第71話 従軍記者の仕事
喧噪に包まれる廊下を過ぎたハル艦長は従軍記者控室の扉の前に立ち、中にいるロジカ記者に呼びかけた。どうぞ、というような声が聞こえて、ハル艦長は扉を開ける。椅子に座ったロジカ記者は、カメラと小さなカバンを肩から下げ、録音機を手の中でいじりながらうつむいていた。
「ロジカ記者、取材の再開を許可しよう。高セキュリティ区画以外への立ち入り許可を再交付する。不謹慎な言い草かもしれないが、記者たる君を今まさに起こっている動乱の特等席に座らせておきながら、目隠しをして何も見せないのは私の良心が許さない。さあ行きなさい。常に護衛をつけられるとは保証できないが、可能な限り手を尽くそう」
「ありがとうございます! このご恩はいつか」
「そんなのはいいさ。記者としての仕事を果たしてきてくれ、こういう時のための新聞記者だ」
ロジカ記者は深々とお辞儀をして、発令所に戻っていくハル艦長とは反対方向、桟橋に続く廊下へと進んだ。目に映るすべてが世に知らしめたいことばかりで、彼は夢中でシャッターを切り記事の内容を考える。アヴァターラの右舷側に整列した陸軍の二個空挺即応旅団の並み居る兵たちを撮影しながら、ロジカ記者はさながら祭りの中にいるような気でいる自分に不意に気づき、ちょっとした自己嫌悪に襲われた。いつものことだと割り切ろうとしても、国家の存亡にかかわるかもしれない一大事を前にしては、まるで外から見物しているような気分でいるのは何とも耐えがたいものだった。アヴァターラの舷窓からカメラをのぞかせシャッターを切るロジカ記者の肩を、背後から誰かが叩く。ロジカ記者が振り返ると、そこには険しい表情を浮かべた壮年の陸軍将校が立っていた。
「どうされましたか、取材規定は遵守しているはずですが」
ロジカ記者の言葉に、将校は首を左右に振って応じる。
「君は従軍記者か?」
その問いかけにうなずくロジカ記者に、将校は言った。
「王立陸上兵団基底層第三軍第八即応旅団群司令官から直接伝達を行う。すぐにこの艦の前部主砲甲板で撮影準備をするといい、従わなければきっと後悔するぞ」
「どういうことですか」
「匿名の取材情報提供ってやつさ」
困惑するロジカ記者をよそに、将校は桟橋の方へと向き直る。ロジカ記者は背筋を伸ばしてお辞儀をすると、いつの間にか晴れた空から夕陽の照り返しを受ける前部主砲甲板へと向かった。




