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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
一 荒野にイ物を見た

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第3話 謎の並行空間

 艦長不在の発令所は、沈黙に支配されている。誰も、一言も発しない。それは状況が膠着しているせいもあったが、一方で不気味な事態に皆が恐怖しているということをどんな文章よりも雄弁に語るようだった。そんな沈黙を破り、ヴォロス副長が声を発する。


「航空主任、待ちは終わりです。艦長のお帰りですよ」


 そう言って話を切ったヴォロス副長がそれまで腰掛けていた艦長席を立った瞬間、ハル艦長が発令所後方のエレベーターホールに繋がる通路から姿を現した。


「艦底部の光学センサーからの映像をメインスクリーンに回せ! ダイビングカメラも準備だ、状況をはっきりさせる」


 そう言い放ったハル艦長は、ヴォロス副長と発令を交代して艦長席に座った。ヴォロス副長は航空主任の方を一瞥して、オペレーターが作業をするのを眺めるハル艦長をじっと見る。やがてオペレーターが作業を終え、スクリーンに映像が表示される。彼女はスクリーンに映し出された艦底カメラの映像をじっと見つめ、そして確信をもってうなずいた。


「管理区画の計器だけでは状況がつかめなかったが、確かにおかしなことが起きている。地上は見えるが、そこにあるはずの降下デッキが見えない。ズームしても結果は同じだ。着陸から程なく通信が途絶えたことを考えると、おそらくこの下には空間歪曲、そうでなくとも何かしらの異常な状況が存在すると思われる」


「デッキが流砂か何かに沈んだのでは?」


 マクノス航空主任が怪訝そうに質問する。ハル艦長は首を横に振りながら、手元のパネルをいじってサブスクリーンに有線ダイビングカメラの映像を表示した。


「このように、有線カメラを降ろすと……」


 カメラ高度が下がっていくにつれて地面がどんどんクローズアップされていくが、そこに降下デッキはない。しかしカメラの対地高度が二十メートルを切ったところで、突然降下デッキが画面いっぱいに映し出された。


「雲の下、地上にかなり近づいたところで突然デッキが見えるようになる。しかもこのときに上を見ると本艦の方角は何か雲のようなものに覆われてまったく見えない……という状態だ。映像が通じるうちに引き上げればカメラは戻ってくることが確認できた。しかし映像が切断されてから引き上げを行うと、途中で切断されたワイヤーが帰ってくるだけだった。このまま放置すればおそらく降下デッキは回収不能になってしまう可能性が高い。よって本艦は降下デッキを回収するため、下方空間の正体を探り、可能ならそこに降下して状況確認。しかるのちに降下デッキを回収し、下方空間を離脱する。SMIR(スミール)-2用意、空間歪曲探知を開始せよ」


「どういうわけなんですか!? 私達にもわかるように説明してください」


 オペレーターが慌てた声を上げ、ヴォロス副長を顧みる。ヴォロス副長は説明に窮したが、ハル艦長の自信満々な姿を仰いで言った。


「私たちにも今にわかるよ、なにせハル艦長の命令だ。落ち着いて素早く作業を始めろ」


 ヴォロス副長の言葉を受けて、オペレーターが計器を確認する。しばらくして、ハル艦長の左側で電算室から送られてくる数値を表示するモニターを見ていたオペレーターの口から驚愕した声が漏れた。


「これは……SMIR-2に感あり! 下方に空間歪曲が発生しています!」


 艦橋の空気がピンと張り詰める。ハル艦長は頷きながら尋ねる。


「クラス及び大きさは?」


「演算中です! おそらくクラスはⅢ以上、下手をすればⅣの可能性も……! これは大きい、相当なものですよ」


「クラスⅢ以上の空間歪曲……やはりか、ほぼ確定した。古代の遺跡だろうな」


 ハル艦長が独り言をこぼす。耐えられないような短い沈黙の後に、オペレーターが声を上げた。


「マップ演算終わりました! 続いてクラス演算に移ります!」


「メインスクリーンに出せ!」


 空間歪曲探知機SMIR(スミール)-2の検知した空間歪曲はかなり大掛かりなものだった。


「結果出ました、クラスⅤの空間歪曲です」


 ハル艦長は迷いなくその正体を見破った。


「おそらく空中大陸を作った時代の、今は失われた技術で作られた拡張空間へのポータルだな。この出入り口の中心座標は安定していると見ていいだろう」


 艦橋の士官たちは頭を抱えた。こんな事態に対処する際の正解はさすがに彼らも知らない。科学技術を含む文明が二千年分ほど、そうなった理由もわからないほどに退行してしまった今となっては、そもそも旧技術というものは今の科学技術では技術どころか『魔法』と呼んでしかるべき存在なのだ。わかるわけがないものをどう解釈すればいいか、など考える方が不可能だ。


「まさか、突入されるおつもりですか?」


 少しトーンを上げたヴォロス副長の声で、発令所は一気に緊張に包まれた。ハル艦長はその目を輝かせ、まっすぐ前を見て頷く。


「無論だ」

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