第34話 取材の始まり
タブレット端末に通知が届き、艦長は手配された自動配膳ロボットから食事を受け取るために扉を開けた。やってきた配膳ロボットは廊下をすべるように動きながら腹部のジャイロに搭載する保温箱を開け、そこから慣れた手つきで食事が載った盆を取り出した。その手つきは熟練の侍従のようであるが、その姿は愛らしく美しい、中性的な十代前半の少年を想起するような魅力があり、その見た目から、兵士たちからのマスコット的人気もある。ロボットはアームを伸ばし、ハル艦長に食事を載せたお盆を渡した。
「ありがとう」
礼を言うと、ロボットは少したどたどしい喋り方で返事をする。
「ドウ、イタシマシテ」
ハル艦長は会釈をして去っていく配膳ロボットを見てどこか優しい気分になった。昼食を持ってロジカ記者から一つ空けた隣のカウンター席に座る。
「さて、取材というのは」
ハル艦長の質問に、ロジカ記者ははっとした様子で取材を始めた。
「ではアポなしですが、取材を始めようと思います。艦長、よろしくお願いします」
「よろしく」
双方会釈をして、ハル艦長はサンドイッチを、ロジカ記者はペンを片手に取材が始まった。
「今日は艦長が初めて戦いを経験されたときのことをお聞かせ願いたいのですが」
ロジカ記者の質問はかなり重い内容であった。ハル艦長は当惑しながらも質問に答えるため、記憶を総動員する。
「わかりました」
「では、まずは艦長の軍歴で初めての戦闘の概要を、機密上問題のない範囲でお聞かせください」
ハル艦長は彼女が士官学校を卒業してすぐに配属された第587号哨戒艇で、ブリッジ要員として経験した小規模な戦闘を思い出した。
「六八八九年の十二月、私が艦隊司令部から遠く離れた属領や自治領との接続空域で哨戒をしていた仮装巡洋艦『オーダスⅣ』から出撃した哨戒艇の船橋士官として、監視通路で配置についていた時のことだ。私は左舷側の監視通路にいた。そして艇の進行方向に対して斜め前方を見た際、艇の高度と同じかやや下の方にある雲の影に不審な……光の反射のような発光を見つけ、船橋に報告した」
少し目を伏せながら話を始めたハル艦長に、ロジカ記者は感心した様子で言った。
「そんなものによく気づくものですね」
「ああ、艦隊士官学校で見張り技術は叩き込まれたからね。生き残るためには一番必要な技能だと聞いていたが、まさにその通りだった。直後、チェーンソーを鉄板に当てたような、耳障りな音とともに重機関砲が掃射され、窓に穴が開いた。窓から目を背けた時には、横に立っていた士官は既に床にうずくまっていた。飛んできた窓の破片が右目辺りに当たったのだと、瞬時に気づいた。私はそれを見ながら、怯える間もなく薄いながらも装甲板があることを思い出し、咄嗟に監視卓の下にもぐった。すぐに『装甲板の外にある監視通路から退避せよ』という指示が出た。体の中で動きの軸がぶれるような感覚に襲われながら、船橋装甲板の内側に退避しているときには、すでに敵に捕捉されたのだと悟っていた」
「怖いものでしたか」
「もちろんさ、あれが怖くない奴はただのバカか実戦経験者だけだ」
ロジカ記者の質問に、ハル艦長は少し興奮した口調で答える。ロジカ記者はメモを取り終えると、「続けてください」と言った。艦長はサンドイッチを一切れ口に運んで咀嚼し、足を組みなおすと、再び口を開く。
「撃ってきた相手は反ムガロ連合の工作船だったらしいが、その時は何もわからなかったし生き延びるのに精一杯だった。その時点では、哨戒艇は百八十ミリ自動砲で応戦しながら敵の射撃を回避していて、状況は劣勢に近かった。だが、数分もしないうちにこちらが優位に立つことになった。自動砲による反撃が命中し、敵の重機関砲をつぶしたのを境に敵船は逃げ始めたんだ。だが、敵船は我々の射撃で既に速度が落ちていたので簡単に接近できた。少し安心して艦橋に立っていた私は、哨戒艇が敵船に接近し、移乗できる距離に到達したと艇長から告げられた。どういうことかと聞き返すと、敵船への移乗攻撃訓練を受けている私が、移乗臨検隊の一員として適任であるという意味だという答えが返ってきた」
「そんなことって実際にあるものなんですね」
「ああ、宣伝映画ではよく見る展開だが、実際に見たり聞いたりしたのはよりにもよって自分が経験することになったこの一回だけだ。当然驚いたが、命令だ。拒否権などあるはずもなかった。私は敬礼して、移乗の準備を始めた」
ロジカ記者がメモ帳のページをめくるのに手間取っているのを見たハル艦長は、そう言ったあと一旦話
すのをやめた。




