第33話 新聞屋の仕事
艦長はそっとムガロポリスニュースポストの一面記事に目を落とす。一面を飾るのは国内でのトップニュース、産業各界にパイプを持つ大物政治家カカジ・オールデン氏に絡む公共事業で贈収賄が発覚した後、芋づる式に余罪が発見され大問題になっている件についての新しい情報だった。
「軍需産業複合体の仕事には無関係だとは言っても、政府にとっちゃあこの不祥事は痛いよな……」
そう独り言を言いながらハル艦長は新聞記事を読み進めていった。過去にカカジ氏個人の政治判断に対して批判的な態度を取った人物を社内中枢へ昇進させた後、事業許可を取り消された二社が事業許可取り消しの是非に関して再審査を要求するということだった。一社は本来中規模ゼネコンだった建機貸し出し業者、もう一社はセメント製造を第二主力業務としていたが、一年前からセメント部門が営業停止になってしまった地方物流を担うそれなりの大企業である。両社の事案は当時それほど大きな話題にはならなかったが、今になって繋がりが指摘され始めているという。なるほど、一面記事としてはとても面白いなと思いながらハル艦長は新聞をめくり、社説を見ていく。社説を書いている記者の論調はかなり強火であり、「当時国土保全大臣であったカカジ氏が二社の事業許可を裁定できる立場にいたのは明確である」「カカジ氏はすでに退陣しているが、法廷闘争は免れないだろう」などと書き立てているが、見方を変えればその筆致からは慎重論がうかがえた。大衆紙としての立場を保つためには必要な技術なのだろうが、やはりプロの記者というのは凄いものだ。ハル艦長は紙面をめくり、三面記事に目を落とした。
三面記事には「真夏の夜の悪夢! 首都第二環状線貨物列車暴走事故の疑問」として一か月以上前の八月二十三日に、首都ムガロポリスの外縁交通公社が運用する第二環状線で起きた貨物列車暴走事故が特集されており、四千トンの貨物列車がサイドブレーキを掛けられたまま無人で流転し暴走した原因については不明で事故調査委員会が動いていること、暴走した列車と同じ編成の貨物列車は現在も運行がされていないこと、脱線を防いだのは決死の覚悟で列車を前後から挟んで制御した外苑交通公社社員の努力であったこと、機関車自体のシステムは正常だったことが書き立てられていた。直接的な被害は軽傷者一人にすぎないこの事故の影響が、いかに大きかったかを示すのには十分な記事である。一時間ほどかけて一気にすべての記事を読み終えると、ちょうど上甲板勤務の下士官が、艦内に戻ってきていたロジカ記者がメモ帳を片手に持って待っていると伝えに来たところだった。時刻は十二時を回っている。ハル艦長は取材を受けてから昼食にするかと考えてスケジュールを確認したが、十四時以降がかなり立て込んでいたので取材を受けながら昼にすることを検討し始めた。
「して、いつ向かわれますか」
そう問う下士官にハル艦長は「すぐ行く、持ち場に戻ってくれ」と答えて艦橋を降り、取材スペースとして用意した艦内サロンに向かった。ハル艦長は扉をノックしようとして、廊下の向こうから歩いてくるロジカ記者に気づき会釈をする。
「あと一時間半くらいは時間が空いているから、その時間で済むならそれでお願いしようか」
「ではお願いします」
「わかった。昼食は済んでいるのかい?」
ロジカ記者は黙ったままうなずいた。ハル艦長はサロンの扉を開けると、長いカウンター席に置かれた椅子に座る。
「私は昼食を取りながらでもいいかい」
ハル艦長はそう尋ね、ロジカ記者がうなずく。艦長は士官用食堂に連絡を入れると、自分の昼食を送ってくるよう指示した。
「では、昼食が届くのを待ってから取材に入らせていただきます」
ロジカ記者はそう言って席に座り直し、ハル艦長は少しの間タブレット端末を確認する。新たな仕事の割り振りは特に確認できなかったので、ハル艦長はタブレットを置いて昼食を待った。




