第78話 想外の相手
通信士が回線を開き、アヴァターラが発している信号がプーシャンのシステムに受け取られていることが確認された。しかし、プーシャンの発令所を占拠しているはずの敵は何も反応を示さなかった。
「ロジカ記者、相手には聞こえているはずですから呼びかけを」
通信士に促され、ロジカ記者はマイクをきつく握って呼びかけを始めた。
「こちらアヴァターラ、重戦艦プーシャンへ呼びかけています。聞こえますか、聞こえていたら応答願います。私はムガロポリスニュースポスト所属のロジカ・フリーマン、戦艦アヴァターラに乗艦している従軍記者です。取材をさせてください。私は今まさに目の前にあるこの大事件を報道しなければならない立場にいます。記者として、お願いいたします。貴方たちの声を聞かせてください。インタビューをさせてください。無礼は承知です。それでも、取材がしたいのです。聞こえていたら、そしてインタビューに応じていただけるのなら、応答願います」
ロジカ記者の必死の呼びかけのさなか、プーシャン側のマイクがオンラインになった。
「応答願います」
「……ちらホワイト・スーツ諜報班長ワンザー。ロジカ記者、応答願う」
ロジカ記者は顔を上げて、明らかに動揺した。ロジカ記者はその声を聞いた覚えがあった。それも、自分の職場で。彼は社会部のエース記者で、入社以来の友人。理性がそう告げていた。
「ウィンズ君じゃないか……」
そうつぶやいて、ロジカ記者はペンを握りしめた。
「ロジカ記者、なんと聞いたのか。聞き取りにくい、もう一度……繰り返してくれ」
ロジカ記者は急に震える手先を無理矢理動かして、マイクを握りしめた。
「ああ、なんでも……ありません」
「そうか、ならいいんだ」
ロジカ記者は唯一事前に決めておいた質問を出した。
「なにかムガロ王国に対する要求などがあるのですか?」
「いいや、ない。君たちに対する要求は何もない」
驚くほど素早く、そして明白に、無線の向こうから回答が返ってきた。
「本当に何もないのですか?」
ロジカ記者が重ねて質問するが、無線の向こうの声は「ああ、もちろん」と言ったきり黙ってしまった。
「それでは質問を変えます。先ほど仰っていたホワイト・スーツ諜報班とはどのようなものなのですか?」
ロジカ記者は最初の質問を投げかけた。無線の向こうの男はしばし押し黙ったあと、回答を拒否した。
「それは言えない」
ロジカ記者は頷いてメモ帳に回答を書き取ると、次の質問に移行しようとした。
「わかりました。それでは次の……」
即興の質問がロジカ記者の口から出る前に、再び無線の向こうの男が話しはじめた。
「……いや、任務達成の可能性はもはやない。良いだろう……ホワイト・スーツ諜報班は反ムガロ連合を構成する勢力の一つ、ブリカッシュ=マレーヤ無政府主義者戦線でムガロ王国首都攪乱作戦のために編成された特殊部隊だ。元々は別の任務のために旧主流派が立ち上げた部隊だったんだが、俺たちの新しい指導者様の命令で、この任務に転用されたんだ。それで八年ほど敵国の首都に派遣された、というわけさ。早い話が捨て駒にされたというわけだ、俺たちはつい最近、やっと気づいたんだがな。これで満足かい」




