第50話 敵艦隊接近
「こちら高速母艦隊。全機収容完了、重戦艦戦隊と合流する」
その声が電波に乗ってアヴァターラの艦橋に響いた瞬間、レーダー手が緊張した声を張り上げた。
「大型艦六隻、距離五万、高度差五十、単横陣にて急速接近中! 浮遊機関反応および船体サイズから反ムガロ連合艦隊主力艦、ウォーリア級巡洋戦艦と思われます!」
艦橋の空気が張り詰める。巡洋戦艦に最高速度や機動性、主砲の旋回速度で対抗できるのはムガロ王立海軍でアヴァターラ級の八隻だけであり、実質的な戦力差は二対六である。
「旗艦からの命令は?」
ハル艦長が尋ねると、通信士が答えた。
「たった今入電した情報によると、旗艦を含む第五戦隊の四隻は敵浮遊要塞にとどめを刺しつつ、先ほど確認された単独行動中の敵戦艦を砲撃しており、それが完了し次第高速母艦との合流点に向けて離脱、敵高速艦隊との交戦は殿を務める第六戦隊に任せる、なるべく張り付いて足止めをせよとのことです」
ハル艦長はマイクをつかんで艦内放送を開始する。
「総員、第一種戦闘配置! 砲撃戦用意、全砲門開け!」
アヴァターラは艦体の速度を上げて主砲の固定装置を解除し、ヴァーマナとともに接近する敵単横陣を挟撃するべく急速に舵を切った。
「ミサイル制御システム及び遠距離攻撃用射撃指揮統制装置始動、全発射管、対艦榴弾ミサイルを装填! 発射用意を進めつつ指示を待て! 操舵手、雲表層に船体を沈めろ! 敵巡洋戦艦戦隊の左側に回り込むんだ! 通信手、ヴァーマナにつなげ!」
アヴァターラはその船体を雲に隠し、敵巡洋戦艦の向かって左側に向けて急速転舵する。艦橋から目視できる視界は急速に狭まり、船体表面を雲の氷粒が撫でた。敵巡洋戦艦は向きを変えず、撤退を始めた高速母艦と重戦艦を追っている。おそらく第五戦隊の四隻は哨戒機なり哨戒艇なりの触接を受けているのだろう、データリンク上の第五戦隊が対空戦闘を開始した。
「敵巡洋戦艦戦隊、単横陣のまま第五戦隊及び第一高速母艦戦隊に接近中。こちらにはまだ気づいていないようです。ダウザが砲撃されています。ダウザは回避機動を取りつつ砲撃ジャミング装置と対空レーザー砲で砲弾を迎撃中、ドファラはスラスターを全開にして逃走を試みています」
レーダー手がそう言った直後、ヴァーマナと通信がつながった。
「こちらヴァーマナ艦長エリオン、アヴァターラどうぞ」
「こちらアヴァターラ、本艦が先に仕掛ける。貴艦は敵艦の注意がこちらに引き付けられた瞬間を狙って、伏兵として敵艦を攻撃してほしい。おそらく
敵艦のうち両翼の四隻は中央二隻のコントロール艦に制御される無人式のリモート艦だろう、コントロール艦が判別できれば優先して狙ってほしい」
「こちらヴァーマナ、了解」
通信が切れると、ハル艦長は水筒を開けてコーヒーを口に含み、のどを潤す。瞬間、レーダー手が叫んだ。
「敵巡洋戦艦戦隊、今しがたミサイルの有効射程圏内に入りました! なおも接近中です! ダウザ及びドファラは敵艦の射程外への逃走に成功した模様、敵艦はなおも第五戦隊を狙って射撃中! 敵浮遊要塞は先ほど墜落した模様、浮遊機関反応が消失しました! データリンクによると第五戦隊の砲撃で沈んだとのことです!」
ハル艦長は笑みを浮かべ、水筒の蓋をしっかりと閉める。ダウザとドファラが安全圏に逃れたこの刹那は、アヴァターラにとっては敵艦を不意打ちで攻撃するチャンスである。逃すわけにはいかない。
「よろしい、調子に乗った敵艦隊に手痛い一撃をお見舞いしてやろうじゃないか。垂直発射管および両舷ミサイル発射管、全発射管開け! 砲術長、敵の進行方向に対し中央に位置するコントロール艦二隻と右側のリモート艦二隻、合計四隻を狙うよう追尾登録を行い、完了し次第同時弾着設定で全弾を発射せよ! 操舵手、艦橋を雲から出せ!」




