補給すれば、また使えるのがよかった。
「パンツァーファウストは良い兵器だ。多分大隊長クラスくらいまで一撃で撃破できるはずだ」
その後も、自動小銃と大型ナイフで待ち構える蟻型異邦者を倒しながら、巣の奥へと進んでいく。
「これでも、まだ作られたばかりの巣だから助かっているよな」
もし蟻型異邦者が大繁殖したあとなら、ゾフ王国の王都でも落とされてしまったかもしれない。
これからは、安全圏だと思われていた国の中心部もしっかりと偵察しないと。
「これは……」
蟻型異邦者に女王がいるとしたら、巣の一番奥深くにいるはずだ。
そう予想して地下を降りていくと、広大な部屋に出た。
そこには、蟻型異邦者の卵、幼虫、蛹が、数百~千ほど置かれ、成虫の蟻型異邦者によって世話をされていた。
「非戦闘員なのかもしれないが、これは人間と異邦者の生存競争なんだ。悪いな」
私という侵入者を確認した四体の蟻型異邦者たちが襲いかかるが、自動小銃で蜂の巣にしてから、卵、幼虫、蛹をすべて処分していく。
可哀想だが、もしこれが孵ってしまえば王都が危なくなるので、見逃すなんてあり得なかった。
「女王はさらに奥かな?」
育児部屋を出てさらに奥に進むと、ついに女王がいる部屋を発見した。
蟻の女王は部屋を埋め尽くすほどの大きさで、その周囲には十数匹ほどの、働き蟻の倍ほどの大きさをした蟻型異邦者もいた。
「雄蟻か? 随分と余裕そうに見えるな」
蟻型異邦者は、知能も上がっているようだ。
私がここにたどり着く前に、大半の武器を使いつくしてしまったことを理解しているのだろう。
「働き蟻、卵、幼虫、蛹と犠牲にしておいて余裕な態度を見せるとは……。いつでも作れるからいいってことか?」
女王と雄蟻たちが健在なら、またすぐに繁殖できると考えているのか。
雄蟻たちがタンを吐きながら一斉に襲いかかって……はこなかった。
「この狭い巣の中で、一斉に襲いかかるなんてできない。地上でもそうなんだからな」
働き蟻の倍ほどもある雄蟻では、この狭い蟻塚の中では一度に二~三体で襲いかかるのが精一杯だろう。
そして私には、切り札もあった。
「稼働時間に問題はあるけど、『レーザーソード』をくらえ!」
科学由来の武器なので内蔵された小型電池が尽きたら使えなくなるが、熱したナイフでバターを切るかのように雄蟻たちを斬り倒していく。
そしてその間、卵を産むことに特化しているために動けない女王蟻は、その光景を見ていることしかできなかった。
「残りは半分か!」
私はレーザーソードを振るい、次々と雄蟻の首を切り落としていく。
狭い空間での乱戦には慣れているので、蟻たちは為す術もなく倒されていった。
「このレーザーソードは、稼働時間が短いのが弱点だな」
電池式だから仕方がないか。
雄蟻たちを全滅させたのと同時に、レーザーソードの電池が切れてしまった。
現時点では量産も難しいので、正式採用するにしてもだいぶ先の話だろう。
「残るは一番巨大な女王蟻のみか……。待っても助けは来ないぞ。女王蟻よ」
巣にはまだ多くの働き蟻がいるだろうが、今頃は……。
『陛下、近衛騎士隊により、巣の残敵掃討は順調に進んでいます』
「さすがは我が弟だ。一匹も生かして帰さないでくれ」
任務中なので、いつもの『兄様』ではなく『陛下』呼びであったが、マルコは可愛くも逞しく育った。
近衛騎士隊と共に蟻の巣に突入し、働き蟻たちを次々と駆除している。
『そうですね。働き蟻は雌だと聞いたことがあります。もし逃がして繁殖でもされたら大問題ですから』
「そういうことだ」
普通の働き蟻なら雌でも繁殖能力がないことがわかっているが、こいつらは異邦者だ。
もしかしたら繁殖できるかもしれない。
たとえ一匹でも、逃がすわけにいかなかった。
「残りはお前だ。残りの武器は少ないが……」
両手に大型ナイフを構えてから、私は女王蟻に攻撃を開始した。
その首は太く、高い位置にあり、タンを次々と吐いてくるため急所を狙うのが難しい。
私は念波でタンの連続攻撃を回避しながら、少しずつ何度も巨大なお腹を大型ナイフで斬りつけ、ついに傷口を作ることに成功した。
当然この程度の傷で巨大な女王蟻が死ぬわけがないが、私はもう一つ武器を持っていた。
「本来は破壊工作用の武器だが、お前のデカくて無節操に卵を産む腹に、時限爆弾を直接食わせてやる!」
私は女王蟻のお腹につけた傷口から、小型時限爆弾を押し込むことに成功した。
「化け物、お腹の中から爆弾を取り出すことができれば生き残れるぞ。せいぜい頑張るんだな」
女王蟻が泣き言を言うわけがないが、もはや死からは逃れられないと悟った女王蟻はなんとも言えない表情を浮かべていたような気がする。
その場でジタバタし始めたが、そんな破れかぶれの攻撃など当たらない。
私は急ぎ飛行パックを吹かして部屋から飛び出した直後、お腹に埋め込んだ時限爆弾が爆発して激しい揺れと音を発した。
女王蟻が死んだのかを確認するため部屋に戻ると、なんとそこには、腹をすべて吹き飛ばさた女王蟻が上半身だけでまだ生きていた。
「腹を吹き飛ばされて繁殖能力を失ってしまったが、まだ生きているのか。さすがは異邦者。しぶといな。だが……」
その直後、女王蟻は大型ナイフですべての脚を斬り落とされたあと、最後に首を斬り落とされて死んだ。
「蟻塚に突入した者たちは、生き残りの蟻がいたら確実に始末するように。あとで研究者を入れて調べさせる予定だから、見逃しは厳禁だ」
もし生き残りがいるのに調査隊を入れてしまうと、蟻に殺されて全滅してしまう可能性があったからだ。
『わかりました、兄様』
それから数時間後、蟻塚にいた蟻型異邦者の全滅が確認された。
「強襲用の魔晶機人は役に立つけど、パワー、スピード、行動限界時間の振り分けは要研究といったところか」
それはあとでフィオナとヒルデに任せるとして、巨大化した地下式蟻塚とそこで増殖した蟻型異邦者に王都が襲われなくてよかった。
もうすぐ大切な結婚式なので、それが中止になっては堪らないのだから。




