第7話 乙四番補給港
ハル艦長が艦長席に座ると、正面の窓の奥には雄大な景色が広がっていた。基底層の赤道直下に広がるナナセア半島の縁に面した竜王城址製造都市中央市街と工場群の排気管が、白い煙を噴き上げる火山のようにそびえ立っている。そしてその煙の向こうに、大きな水上港がある湾に面して、かつて基底層に存在した大国コトの首都だった竜王城の威容を今に残す中央尖塔遺構と、その周囲を囲むように設置された都市直通飛行船港がぼんやりと見えた。そこが活気に満ちた都市であることは、通商港の周辺に見える数珠つなぎにした米粒のような民間の輸送飛行船たちが物語っている。艦橋前方のモニターにも夥しい浮遊機関反応が表示されていた。
「遅れてすまない。状況は」
「すでに竜王城址製造都市付近の乙四番補給港に入港し、第一桟橋に停泊するよう司令部から指示を受けています。どうも直通港湾や都市内部の港には入れないようです」
通信士がそう報告した。ハル艦長は首を傾げ、乙四番補給港の要目を調べる。困惑した表情を浮かべていたハル艦長は、しばらく資料を読み込んでから天を仰いだ。
「軍艦に整備、点検、補給を施せるような設備は一切ないが、本当に乙四番で間違いないのか?」
そう尋ねられ、通信士官は司令部からの命令電文を音読し始めた。
「アヴァターラは本日正午、竜王城址製造都市外郭港湾群の乙四番補給港に入港、一番桟橋に停泊し別命あるまでそこで待機されたし。待機期間中の上陸は許可されない、全乗組員は警戒配置にて待機するべし……以上が司令部からの命令の全文です」
「なるほど、これがいわゆる『特命により動きが取れない』状態か。なんとなく嫌なものだな」
ハル艦長はそう口を滑らせたような言葉を吐いて、それきり口を閉ざしてしまった。アヴァターラは乙四番補給港へ定刻通りに入港し、鬱蒼とした森に半ば埋没するように設置されている一番大型艦用着陸点に降り立った。桟橋から突き出すように地上に設置された衝撃吸収ダンパが着陸脚を収納したままの船体を受け止めると、舫をかけたアヴァターラの船体の横で、桟橋の側面に設置されていた可変接続橋が乗降口に接続され、同時に地上からのエネルギー供給が始まる。長期間上陸できないかもしれないアヴァターラの乗員を見かねてか、補給基地の職員たちは竜王城址製造都市周辺に所在する港の中から、軍艦に適合した補給設備がある港の桟橋の空き状況を確認して報告するなどの便宜を図ってくれた。しかし、その結果わかった状況はアヴァターラにとってあまり都合のいいものではなかった。曰く、この日の朝早くに政府から突然通達があったかと思うと、戦艦級の大型船六隻が連続して竜王城址製造都市の直通港に入港し、竜王城址製造都市内部にある大型艦用の港と、その周辺の戦艦補給用桟橋にあった空きをすべて埋めてしてしまったというのだ。
「あちらでも補給作業は急ピッチでやっているようですが、いかんせんここ数日間の物資輸送が様々な要因で遅れているというのは大きいですね」
艦橋へ報告に上がってきた職員は、発令所正面の窓中央から見える竜王城址製造都市中央市街を横目に、右手に見える竜王城跡遺構の尖塔を仰いで顔をしかめた。民営の退避施設でしかないこのような港は、基本的に空中戦艦のような大型艦を損傷なく着陸させるための単なる整地された空地に毛が生えたような設備に過ぎない。
「とりあえずここで定常点検と軽度のメンテナンスだけでもできないか司令部に掛け合ってみましょうか?」
ハル艦長が言うと、職員は首を横に振った。
「こんな設備では外壁を点検しに上がっていくのも一苦労です。その程度の設備で国家の戦略兵器たる戦艦をメンテナンスするなんて、そんな怖いことは他にありませんし、私もそんな仕事をお受けしたくありません」
「そうですよね……仕方ありません。それではここでしばらく時間をつぶさなければならないようですね」
ハル艦長がうつむいてため息をつくと、職員ははっと思いついたような表情で艦長の方を見た。
「そうだ、過去一週間分のこの地域の新聞なら電子データがあります。必要なら乗組員全員分の新聞を刷ることもできますよ。いかがですか」
ハル艦長は目を輝かせてうなずいた。
「では一週間分用意してもらいましょう。それを艦内の印刷設備で刷ります。心配なさらなくても軍用ですから、新聞社との権利関係は法律上問題ありません。データの提供をお願いできますか?」
「ありがとうございます」
深々と頭を下げて立ち去ろうとする職員を呼び止め、ハル艦長はさらに質問した。
「ところで物流関連のニュースに詳しい社の記事データはありますか?」
「あります。おそらくお求めの情報は竜王新報にあると思います。まあ各社が報道してますのでどの紙面にも大見出しは出ているでしょうが……」
「ありがとうございます。それではお願いします」
ハル艦長に言われ、職員は駆け足で事務所へと戻っていった。




