第49話 航空機の限界
「攻撃隊、着艦予定空域まで八分二十秒。残燃料は三十分、被弾機十を含む」
攻撃隊から連絡を受けた艦隊が着艦予定空域まで航行していく途上で、雲の外側を飛ぶ哨戒艇から緊急連絡が入ったのは、航空隊の帰還直前のことだった。
「距離五千、雲の外側に敵戦艦一隻を確認した。敵艦は臨時混成機動艦隊に向かって航行中、あと三分で雲に突入する模様」
艦橋内があわただしく動き始め、旗艦から重戦艦アンシャへの呼び出しが開始された。
「こちらヴァルナ、アンシャへ命ずる。艦列を離れ敵艦針路側面より全力間接射撃を開始せよ。ヴァルナは針路を保ちつつ十字砲撃を開始する」
「こちらアンシャ了解、敵艦針路の側面に入る。哨戒艇へ、砲撃データの送信を願う」
アンシャは艦隊から徐々に離れていき、視界外に消えた。しばらくしてヴァルナの砲塔が動き出す。
「撃ち方用意、二隻交互撃ち方! 射撃序列はアンシャを一、ヴァルナを二とする!」
「こちらアンシャ、射撃準備完了、射撃データ修正完了! 射撃を開始する!」
号令とともに雲を揺るがすような衝撃とともに砲撃が開始され、爆風が雲を破り閃光が遠くにぼんやりと見える。ワンテンポ遅れてヴァルナから閃光のごとくに砲弾が撃ちだされ、雲を切り裂いて飛んでいった。
「アンシャ第一射弾着、敵艦を挟叉! ヴァルナ第一射、敵艦を同じく挟叉!」
哨戒艇からの連絡が飛び込んでくる。アンシャとヴァルナは砲塔を動かしながら攻撃を継続し、二隻合わせて十六斉射百六十発を敵艦に浴びせかけたが至近弾三発で装甲表面を削ったのみで、命中弾は得られなかった。ヴァルナが第九射を発砲した直後、哨戒艇から連絡が入る。
「敵艦が反転、最大船速で撤退を始めました! あと四分で射程圏外に逃れます!」
敵艦の処遇について少し揉めたのだろうか、ヴァルナからの命令は十数秒後に発された。
「こちらヴァルナ、アンシャへ命ずる。射撃やめ、艦隊配置に戻れ!」
「こちらヴァルナ、全艦隊へ。現時刻から着艦作業を開始する。ダウザ及びドファラは雲から出て着艦予定空域へ向かえ。第六戦隊はダウザ及びドファラの後方に展開、射程圏内に敵艦を見たら全力で先制射撃しこれと交戦、撃破し高速母艦を死守せよ。シャクラ、インドラ、ヴァルナ及びアンシャは敵要塞に砲撃及びミサイル飽和攻撃を加えるため上昇する!」
艦隊が三つに分かれ、ダウザとドファラは積乱雲の上に姿を現す。高速母艦の後方に滞空する攻撃隊の航空機たちの姿は様々であった。あるものは煙を吐き、あるものは精密誘導爆弾を翼下のパイロンに一発残し、あるものは片方の主翼の先端を撃ち抜かれてふらふらと飛んでいる。それらが親鳥の懐に舞い込むひな鳥のように、高速母艦の甲板に滑り込んでいくのである。着艦する航空機たちのうち、あるものは機体の破損に耐えかねて甲板上をオーバーランして飛行甲板から落ちた後、甲板前方に衝立のように展開されたネットで受け止められ、あるものは甲板上の定位置に止まって甲板脇によけられる。未帰還機は攻撃隊二百機中三十二機で、艦隊が喪失した機数は着艦事故で修理不能なほど損壊した十四機を合わせて四十六機であった。ハル艦長は、航空機は手加減のできる遠距離火力としてしか扱えないのだと感じていた。




