第41話 二人の艦長、一つの決定
問答の末、作戦目標を達成できると判断したのか、モーリス連絡官は書類の入った鞄を膝の上に置いて口を開けた。
「それでは最後、二人に質問する。敵艦隊の動向について、現状分かっている情報がこの資料にまとめてある。今回の作戦において敵艦隊が出現する可能性はどの程度だと考えるか。準備が終わった者から回答せよ」
そう言うと、モーリス連絡官はクリップで束ねられた分厚い資料の束をハル艦長とエリオン艦長に渡す。二人はそれを読み込んだ。資料によると敵艦隊は要塞周辺には展開しておらず、要塞を攻撃するポイントまで最高速度で半日かかる空域に展開しているとのことだ。
「これなら敵艦隊が来る確率は五割もないのではないでしょうか」
エリオン艦長はそう言った。
「航空隊が攻撃をかけてから間接射撃で敵要塞を破壊するまで、長くても半日かかりません。それに敵艦隊が来たとしても、それは最高速で駆けつけてきた直後の船です。スラスターは赤熱し、戦闘どころではないはずです。ただでさえオーバーヒートしやすく燃えやすい連合の船が、そんなリスクを冒すとは思えません」
「自分は、それは楽観が過ぎると考えます」
ハル艦長は異を唱える。
「この際大切なのは敵がどこで我々を認識するかです。当然敵の要塞には偵察用に哨戒艇が存在している可能性もあるわけですから、攻撃の一日以上前に此方の動きが気づかれる可能性もある。そうなれば敵にとって要塞は囮にすぎません。敵哨戒艇に発見されれば、遭遇する可能性は百パーセントと言っていいでしょう」
モーリス連絡官はうなずいて、封筒を手に取った。
「思考が速いのは良いことだが、早合点しすぎると致命的な失敗を招く可能性があるな。司令部の結論はハル艦長の発言と概ね一致している。二人ともありがとう、これは今回の呼び出し手当だ。司令部から直接出ているから、受け取ってほしい」
封筒を艦長たちの目の前に置くと、モーリス連絡官はアタッシェケースを取った。
「面会室を施錠する。外に出てくれ」
モーリス連絡官はそう言って、艦長たちと一緒に部屋を出る。二人の艦長は神妙な面持ちでエレベーターを降りてエントランスに出ると、既にバス停に待機していたバスに乗り込んだ。艦に戻るまでの三十分程の間、二人は一言も発さなかった。それは、機密漏洩への心配と、作戦実施に向けた覚悟の発露といってよかった。
売店で買い出しを済ませてアヴァターラに戻ったハル艦長は、発令所に入って艦長席に座ると、ハーバル日々新報の前にムガロポリスニュースポストの朝刊を手に取った。ロジカ記者の書いた特集記事では、従軍記者養成のために参加した訓練合宿で乗艦した旧世代の主力艦を改造した練習艦「エルジュ12」の艦内を背景にムガロ王立海軍の規律について事細かに記載されていた。彼もなかなかいい文を書くなと思いながら、ハル艦長は羽織りっぱなしだった外套を脱ぐために艦長席から立ち上がる。外套を発令所後部に設置されたハンガーにかけて艦長席に戻ると、昼食が出来上がったことを知らせるラッパが鳴り響いた。正午を告げる音に合わせて気温が上がってきた艦内は、賑やかに動き出していた。




