第73話 微睡覚めて
……唸っている。歌が、いや言葉が、心を揺さぶっている。
ぼんやりとした意識に、音楽プレイヤーで再生されていた曲の強烈なメロディが入ってきた。曲はちょうどギターソロが終わって最初にして最後のサビに突入し、キャッチーなメロディに合わせてボーカルの力強くも繊細で美しい声が詞を歌いあげている。昔はいつも歌っていたはずの歌詞が、今は新鮮だった。身を起こすと、休憩の完了する時間はもう二分後である。ハル艦長は音楽プレイヤーを操作して曲の再生を止めると、軍服の襟を正して発令所に向かった。発令所では、ヴォロス副長が通信士官から報告を受けているところだった。
「首都からの情報を総合すると、状況は単なる過激な暴動の域にとどまらないほどにヒートアップしているようです。首都の治安部隊が投入されてはいますが、死傷者が出るまでの事態です」
「わかった、引き続き情報の収集にあたるように。ハル艦長、お聞きの通りです。このままでは内戦に発展しかねません」
「ありがとうヴォロス副長。司令部からの指示は従前のままだな?」
「ええ。上陸部隊を率いて、暴動鎮圧に参加しろと」
「首都で今起こっていることに関して、詳しい情報が欲しい。首都の公営メディアからの電波は拾えているか?」
「一応通信の方で頑張ってはくれているようなのですが、どうやら首都の電力供給網にもダメージが入っているようで……」
「それだけ分かれば十分だ」
ハル艦長はそう言うと、チトセ砲術長を一瞥して口を開いた。
「砲術科の方で、艦載機材、特に不整地対応が可能な歩脚式消火機材を整備しておくように。それから、上陸班長が即応旅団のブリーフィングから戻り次第消火機材要員を集めて、作戦行動計画や方針をすり合わせておいてほしい」
「了解」
続いてハル艦長はティカ機関主任に指示を出す。
「ティカ機関主任、夜食を取ってからでいいので遠隔電力供給装置を最大出力で継続使用できるように準備をしておいてほしい。あと、できればサーチライトの光色をそれぞれで変えておいてくれないか? 鎮圧完了後の救助のために、よろしく頼む」
「わかりました」
ティカ機関主任が部下に仕事を割り振り、チトセ砲術長が艦載機材格納庫に向かう中、ハル艦長は発令所の要員に各自のタイミングで夜食をとるよう指示し、艦長席に深く腰掛けた。




