第44話 嵐の中へ進め
「ヴァルナからレーザー通信、敵哨戒艇の残骸および浮遊機関の痙攣・死亡反応を確認したとのことです」
報告を受けたハル艦長は頷いて、マイクをつかんだ。
「周辺警戒を厳にせよ! まだ母艦がいるかもしれん、十分に注意せよ!」
そう指示を飛ばすと、艦内の対空警戒態勢は最大限に引き上げられた。数分の後、観測廊下から報告が上がる。
「二時の方向、発光するものあり!」
瞬間、発令所は緊張に包まれた。レーダーが起動され、敵艦らしき反応が探される。
「二時の方向、積乱雲を確認! 内部で空電が起きているようです。先ほどの発光はこれでしょうか」
「目標らしきものが見つかったからと言って気を抜くな、中に敵艦がいるかもしれないんだぞ!」
レーダー手の言葉に、ハル艦長が注意を促す。発令所に張り詰めた空気が流れるさなか、艦隊の前下方に第三層赤道上空低圧帯が見えてきた。これに入ればひとまず攻撃は受けづらくなる。高度を落としつつ、第三層赤道上空低圧帯に進入していった。
「乱気流に突入する、揺れるぞ。物の落下などに注意せよ!」
艦内各所で号令が飛び、兵たちは机の上のコップなどを片付ける。艦は潜水艦がしぶきを上げて海水の中に潜るように、雲を巻き上げて低圧帯の雲海の中へと沈んでいった。突如として艦全体に底から持ち上げられるような力がかかった後、発令所の窓が白い光で一杯になった。激しく雨滴や雹が吹き付け、滑らかな船体表面に付着した水滴が目に見える勢いで凍っていく。
「思ったより乱流が激しいな。操舵手、姿勢制御は大丈夫か?」
ハル艦長が質問すると、操舵手は舵を小刻みに操作しつつ答えた。
「大丈夫です。アヴァターラならこの百倍の風速でも耐えられます」
次の瞬間、轟音とともに船体に衝撃が走り、側面センサーが再起動を始めた。何が起こったのかと兵員たちが慌て始める。
「何が起こった?」
ハル艦長が問うと、発令所横の観測廊下からマクノス航空主任が駆けこんできた。
「雲放電を視認、艦体表面にも火花が上がっています! 想定しうる最大級の乱気流です!」
それを聞いたハル艦長は発令所にいた機関科の副主任に指示する。
「送電システムの保護に努めるんだ!」
機関副主任は即座に対応を定めて指示を下す。
「送電網耐電装置始動! 補機を停止して補機制御系の電源を落とせ、出力の低下分は主機出力を上げて補填しろ!」
「了解!」
ハル艦長が他に取るべき対応を考え始めたのとほぼ同じタイミングで、右舷の装甲板に何かが当たり、それに続いて砲弾がはじき返されたような音がした。一瞬遅れて、榴弾が炸裂するような音が響く。
「エネルギー反応! これは……二百ミリ級の砲弾、おそらく徹甲榴弾です!」
「なんだと!?」
発令所の空気が一気に張り詰める。艦長がマイクを握って何か言いかけたところで、通信手が叫ぶ。
「ヴァルナから緊急通信! 当艦隊は不明な対象からの攻撃を受けつつあり、回避のため散開する。敵艦を見つけ次第撃沈せよとのことです!」
報告を受けた発令所の士官たちは、にわかにざわつき始めた。




