第75話 重戦艦奪わる
「高度二百、投下コースへ遷移中! コース遷移完了!」
「爆弾艙扉開け、上陸艇切り離し用意!」
アヴァターラが着陸パッドに接近し、上陸艇投下ポイントが近づいてくる。ハル艦長は真横に伸ばしていた手を大きく振り下げて、投下を指示した。
「投下開始!」
上陸艇六隻が次々とアヴァターラから離れ、着陸パッドに向かって降下していく。上陸艇が着陸パッドに接地すると、兵士たちが展開し始めた。ものの十分もせぬうちに第一陣の部隊が着陸に気づいて群がりくる暴徒を制圧し、大盾を広げて上陸艇の周囲に即席の陣地を築いている。それらを指揮統制するために低空に滞空するアヴァターラの底部観測室から、ロジカ記者は取材を続けていた。兵士たちがじりじりと陣地を広げ、暴徒にガス弾を放ちつつ蹴散らし、抵抗するものを捕らえていく様をカメラの最大望遠で追っていると、暴徒たちがものすごい勢いで遁走していくのがよく見える。その混沌をカメラの望遠レンズ越しに見ているのが耐えられなくなったロジカ記者は、ハル艦長に頼み込むため艦橋を訪れた。
「すみません、ハル艦長に会わせてください。下に、あの混沌の中に行きたいんです」
ロジカ記者は発令所へ続く通路に立つ主計課の士官に頭を下げて頼み込むが、士官は断固として断った。
「駄目だ、危険すぎる。艦艇乗務の従軍記者は送れない」
「そこをなんとか」
「ハル艦長からも記者を危険にさらしすぎるなと言われている。駄目だ」
押し問答が始まろうとした、まさにその時であった。首都駐留艦隊から通信が入ったと報告があり、発令所がにわかに騒がしくなる。
「ちょっとここで待っててくれ、俺の方が発令所から呼び出されちまった」
主計科の士官が廊下の先に向かうと、ロジカ記者は廊下で立ったまま収音マイクを取り出した。
「何、暴徒に戦艦を奪われたって……どういうことだ」
発令所から聞こえる声は明らかに緊迫した情態を示している。
「こちら第一戦隊司令部、あれはただの暴徒とは思えない。まるでどこかの工作員のような手際だ、あいつらは危険すぎる。連中の攻撃に対応していて逃げ遅れた乗員の三分の一程と一緒に、重戦艦のプーシャンが我々のコントロールを離れた」
通信の向こう側の相手の声は明らかに上ずっていて、事態の危うさを何よりも雄弁に語っていた。
「御託はいい、そいつは何をすると予測されるかだけ教えてくれないか」
ハル艦長の語気が荒くなる。相手側は少し口ごもった後、あいまいな回答を返した。
「詳しくは分からん。だがろくでもないことをしでかすのは確かだ、制御系を丸ごと掌握されているんだぞ」
「それでは……」
沈黙が一瞬発令所を支配し、そして通信のガリガリというノイズが沈黙を破る。
「ああ、投降を呼びかけるほかない。従ってくれるかはわからんが……畜生、奴らが港から出ようとしているぞ!」
「わかった、こちらからも呼び掛けてみる」
ハル艦長が緊張の張りついた声でそう言うのとほぼ同時に、重く軋むような轟音が響き渡った。
「ムガロポリス第一軍港、第三ゲートシャッターの破損を確認! ……軍艦が出てきました」
センサーの識別音が一瞬連なって鳴り続け、そして識別結果の表示音が鳴る。
「識別、重空中戦艦プーシャン。微速で前進中、前部砲塔群は破損し機能を失っている模様!」
「船体には傷がない。さすが重戦艦、頑丈だな」
「艦長、そんなこと言ってる場合ですか」
ハル艦長が場違いな感嘆の声を上げたのをヴォロス副長が諫めるさなか、オペレーターが少しトーンを上げた声で言った。
「待ってください……港からもう二隻、サヴィトリ及びトヴァシュトリです! 奥にヴィシュヌも確認、全艦桟橋を離れた模様です!」
「まさか一戦隊すべて強奪されたということは……」
ヴォロス副長の心配の声をかき消すように、通信士官が報告を上げた。
「ヴィシュヌから映像通信! ルカ艦長から直接です!」
「よし、メインに回せ」
ハル艦長の命令に従ってオペレーターが何やら装置を操作したようで、メインモニタの起動音が響いた。ロジカ記者の耳には映像通信の声が発令所から漏れ出て届いている。
「こちらヴィシュヌ、艦長のルカ大佐だ。第一戦隊のプーシャンを除く各艦は緊急出撃し、プーシャンを包囲・追跡する。アヴァターラには包囲への協力を要請したい」




