第76話 事態急転
「アヴァターラには包囲への協力を要請したい」
ハル艦長は一瞬の沈黙もなく、ほとんど即決のような速さで命令を下した。
「了解、包囲に参加する。操舵手、水平九十度回頭を行いプーシャンの前方に停止せよ。あの船の針路をふさげ、すぐだ急げ!」
「りょ、了解!」
操舵手が大急ぎで舵を切り始めたようで、側面推進器が急速に始動する音が聞こえてくる。転舵のベルが鳴ったかと思うと船体が急に揺れ、体勢を崩しかけたロジカ記者は倒れそうになりながら廊下の壁際に足を踏ん張った。
「機関逆進、停止せよ」
その命令とともに艦体に制動が掛かり、アヴァターラは激しく揺れ動いた。ロジカ記者はなんとかマイクを持ったまま立っていることができたが、ちょうど通りかかった四足歩行の作業ロボットはあまりの急な動きに耐えられず壁に衝突してしまった。ロボットは大丈夫かと心配する間もなく廊下の先へと歩いて行ったが、ロジカ記者は元の姿勢に戻るのにかなり苦労した。新聞社に入ってからというもの肥ってばかりだった体は、アヴァターラに乗ってからほんの僅か減量に成功したにせよ、うまく重心を制御するのは容易ではない。収音マイクなしでも聞こえる発令所からの声は、ハル艦長の命令が主だった。
「プーシャンに無線をつないでみろ」
「接続はクリア、呼びかけは可能です! つまり、音声は届いているはずです!」
「目的を明かせと呼びかけろ」
「了解。侵入者に告ぐ、聞こえているなら目的を明かせ。繰り返す……」
呼びかけが繰り返されるが、一向に応答がある様子はない。しばらくして、通信士官が言った。
「応答ありません!」
「よし、呼びかけを続けろ。要求を述べてきた場合は司令部に連絡し、是非の判断を仰ぐ。プーシャンの動きには細心の注意を払え、レーザーや機関銃弾の槍衾程度ならこちらに飛んできてもおかしくない」
「了解」
「そういえばロジカ記者が地上に送ってくれと言っていましたが」
「この状況では無理だ。とりあえず彼をここに呼んでくれ」
「承知しました」
そんな声が聞こえたかと思うと、発令所後部の扉が開いて先ほどの主計科士官が現れた。
「ロジカ記者、発令所に来てください。艦長が呼んでいます」
「わかりました」
ロジカ記者は頷いて収音マイクを鞄にしまい込み、士官の後を歩いて発令所へ入った。




