第74話 暴動鎮圧作戦、開始
夜が明け、ムガロポリス市域外縁部に入ったアヴァターラを待っていたのは平常時と何ら変わらない地形と、その中心にポツンとおかれた巨大都市からもうもうと立ち上る煙であった。どうやら市街では暴動のさなかに火が放たれたらしく、資材置き場と貨物列車の停車するエリア、さらに燃料貯蔵区画からも猛烈な勢いで炎が噴き出ている。艦の側面にある地上監視デッキに出ていた即応旅団の隊員たちは、めいめいに炎を指さして冗談を言い合った。
「ありゃあ大変ですな」
「消火器を持って来たほうがよかったかもな?」
「防火装備を着てでも突っ込むのが俺たちの仕事だ。俺たちはあそこで輝く火の玉になるのさ」
「馬鹿野郎、あそこが俺たちの晴れ舞台だぞ」
そんな冗談と常套句を飛ばしながら兵士たちは監視デッキの中央に集まり、分隊士の号令で分隊ごとに輪になって心の戦闘準備を始める。各分隊が円陣を組み終わると、旅団長が手近な円陣に加わり、旅団長補佐官が旅団長に言葉を投げかける。
「それじゃあ旅団長殿、いつもの掛け声いっちゃってください。さっさとその気になっちまいましょう」
「よし分かった。旅団総員、正面を切る用意は!」
「完了しました!」
大隊の全員が大きな声を張り上げ、返答した。
「殿となっても戦う勇気は!」
「装備しました!」
円陣の兵士たちががっちりと組んだ肩をさらに引き寄せあう。
「死ぬ覚悟と死なせる覚悟は!」
「共にあります!」
「行くぞ、命知らず共!」
「オオオオ!」
肩をきつく組んで前かがみになり、大音声で気合を入れた兵士たちは即座に整列し、敬礼する。そして小声で軽口をたたきながら、即応旅団の面々は接続ハッチから爆弾艙に降り、上陸艇に乗り込んでいく。それを艦橋でモニター越しに見ていたヴォロス副長は、ハル艦長に耳打ちする。
「凄いものですね」
「ああ、実戦経験豊富な上陸部隊は、初めて戦場に出てくるような、訓練されただけの単なる命知らずより数段手ごわいぞ」
ハル艦長がそう言った直後、一番上陸艇の艇長から連絡が入る。
「一番から六番上陸艇、搭乗及び出撃準備は全て完了しました!」
その報告と時を同じくして、通信士官が叫ぶ。
「ムラッタルスカからの連絡が入りました! 首都警備隊から損害の少ない着陸パッドの情報を取得した上で損害の少ないエリアに降下、状況を開始せよとのことです!」
「了解、両舷微速! 首都警備隊と通信を開始せよ!」
オペレーターが通信回線を開き、通信士官は首都警備隊を呼び出す。
「こちら王立海軍空中艦隊、戦艦アヴァターラ。首都警備隊、応答されたし。こちら戦艦アヴァターラ、首都警備隊、応答せよ。こちら……」
ガリガリというノイズに続いてピピピと三回、目覚ましのアラームのようなビープ音が鳴った。そしてガリガリという音の後に、音声に乗った暗号符号が送信される。
「音声コード認識、暗号セット四十五番を選択。復号体制完了、こちら戦艦アヴァターラ。首都警備隊応答せよ」
アヴァターラからの呼びかけに応じ、ようやく首都警備隊から通信が入った。
「こちら首都警備隊、第一戦隊は港湾内にて武装した暴徒と交戦中につき即時出港は不可能とのこと。戦艦アヴァターラ、要件を求む」
待ちに待った首都警備隊の連絡に、通信士官は若干言葉に詰まりながらも要件を伝達する。
「こちら戦艦アヴァターラ、これより鎮圧のため即応旅団を投入する。損害の少ない着陸パッドの番号を提供されたし」
首都警備隊は数秒の沈黙の後に応答を返した。
「おそらく北八十九番パッド群は損害が軽微であるためそちらへ上陸してほしい。首都警備隊本部は暴徒に包囲されている。余裕があれば救援戦力を送られたい、包囲の打破は現状では困難である」
「了解、協力感謝する。救援は旅団長の許可次第で向かわせることができるかもしれない。……北八十九番パッド群です」
通信士官が発令所の士官たちに通信内容を報告すると、ハル艦長は頷いて命令を発した。
「低空域に降りて上陸艇を展開する。本部に旅団からどれかの支隊を司令部の救援に回したいと打電し、旅団長に話を通しておけ。高度を二百まで落とせ」




