第80話 後始末
「即応旅団より連絡、首都警備隊司令部との連名です。戦艦の墜落に伴い暴徒の活動は沈静化しつつある、これより鎮圧任務と並行して救助活動を行う……とのことです」
「わかった。他に報告は」
「首都警備隊司令部より報告、下層都市で火災発生中とのこと。市民の避難が進行中であり、火災に伴って暴動はおおむね沈静化したとのことです」
ハル艦長は設備科の班長たちに指示を出した。
「艦載消防機材の降下準備を開始せよ。アヴァターラはこれより重戦艦プーシャンの墜落地点周辺における救護活動の支援に従事する」
ロジカ記者は茫然としながらも気を取り直そうと試みて、無言のままハル艦長に発令所から退出する許可を求める。ハル艦長は無言で首を縦に振り、ヴォロス副長に面倒を見るよう手ぶりで命じた。ヴォロス副長は先ほどプーシャンに向けて怒鳴ったのが嘘のように落ち着いた態度で、ロジカ記者とともに発令所を出ていく。発令所後部の隔壁が閉まったのを見つつ、ハル艦長はうつむいて懐の水筒を取り出し、コーヒーを口に含んだ。口の中の不快感の一部分を苦味で中和して、気持ちを切り替えようと努めながら彼女は水筒のキャップを締め、艦内放送のマイクを握った。
「とりあえず暴動は峠を越えたとみていいだろう。総員、救助支援配置に転換せよ。事態の収拾にかかるぞ」
「了解! 降下デッキ、配置を開始します」
「四脚歩行クレーン及び大型消火車両、投下準備完了。いつでも落とせます!」
ハル艦長は頷いて左腕を横に伸ばし、命令を発する。
「消火ユニットとクレーンの投下を開始する。投下高度に降下せよ!」
アヴァターラはゆっくりと高度を落とし、ハル艦長の腕が上がるのに合わせてクレーン、次いで消火車両を艦底部のハッチから投下した。消火車両は逆噴射を行いながら街路に降り立つと六本の脚を器用に動かし、崩壊した都市を縫うように移動して都市の下層へと向かう。
「降下デッキより報告、降下隊員の準備が完了しました!」
その報告を受けたハル艦長は、少し考えた後に指示を下した。
「最寄りの三番着陸パッドに降下デッキを下ろす。三番着陸パッドの直上へ移動し、降下デッキを最低速で下ろせ」
艦内で逐一都市の被害状況が報告される中、ロジカ記者はヴォロス副長に連れられて休憩室に入っていた。ロジカ記者が顔を上げ、ヴォロス副長の方をうかがうと、彼は何やら怯えたような、悲しそうな眼差しを床に向けていた。その場に鏡があれば、ロジカ記者は自分もそんな目をしていると気づいただろう。ただ、ヴォロス副長も今の自分と同じような状況に陥ったことがあるのかもしれないといった考えを巡らせる余裕も何もなく、ロジカ記者は机に伏した。悲しみといろいろな感情がミキサーにかけられたように混濁して、疲れが彼を襲った。机に伏した彼の意識は、いつの間にか暗がりへと落ちていた。不明瞭な、夢と現の狭間のような感覚がロジカ記者の脳内に去来し、徐々に深く粘性の高い液体の底にいるような夢がロジカ記者の意識を支配する。




