第66話 実験再開
「……という事態が発生し、結果として処置を受けることとなった艦長より私が指揮を引き継ぎました」
ヴォロス副長の説明を受けたレヤル研究員は頭を深々と下げた。
「貴重な情報の提供、感謝します。それではヴォロス副長、よろしくお願いします」
「……了解。総員、対閃光防御態勢用意。計画通り第二射撃実験標的を実験計画書中の動目標に設定せよ。照準を確定し次第、射撃出力十パーセントで射撃準備を完了し射撃せよ」
どことなく不機嫌そうなヴォロス副長の命令に従って射撃準備が整えられると、秒読みが開始された。閃光防御のために窓が白く変色し、光を遮断し始める。センサーがオフラインになった直後、再び光線が発射された。
「マハラーティ、エネルギー放射を完了!」
その声とともに、稼働していたレーダーの表示が回復する。先ほどまで探知されていた射撃標的は消えていた。
「射撃目標のロストを確認、外部光の強度は正常値まで下がりました!」
その報告とともに、窓の遮光率がゆっくりと自動的に低下して外が見えるようになる。窓の外では相変わらず第一射で破壊された山がぐつぐつと音を立てて煙っていた。
「砲術科、照準系センサーを展開して外部映像をメインスクリーンに投影せよ。機関科各員、SPSプラマルからの許可が下り次第マハラーティの照準を第三射撃実験標的に合わせられるように準備を急げ」
ヴォロス副長の指示に従って準備が進む中、SPSプラマルから通信が入る。ヴォロス副長が通信を受けると、レヤル研究員は思いがけないことを言った。
「十分なデータは集まりましたので、射撃試験は先の第二射で終了とし、結果の精査に移るよう実験計画を改訂します。お疲れさまでした、この拡張空間を出てください」
ヴォロス副長が首を傾げながらも士官たちに命令を飛ばしていると、発令所後部の扉が開いた。
「さっきはすまなかった。副長、状況は」
士官服に身を包んだハル艦長は、発令所後部の扉を抜けるといつも通りの凛とした声でヴォロス副長に質問する。
「艦長、回復したとはいってもまだ検査が完全に済んだわけではありません。なるべく早く医務室に戻ってください」
アヴァターラで一番の腕利きと言われているラタン軍医長が、自らハル艦長を追って発令所に入ってくる。状況が深刻であることを物語るにはそれだけでも十分だったが、更なる補足説明をするかのように彼女が世話をしている数匹の猫がそのあとを追って発令所に飛び込んできた。
「ああ、もちろんすぐ戻る。ただ、艦が予定外の針路を取ったのが気になっただけだ」
ハル艦長はそう言ってヴォロス副長を見つめた。視線に耐えかねたヴォロス副長が実験の終了を伝えると、ハル艦長は驚いた表情で無線のマイクを掴んだ。ラタン軍医長は猫を抱えてハル艦長の様子を見ている。
「無線手、SPSプラマルにつなげ」
ヴォロス副長が全てを察して命令を下し、無線手は回線をつなぐ。
「こちらアヴァターラ、艦長のハル。SPSプラマルへ、レヤル研究員との通信を要請する」
ハル艦長の通信にSPSプラマルの無線手はしばらく沈黙していたが、やや間があってから了解とだけ応答した。レヤル研究員が挨拶をすると、ハル艦長は堰を切ったように話し始めた。
「レヤル研究員、久しぶりですね。ハル・カランベリ元研究員です。素人質問で恐縮ですが」
「その問いかた、やめてくれない?」
「すみません、ほんの冗談です。それで質問なのですが、この実験計画の要綱は少なすぎるのではないでしょうか? 何か理由があるのであれば良いと思うんですが、今のところやったことと言えば二千立方メートルの岩石の塊とその周辺にあった土砂をえぐり取って溶かし、廃艦とされた三世代前の空中戦艦を照準して蒸発させただけですよね。研究者として、実験を継続するべきではないかと提言したいのですが」
アヴァターラの発令所に詰める士官たちは敬愛する艦長のただならぬ様子に気圧されながらも、ヴォロス副長の下した命令に従ってアヴァターラを拡張空間から出そうとする。レヤル研究員はしばしの沈黙の後に、先の質問に対する返答を開始した。




