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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
六 白昼のトップニュース

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第35話 初陣のエピソード

 メモ帳に記録を続けていたロジカ記者は、黙ったままハル艦長に話を続けるよう促した。艦長は頷いて、話を再開した。


「ボディアーマーとヘルメット、飛行用のジェットパック、さらに防弾面をつけ、私は突入用のドア破壊機材とサブマシンガンをひっさげて敵船に突入した。私は最初に突入する一団の指示を受け、ドア破壊機材を設置してドアから離れた。遠隔操作でドアをぶち破ると、敵の銃撃が肩をかすめ、続いてヘルメットの頂点で跳弾した。私はドアの陰から半身を出してサブマシンガンで制圧射撃を行い、機関銃か何かで撃ってきていた敵兵を一人打ち倒したが弾が切れてしまった。私が弾倉を交換している間に私の後ろに控えていた兵たちが私を追い越して突入していくと、敵船は自爆を試みたようで警報音が鳴り始めた」


「突入された工作船が徹底抗戦の末に自爆した、といった話はよく聞くものですが、移乗している最中に自爆されてよく無事でしたね」


「ああ、私は幸いにもまだドアのそばに立っていたから助かった。雪崩を打って出てくる兵士たちの邪魔にならないよう、なるべく急いでジェットパックを起動し船外へ逃げた。私の後ろにジェットパックを起動した数名の兵士たちが追いついてくるのが見えたところで、敵船はドアから出てきたばかりでジェットパックを起動できていない数名の兵士を巻き込みながら爆発した。私は彼らをできるだけ見ないようにしながら、炎上しながら雲を突き抜け沈んでいく敵船の残骸から離れて哨戒艇に戻った。直後、突入した者は私や脱出に成功した数名のようにドア付近にいた者以外みな死んだと知らされた。『君はかなり幸運だった』と言われたが、その時はまだ興奮のあまり実感はなかったよ。だが、その日の夜は手が震えて、水も飲めなかったね」


 ハル艦長がゆっくりと語るのを、ロジカ記者はメモ帳に書き留める手を素早く動かし、頷きながら聞いていた。ロジカ記者は次の質問をしようとして口をパクパクさせたが、思いつかなかったのか言葉はなかなか出てこない。


「情報量が多すぎたかい?」


 そう問いかけるハル艦長に、ロジカ記者は「圧倒されてしまって」と答えたうえで続けた。


「それにしても最初からえげつないですね。哨戒艇の任務はそんなに危険なものなのですか?」


「まあ、そうだな。哨戒艇で一度敵と遭遇して生き残る確率は乗員の死亡数から計算すると半分より少し多いくらい、二度敵と遭遇して生き残れる確率は単純計算で三分の一に満たないというのは哨戒隊では有名な話だ」


 ロジカ記者は少し手を震わせながらメモを取っている。


「やめようか? 怖がらせるつもりはなかったんだが、今の君には十分なダメージを与えてしまっているようだ。また時間を置いて……」


 ロジカ記者は首を横に振った。


「いえ、続けてください。私は大丈夫です、こういう話を聞くのが仕事ですから。ちなみに、艦長が哨戒艇に乗っていた頃は何度敵と遭遇したことがあるんですか?」


 ハル艦長は感心しながら話を続けた。


「その一回と、中尉に昇進して艇長になってから、海賊船を攻撃して返り討ちに遭った同じ小隊の哨戒艇を救援しに行ったとき、合わせて二回だな」


「それはどの程度なのでしょうか?……多いほうなのか、少ないほうなのか、という意味です。艦長が哨戒隊にいたのは一年とお聞きしましたが」


「そうだな、運がいいのか悪いのかは知らないが一年間で遭遇した数としてはかなり多いほうだよ。平均的な哨戒艇……いや普通なら二年に一度遭遇するかしないかくらいじゃないかな」


「私は、国境防衛線の哨戒艇はもっと頻繁に敵と接触しているのかと」


 ロジカ記者が驚いた様子で感想を述べると、ハル艦長は首を横に振りながら言った。


「そんなことはないさ。哨戒艇部隊は多くの艇を持っているが、それは哨戒艇からは敵艦が見つかりにくいということを指す。それに哨戒母艦の哨戒機飛行隊のほうが敵艦と遭遇する確率は高いんだよ。哨戒艇の主な任務は必要十分な射撃兵装を使用して、遭遇した敵の小型工作船や空にはびこる海賊船の類を撃破ないし拿捕すること。だが敵の大型艦と遭遇してしまったら、つかず離れずの距離で相手を視認しながら追跡し、なるべく相手に気づかれないようにしながら取得できた情報をできるだけ長く送り続ける。それが任務であり、達成すべき至上目標だということは、わかるね?」


「はい、それは聞いたことがあります」


「気づかれてしまったら最後、敵を取り逃がさないように追跡する味方艦が敵艦隊に追いつくまで、絶え間なく敵艦から吐き出される射撃の嵐をかいくぐって触接し、情報を送り続けるよりほかにない。哨戒艇の最大船速程度では逃げても簡単に追いつかれ、あるいは沈められてしまうからね。哨戒艇の主要部分に施される装甲は、ある程度は敵艦隊の砲撃に耐えられるよう頑丈に作られている。砲塔をぶち抜かれたりブースターを撃ち抜かれたりしない限り小艦艇の攻撃で沈むことは、滅多にない。そんな哨戒艇でも、敵艦隊への触接を敢行し電波を思いっきり発信して敵の位置を全軍に知らせながら幸運な一割として生還できたものは殆どが沈没寸前で、スクラップが浮かんでいるような有様だ。私が哨戒艇に乗っていたころは敵の大型艦二隻以上からなる艦隊に遭遇した哨戒艇の生還率は一割を切っていた」


「となると、艦長は何度か僚艇が沈むのを見たことがある、ということですか」


 大きく頷いたハル艦長の様子は少しコミカルに見えた。それにもかかわらず、ロジカ記者にとっては逆にそれが恐ろしく感じられた。

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