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硝煙の空中大陸〜空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること〜  作者: 古井論理
七 出撃前日のエトセトラ

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第37話 新兵器の印象

 十月一日の朝、ダウザ級高速母艦の一番艦ダウザと二番艦ドファラを従えた重戦闘母艦インドラが秘匿施設に入港した。ダウザ級二隻のうちダウザはアヴァターラ号の隣の桟橋に接岸し、ドファラはアヴァターラと同じ第六戦隊に所属する空中戦艦ヴァーマナの隣のドックに入って整備を始めた。また、インドラは施設に二つある重戦艦ドックの二番に入り、同型艦シャクラと同様に航空機運用区画へ設置された増加装甲の最終点検を開始した。隣り合って桟橋に接舷している二隻の重空中戦艦、ヴァルナとアンシャの間にある中型艦桟橋にはウタカ元帥の専用連絡艦セティナが接舷し、儀礼用の放送が港に響く。


「明日の十時にはすべての作業が完了します。今からキジム提督と航空隊が、ウタカ元帥から訓示を受けるとのことです。ハル艦長にも午前十時半に天蓋都市にある基地司令部の連絡機発着施設まで来るようにと、二十分前に到着されたモーリス司令部幕僚補佐連絡官から呼び出しが入っています」


 艦橋を訪れた桟橋付士官がそう言ってハル艦長に召喚状を渡すと、艦橋には緊張が走った。艦長は敬礼で桟橋付士官を送り出した後、艦橋の面々を顧みて言った。


「午前十時半ということはケーブルカーの発車まであと三十分ほどの猶予時間があるわけだな、私は基地の売店へ買い出しに行ってくる。皆、何か欲しいものがあれば買ってくるぞ」


 誰も何も言わないので、ハル艦長は残念そうなそぶりで艦橋を降りるエレベーターに乗り込もうとして振り返った。


「みんな遠慮しなくていいぞ。私は確かに艦長だが、買い出しには喜んで行くよ」


「では艦長、ちょうど切らしてしまったのでコーヒーの豆を買ってきてくれませんか?」


 砲術指揮所から降りてきた砲術科の士官がそう言うと、艦長は少しうれしそうな顔をして聞いた。


「わかった。ほかに欲しいものはないか?」


 ハル艦長はメモ帳を五行ほど埋めることになった買い出しメモを笑顔で眺めながら、桟橋へつながる廊下を歩いていった。気づけばカメラを片手に持ったロジカ記者がハル艦長に追いついて、隣を歩いている。


「艦長、隣の船とアヴァターラを一枚に収めた写真が撮れる場所を知りませんか?」


 ロジカ記者は先日の取材時に見せた怯えはどこへやら、笑みを浮かべながらカメラを見せる。ハル艦長はその笑顔に危うさを感じながらも、質問に対してうなずいて答えた。


「知ってるよ。上陸許可と施設入構許可があるなら管制塔の廊下にある窓から撮るといい」


 ロジカ記者は嬉しそうに礼をした。


「ありがとうございます。艦長、信じていますよ」


 そう言ったロジカ記者は急ぎ足で桟橋に出る廊下を歩いていった。艦の指揮官だけでは生存なんて確約できない。ハル艦長はそんなことを思いながら桟橋に出た。ハーバル日々新報が掲載する天気図によると、今日は第二層空中大陸上空に吹き寄せられているという寒気に覆われており、この一帯はここ一年で一、二を争う冷気の中に沈んでいる。この燕雲の市街下空洞に作られた秘匿施設の中には空調設備などなく、空気中で白くなる息の向こうに、アヴァターラのとなりに停泊している高速母艦ダウザの船体が見える。ダウザはスペックの上では全長こそアヴァターラより百メートル長いものの全幅は半分、全高も三分の二という小ささである。だが、桟橋から見る限りではかなり大きく見える。おそらく格納庫を積み上げた船体の最上部に飛行機の発着甲板を備えていて、明確に突出した艦橋構造物もない船体のシルエットによるものだろう。それでも浮遊機関はアヴァターラより小さいのだから、装甲も推して知るべしである。


「これが新たな主力兵器になるかもしれないというが、そんなことを言う輩は航空機の量産効果しか見ていないのではないか? 確かに航空機は短期間で艦艇を圧倒する数をそろえられるが、母艦は鈍重で機体の打撃力も不足している。束になっても空中戦艦はおろか、下手をすれば対空陣地や地上を這いまわる重戦車にすら勝てないのに……」


 ハル艦長はそうつぶやきつつ桟橋を歩きながら、売店で購入するものを列挙したメモ帳をあらためた。


「飴とコーヒー豆、あとはちり紙と靴下、ハンカチを買うから……だいたい四千バイル、いや四十セルか。領収書をもらわないと」


 そんなことを考えながら、ハル艦長は上陸許可証を提示して検問を通り、売店がある庶務棟に向かった。

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