第47話 アヴァターラ、被弾
離脱を続けるアヴァターラの艦体に、何かが猛スピードで当たるような甲高い衝突音が響いた。
「なんだ!?」
ハル艦長が問いかけると、ティカ機関主任が報告を上げた。
「敵の砲弾を食らいました! 右船体底部アブレーティブバルジに破口発生! 内部装甲板の表面も削れており、アブレーティブバルジの形状回復まで二十分を要します!」
続いて、砲弾の軌跡を解析していた電算主任が報告する。
「どうやらまぐれ当たりのようです! 未だ捕捉されてはいません」
「くそ、速度が落ちるぞ! 艦長、安定性が低下しています! 操舵困難、操舵困難です!」
操舵手が悲鳴を上げながら速度計をにらみ、袖を捲って舵と悪戦苦闘し始めた。ハル艦長はそれを見てマイクをつかみ、命令を下す。
「離脱しつつ応急修理を行う、アブレーティブバルジ形状回復装置に電力を回せ! 推進器停止、慣性力と浮遊機関の斥力による移動に移行する!」
「了解!」
アヴァターラは艦首を下げて浮遊機関の斥力を後下方に向けると、惰性と浮遊機関の出力で速度を落としながら飛行を続ける。アブレーティブバルジの修復が完了するまでの三分間、ハル艦長は進行方向に砲弾が飛んでこないかと気が気ではなかった。爆弾が敵要塞に突き刺さった時の衝撃波がようやくアヴァターラに届き、船体を揺らす。
「修復完了まであとわずかです!」
「分析完了、爆弾は全弾敵要塞に命中した模様です!」
「わが方の航空隊が発艦しました! 敵要塞との戦闘に突入します!」
無線には多数の航空機から発せられるコールサインを呼び合う声が流れ始め、敵要塞の対艦砲の砲撃が停止した。
「修復完了、アブレーティブバルジの外部整形完了しました!」
「よし、スラスターを再起動。合流ポイントに急行せよ!」
ハル艦長の号令とともにアヴァターラはその船体を雲海の下、第一航空突撃戦隊との合流ポイントへと推し進めていった。
「こちら三番機、我敵哨戒艇と交戦す」
「こちら五番機、敵砲台の破壊に成功」
「こちら八番、敵要塞北端で火災発生。延焼している模様」
無線から流れる情報と観測機のデータをもとに、図上に示された敵の対空中戦艦砲陣地の上に一つ、また一つとバツが付けられていく。アヴァターラはその声を聞きながら雲にもぐり、下へ下へと急いだ。
「あと十分ほどで航空隊が離脱する。入れ違いに間接射撃で狙撃砲を射撃し、対艦砲の制圧ができるよう用意しておけ」
ハル艦長の命令に応じて、チトセ砲術長が細かな指示を飛ばす。砲術科の兵士たちがあわただしく艦内を往来しはじめ、狙撃砲が動き始めた。
「砲撃準備、砲撃可能距離まであと二百!」
「敵要塞との高度差、プラス五百。射程圏内まであと百十……三十、狙撃砲射程圏内に敵要塞を捕捉! 間接射撃開始!」
船体側面の砲郭から射撃が開始され、要塞の方角に砲弾が雲を裂いて飛んでいく。
「一般通信回線に敵軍の通信が乗り始めた模様! 傍受を開始します!」
無線の向こうは敵要塞の艦艇格納庫で、通信兵が退避命令を叫んでいた。
「こちら第八艦艇格納庫管制室、暗号回路破損により通常回線にて通信する。第八ブロック上層で火薬庫が爆発し、要塞内部で火災が発生している。以後艦艇の入港は認可しない。停泊中の艦艇は直ちに格納庫を出港せよ、これは司令官命令である」
「こちら重仮装巡洋艦ドレスデン、艦橋に火災が延焼した! 船体炎上中、ダメージコントロール不能! 船内はまるで地獄だ!」
「だめだ、機関冷却区画に火が入った! 退艦だ、総員退艦!」
一般回線に被さるようにして、オベロンからの無線がアヴァターラに入電する。
「こちらオベロン、敵要塞の対空中戦艦砲は全て沈黙せり。繰り返す、対空中戦艦砲は全て沈黙せり」
アヴァターラの通信兵は一般回線を切り、汗をぬぐった。
「敵要塞の対空中戦艦砲、沈黙したようです」
「わかった。砲術科、砲撃やめ」
ハル艦長の命令で、狙撃砲は射撃をやめて後方を向く。艦はゆっくりと降下しながら、合流位置を目指していた。
「敵要塞の状況は悲惨ですね。見よ、地獄が燃えている……といったところですか」
ヴォロス副長がそう言うと、ハル艦長はうなずいて応じた。
「あの地獄がパノラモートに降りかからないためにも、我々は地獄にさらなる燃料を放り込まなければならない」
ハル艦長は、鬼のような形相で前をにらんでいた。




