第45話 雲外の狙撃者対アヴァターラ
「ヴァルナから緊急通信! 当艦隊は不明な対象からの攻撃を受けつつあり、回避のため散開する。敵艦を見つけ次第撃沈せよとのことです!」
発令所の士官たちがざわつき始める。この乱気流の中攻撃を当ててくる敵がいるのか、これはまずいのではないか。そんな雰囲気が発令所を支配する。
「攻撃を受けているのはこのアヴァターラだけじゃないのか……よし、これより転舵を行い、艦隊から離脱する! 面舵五十度、高度はこのまま保て! 敵の攻撃を誘う!」
ハル艦長は当然のことのように命令した。発令所では一瞬奇妙な空気が流れる。
「ええ!?」
操舵手は思わず聞き返した。命令の意図が理解できなかったからである。
「聞こえなかったのか、面舵五十、高度そのままだ。敵はおそらく雲の外にいる。そいつを探知できるまで雲の薄いところに出続けるんだ」
「了解!」
操舵手は我に返って舵輪を動かす。
「レーダー手、周辺を注意深く観察しろ。怪しい反応はないか? 相手からはこちらがある程度見えているはずだ。ぎりぎりまでは撃ってこないだろうが、撃ってきたら砲弾がこちらでも探知できる」
ハル艦長はそう言いながら右舷側の状況を確認する。センサーが探知音を鳴らし、オペレーターが叫んだ。
「連続する炸裂反応、おそらく砲の連続発射です! 距離二万五千、砲弾を探知しました!」
ハル艦長はうなずいて叫ぶ。
「総員、衝撃に備えろ! 主機を最大出力、シールド展開準備!」
アヴァターラの装甲板の表面に連続する打撃音とともに砲弾が打ち付けられ、跳ね返された砲弾が連続して爆発していく。アヴァターラをはじめとしたムガロ王立海軍空中艦隊の戦闘艦の装甲板には極端な凹凸がなく平滑なので特に跳弾しやすい向きもないため、砲弾はあちこちに跳ね飛んで爆発していく。
「敵艦の位置は!?」
ハル艦長が急かすまでもなくレーダー手は諸元を読み上げ、敵艦の位置が算出される。
「出ました! やはりこの雲の外です!」
「よし、敵艦の上を取って強襲する! 上昇開始、この積乱雲を出たら雲の表面に沿って急降下! ミサイルを自動追尾にセット、敵艦を視認し次第四本を斉射せよ! ミサイル着弾後生き残っていれば一、二番および四、五番副砲で砲撃する! 味方艦隊は前方にいるんだな?」
「はい! データリンクによると既にこの空域を離脱しています」
ハル艦長はうなずいて前方を見た。
「界面まで三、二、一、雲境界面を出ます!」
前方に青ざめた空が広がった。アヴァターラはジェットコースターばりの機動で、雲の表面をなめながら逆落としに敵艦がいるであろう位置をめがけて降っていく。艦首方向に広がる白い雲の上に、笹の葉のような影が見えた。
「予測位置に敵艦確認! 反ムガロ連合のエムデン級重仮装巡洋艦です!」
「ミサイル照準ロック完了、発射します!」
アヴァターラからはミサイルが射出され、敵艦の機関砲と大砲が旋回し、ミサイルを追ってゆっくりと仰角を上げる。
「副砲、追尾照準ロック調整完了! いつでも撃てます!」
ミサイルが敵艦に吸い込まれるように突っ込んでいき、炸裂した。敵艦の船体が衝撃に揺れ動き、艦の前方がはじけ飛ぶ。
「浮遊機関反応、消えていません! 敵艦は生きてます!」
「よし、副砲の射撃を許可する! 敵艦の船体中央を狙い、斉射せよ!」
副砲が唸るような音を立てて砲弾を発射し、敵艦に砲弾が放つ光が吸い込まれていく。砲撃で艦隊を翻弄した敵のエムデン級重仮装巡洋艦は、大爆発とともに沈んでいった。静かになった雲の上では午後五時半の夕日が日没時刻が近づいていることを知らせるように、周りの空は徐々に茜色に染まっていく。
「よし、艦隊に敵艦を撃沈したと報告せよ! 本艦は明後日の作戦に間に合うよう最大船速で艦隊を追い、作戦開始時刻までに所定の位置への到着をめざす!」
ハル艦長の命令を受けて、アヴァターラはぐんと加速する。明後日の未明に予定された作戦には十分に間に合う見込みであるが、艦内の兵士たちには、この調子では間に合わないかもしれないというわずかな焦りが広がっていた。




