第67話 古代技術専門家 ハル・カランベリ
レヤル研究員は、ハル艦長の質問に対する回答を始めた。
「その件については問題ない。私も苦労して新たな計測技術をものにした。それによりデータ収集は完全に行うことができた。詳しくは竜王城址製造都市の港に入ってから個人的に話すからそれまで待ってほしいけどね」
ハル艦長はその言葉を聞いて頷くと「わかった」と言って無線のマイクを置いた。拡張空間から出たアヴァターラは竜王城址製造都市の直通港への入航路に乗り、なんとか一通りの修理が終わった直通港の戦艦補給用桟橋がある、大型艦停泊区画を目指す。上空を飛び交う遠距離護送船団の流れが落とす小さな影の群れを通り過ぎたアヴァターラは、ゆっくりと直通港の桟橋の間にその体を埋めた。舫をかけ、艦全体を固定具で支持する作業が完了すると、ハル艦長はラタン軍医長の検査を受けて足早に医務室を出る。桟橋に上がり、検問を通ったハル艦長はSPSプラマルを訪れた。SPSプラマルではレヤル研究員が待っていて、彼女はハル艦長を視界に認めると手招きをしてついてくるよう促す。ハル艦長は少しの間彼女をにらんだ後、諦めたように会釈をして彼女についていった。
「歩きながらで悪いね、ハルちゃん。ずいぶん印象が変わったようだけれど、元気でやってる?」
レヤル研究員はそう言ってハル艦長を見やる。ハル艦長は「お互い様じゃないですか?」と敬語で言おうとして、途端に違和感を覚えた。自分がどんな口調で十歳以上離れた研究室の仲間と喋っていたか一瞬分からなくなって、時の流れを実感する。
「……お互い様じゃないかな、レヤルさん。あなたも結構変わったよ」
「そうね。まああれから八年も経ったんだから当然と言えば当然だね」
レヤル研究員は少し寂しそうな顔で、白髪がわずかに混じった髪を左手で払ってため息を吐いた。
「考えてみりゃあ私なんてもう四十近い歳なんだし、三十一、二の時分から何も変わってないほうがおかしいんだけどね。煙草もやめたし口紅の色も薄くなった」
「そういえばヴォロスくんが私が倒れたと言っても、誰も何も言わなかったと聞いたけれど……財団の人事部は多少おかしな研究者を集める趣味でもあるのかい?」
「違うよ、財団に入るための要件にあるんだと思う。私の周りにもおかしな人しかいない」
そう言って一瞬黙ったレヤル研究員は、すぐに話題を転換した。
「そうそう、データが取れてるのかって話だけどね」
レヤルの言葉を聞いたハル艦長の雰囲気が、研究者のそれに変わる。
「ちゃんと取れてるんだよ。実は第一射の時点で動く目標の捕捉能力以外すべて確認できている。あの拡張空間は私が開発した技術で、空間内で発生した事象のほぼ全てをリアルタイムにデータとして記録できるようになっているんだ」
「それは凄いね、一度データを見てみたいよ」
「残念ながら最高機密だよ。見たいなら戦争が終わった後にまた戻っておいで」
「わかったよ、レヤルさんが生きてるうちに終わるといいんだけど」
「それは笑えない冗談だね、ハルちゃん? そういえば研究所時代になんか偉い人と話してたじゃん」
「そうだっけ? ……ああ、父さんの友達だったとかいう某企業社長さんのことか」
「そうそう。あの人ね、なんか財団の船に時々肖像画が飾ってあるレベルの偉い人だった」
「ええ……?」
「財団の創設者の一人らしいよ」
「それほんと?」
「なんで全く無意味な嘘をつかなきゃいけないの」
二人は、聞く人が聞けば驚きのあまりにひっくり返るような内容を、まるで他愛のない話のように語り合った。そのまま街を歩く姿は、話を聞かず遠目に見ればただの年が離れた友人のようだった。




