第63話 古代兵器マハラーティ
ハル艦長はじっと石像のような姿のマハラーティを見つめた。アトミカル叙事詩に『強靭無比な不沈の兵器』と謳われるその巨体は、人々に畏怖の念を抱かせるほどに美しく恐ろしい。人類すべてが共有している本能を揺さぶるような何かをたたえたその雰囲気は、古代に発生し文明を崩壊させた、満足な記録も残っていない大厄災を連想させるには十分すぎるほどだとハル艦長は改めて感じた。緊張に少し声を震わせながら、ハル艦長は命令を下す。
「……機関主任、予備制御装置の接続を確認せよ。確認が完了し次第、古代兵器に起動信号を送れ」
「了解。機関科各員に告ぐ、予備制御装置のチェックを開始せよ」
数分の間をおいて、制御装置に問題がないことが報告された。起動信号が送られ、マハラーティの反応がキャッチされる。
「マハラーティ、起動しました。制御状況は正常、起動シーケンスも問題ありません」
ハル艦長は頷いて、動き始めたSPSプラマルに目線をやる。SPSプラマルからの通信はまもなく入電した。
「こちらSPSプラマル、アヴァターラに指示する。本船はクラスⅡ空間歪曲点の生成を完了した。マハラーティとともに空間歪曲点に進入し、引き続き本船からの指示に従われたし」
「こちらアヴァターラ了解。SMIR-2を起動し、空間歪曲点の位置を確認せよ」
「了解。……確認しました、前方二百の位置です」
レーダー監視を行っていた航空観測手から報告が入る。データが表示されると、ハル艦長は頷いて命じた。
「よろしい。マハラーティを本艦と並走するように制御し、本艦と連動して空間歪曲点へ進入させろ。しくじるなよ」
アヴァターラの隣にマハラーティが並び、二つの影はゆっくりと空間歪曲点の先へ進んでいく。そこには大砲の射撃試験場のようなものが広がっており、SPSプラマルはアヴァターラに続いて入ってきた。
「こちらSPSプラマル、実験責任者のオトマヤン・レヤル研究員です。ここはスクーパ財団が用意した射撃試験場であり、この空間での物体破壊は基底空間へ一切の影響を及ぼしません。マハラーティが攻撃に使用する射撃兵装の特性理解のために、射撃標的を三つ用意しました。ターゲットの位置座標を送信するので確認してください。それと、試験を実施する前に参考情報として財団が発掘及び復元に成功した大型浮遊生体武装システム……つまりマハラーティの技術仕様や生体機構についてのお話をさせていただきます。マハラーティの取り扱いに必要な情報のみをできるだけわかりやすく、現代技術の用語に翻訳して開設させていただきますので、お付き合いください」
レヤル研究員はそう前置きをすると、小一時間ほどにわたる解説を開始した。マハラーティの制御システムは座標指定に互換座標系を使えば、全て浮遊機関制御装置のスイッチやキーボードによる入力で遠隔操作できること、マハラーティの稼働に必要な動力源は原理こそ不明瞭ながら標準的な大気さえあれば合成されること、現代でも普遍的に使われている浮遊機関の技術を高度に応用したシールドや武装システムを運用していること。さらには仮説の段階ではあるが、鎮圧時にアヴァターラが直撃を受けた光線さえもシールドの応用であり、また鎮圧時に記録した光線の最大出力を八乗してもまだ足りないほどの破壊力をもつ指向性エネルギーを、毎分二回ずつ射出できてもおかしくないほどのシールド出力を誇るという。




