困った時の陰陽師
2話
「キャァァァァ!!!!!!!」
パンを頬張っていると、異常な程の叫び声が聞こえてきた。
廊下に出ると、普段物静かな部類の中等部上がりの日比谷縁が悲鳴をあげていた。
縁の目線の先には、ナイフを握った、隣のクラスの馬鹿ップルの片割れが泣きながらおどろおどろしい形相で立ち尽くしていた。
同時に、その体はピクピクと震えていた。
野次馬は、彼女らを囲み、ザワザワと、真実か虚言かも見分けのつかない言葉を吐いた。
「あの馬鹿ップルが別れたのはゆかりんが言い寄った所為みたいよ」
「サイテー。いい子のフリして泥棒猫だったの!?」
「いやいや、男に捨てられた恨みで、気がおかしくなってるんだ。縁さんは悪く無い」
私は心底腹が立った。それが真実か、虚言かなどどうでも良い。人間の歴史の中で人の事を勝手にあれこれ言って何が残った?霊だけだ。
「死してなほ この世に未練 残せしは 魑魅魍魎と 成り果てる その悪しき血を 清めるが 陰陽の道」
霊に命を奪われて、無念の死を遂げた父さんの口癖であり、鼻歌を思い出した。
「キャ!やめて苦しい」
縁が首を掴まれ悲鳴をあげた。そのまま地面から足が浮いた。あの細い腕のどこからそんな力が生まれたのだろうか?
私は人一倍霊感が強い。父さんもそうだった。嫌な予感が背筋を伝う。
私は誰にも付けられないように、人の居なくなった教室に隠れて、父さんがいつもしていた様に、人差し指と中指をくっつけて、五芒星を虚空になぞった。
背を伝う不吉な空気は去り、体は、より強い瘴気の発せられる方を振り向いた。
「何やってるの?真琴?」
「ッッッッッ///!!!!!!」
私が振り返るのと同時に、黄凛に声をかけられてしまった。絶対五芒星を書いていたのを見られた!
「こっこれは、TikTokだよ!ほら!滅!」
無理がある嘘をついた。ポーズをとった腕を、黄凛が優しくも強く掴んで目を見つめて——。
半開きの口から唾液が滴っていた。
あぁまたか。だめだこれ。
黄凛が興奮している時は大抵私が寺育ち癖を出した時だ。
この学校でキリストの話ばかり聴かされてきた彼女らにとって、私は本当に新鮮なんだろう。
正直に話した。昨日の冗談も含めて、霊が見える事を。
「信じられないよね?」
黄凛は首を横にぶんぶん振った。
目を輝かせて言った。
「私…達はみんな真琴を信じてるよ!」
胸が熱くなった。今までなかなか信じてもらえなかったから。
「陰陽師の出番だね!」
嬉しそうに叫んだ。
「うん!任せて」




