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凌辱エロゲの脇役おっさん、ヒロインたちを曇らせる  作者: 座間あぜん


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第10話 どうして自分を大切にしないの

フレイアは、用務員さんが使っていたベッドの前に立っていた。シーツにはしわひとつなく、枕もきちんと整えられている。彼は出ていく前に、ここを片づけたのだろう。もう戻ってくるつもりがないから、最後に身の回りを整えた。そう考えると、息が苦しくなった。


フレイアはベッドの端に手を置いた。胸に深い傷を負い、まだ十分に動けない身体で、ここから出ていったのだ。誰にも行き先を告げず、自分たちに何も残さずに。


「……私が、斬ったから?」


口にした途端、あの光景が頭に浮かんだ。黒い魔力に覆われた相手を悪魔だと判断し、フレイアは剣を振るった。エルサが氷で動きを封じ、レイが雷撃を放ち、自分が最後の一撃を加えた。3人で力を合わせて敵を倒したはずだった。けれど、黒い魔力が消えたあとに現れたのは、血に染まった用務員さんだった。


用務員さんは生きていた。だが、彼は去った。フレイアが謝罪することも、彼のために何かをすることも許さず、ひとりで学園を出ていった。


彼女は自分の剣を見つめた。いつもなら、迷いを断ち切るために握る剣だった。敵を倒し、大切な人を守るための剣だった。なのに、あのときは自分の手で用務員さんを傷つけた。


フレイアは保健室を飛び出した。


「フレイア、どこへ行くの?」


後ろからエルサの声がした。フレイアは足を止めずに答えた。


「探しに行くのよ。あの人がどこにいるか分からないなら、見つかるまで探す」

「手がかりもないのに、闇雲に歩き回るつもり?」

「じゃあ、ここで何もしないで待っていろっていうの?」


振り返ったフレイアの声は、思った以上に強くなった。エルサを責めたいわけではなかった。何もできない自分が嫌だった。彼が去ったあとも、こうして学園にいることしかできない。その事実に耐えられなかった。


「私は、あの人を斬ったのよ。また何もできないまま、あの人をひとりにするなんて嫌なの!」


フレイアは拳を握りしめた。彼が戻ってきたら、何度でも謝る。許してもらえなくても、逃げずに向き合う。そのためにも、まずは見つけなければならない。


エルサは、フレイアの焦りを否定しなかった。ただし、彼女と同じやり方をするつもりはなかった。手がかりもなく走り回れば、彼がどこへ向かったのかを知る機会まで失いかねない。必要なのは、彼が残したものを調べ、誰が何を知っているのかを確かめることだった。


「私は先生たちに話を聞くわ。誰かに何か話していなかったか。分かることを全部調べる」

「そんなことをしている間に、あの人が遠くへ行ってしまったら?」

「だからといって、何も考えずに探しても見つからないでしょう」


エルサは冷静に言ったが、指先は震えていた。彼女も焦っていた。彼がどこにいるのか分からないこと以上に、彼が何を抱えていたのか分からないことが怖かった。


用務員さんは自分を殺してほしいと頼んだ。エルサはその言葉を信じなかった。重傷を負ったことで混乱しているのだと考え、治療を受けさせることを優先した。彼を助けるためにしたことだった。だが、彼が本当に伝えたかったことを聞こうともしなかった。


自分は彼のことを冷静に見ているつもりだった。けれど、何かを見落としていたのかもしれない。結果として、用務員さんはそんな自分たちに何も話さずに去った。自分たちが信頼に値しないと思ったからなのか。それとも、事情を話せば危険に巻き込むと考えたからなのか。どちらにしても、今のエルサには答えが分からない。


だからこそ、彼女は自分の判断だけで答えを決めることをやめた。先生たちの話を聞き、彼が残した記録を調べ、わずかな手がかりでも集める。自分が間違っていた可能性を認め、事実を確かめる。今度は、分かったつもりになって彼の言葉を否定しない。


「そっちは任せる!」


そう言ってフレイアは走った。エルサは情報を集める。やり方は違っても、彼を見つけたい気持ちは同じだった。





レイは、下級悪魔の事件について調べるため、学園に残された記録を探していた。悪魔が生徒に成りすましていたことは分かっている。しかし、どうしてそんなことができたのか、誰かの指示を受けていたのか、分からないことばかりだった。


そのとき、レイは用務員さんが使っていた道具箱の中に、折り畳まれた紙片を見つけた。表には何も書かれていない。開いてみると、そこには短い文章が記されていた。


『逆咲ムクロに注意。人間だと思うな』


「……逆咲ムクロ?」


知らない名前だった。レイは紙片を裏返した。続きがあるのではないかと思ったが、裏には何も書かれていなかった。たった一行。それだけなのに、わざわざ紙に残して隠していたことが気になった。


用務員さんは、どうしてこの名前を知っていたのだろう。下級悪魔の事件を調べている途中で見つけたのか。それとも、あの悪魔が学園に入り込んだことと、ムクロという人物には何か関係があるのか。


レイは紙片を握りしめた。


用務員さんは、ただ悪魔を倒しただけではなかった。彼は何かを知っていた。そして、その情報を自分たちには伝えず、一人で抱えていた。


「……ねえ、用務員さん。あなたは、いったい何と戦っているの?」


返事はない。レイの手元に残されたのは、短い警告と、彼が自分たちに何も話さず去ってしまったという事実だけだった。

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