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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
六 白昼のトップニュース

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第32話 手待ち時間の始まり

 無礼講の翌朝、ハル艦長はいつもより少し遅く目を覚ました。普段とは違う目覚まし時計の音色で目覚め、慌てながらも士官服に着替え艦橋を目指す。


「艦長、おはようございます」


 マクノス航空主任は疲れ果てた顔で挨拶をして、間近に迫った定時を待つように腕時計をちらちらと見ながら引き継ぎメモに引き継ぎ事項を記入している。定時になると、マクノス航空主任は喜びに満ちた顔で敬礼して艦橋を出ていく。


「お疲れ様。よく寝て次の勤務に備えてくれ」


 ハル艦長はマクノス航空主任を(ねぎら)うと、艦長席に座った。


「さて、出港時刻は十月二日の午前十一時だ。それはそれとして、本日二時間後の十時までには各部署は通常職務に移るように」


 ハル艦長はそう伝達すると、艦長席の個別スクリーンに映る各艦の状況を見た。高速母艦二隻を率いる重戦闘母艦インドラはドラヴィダルストに入ったところであり、シャクラは無線封鎖に入った時には第二層空中大陸に到達し、アヴァターラをはじめとした支援艦隊が待つこの秘匿施設へ向かっているところだった。


「予定通りだな」


 ハル艦長は独り言をこぼして、艦長席から立ちあがった。施設管理部に新聞を取りに行くためである。桟橋につながる扉の前までの階段を降りて廊下を進んでいくと、艦内は通常状態に戻りつつあった。艦内を出て、作業灯の放つぼんやりと青白い光に照らされる桟橋を渡ると、まるで真夜中の港であるかのように感じられた。


「この基地はずっと真夜中なんだな」


 そんなことを考えながら、ハル艦長はなるべく音を立てないように桟橋の渡板の上を歩く。艦橋の窓から漏れる光が輝いているのを見て、艦長は灯火管制の重要性を改めて感じた。確かに港湾内作業灯の下でこれほど明るいなら、本当の真夜中、星明かりとなった天球の明かりが雲で隠れた完全な暗闇では恐ろしいほどに、そして致命的なまでに目立つだろう。


「上陸許可は」


 桟橋の管理官直属として桟橋の検問に立つ衛兵の一人がそう言うと、ハル艦長は首を横に振った。


「ない。アヴァターラのハル艦長だ、新聞を取りに来た」


「ハッ、失礼しました。どの新聞になさいましょうか」


 急に畏まって質問する衛兵に、艦長はいつも読むハーバル日々新報にするかパノラモート経済朝報にするかと少し悩んでいたが、そこではたと思い出された新聞社名を発した。


「そうだ、ムガロポリスニュースポスト紙の朝刊はあるか」


「はい、もちろん。お持ちしますね」


 衛兵がそう言って詰所の要員と交代し、新聞紙を取りに向かうと、しばらくしてハル艦長の背後からずっしりとした足音が聞こえてきた。振り返ると、足音の主はロジカ記者であった。


「ロジカ君、ここにいてもいいのかい」


 ハル艦長の質問に、ロジカ記者はうなずいた。


「ああはい、従軍記者会から呼び出しがあったので。第三会議室に向かえと言われまして」


「そうか。じゃあ上陸許可は出ているんだな」


「はい」


 頷いてから会釈をして、何かを取り出そうとカバンの中を探ったロジカ記者は、ハル艦長のほうに向きなおって尋ねた。


「用事が終わったら取材をさせてもらっても構いませんか?」


「ああ、もちろん」


 ハル艦長はそう言うと、衛兵が持ってきた新聞を片手につかんで桟橋を進み、艦内へと足を踏み入れた。ロジカ記者は衛兵と話していたが、やがて桟橋の検問所を通って補給基地の陸地側、暗がりの中で明るく照らされる基地施設の防護扉の向こうへと吸い込まれていった。


「記者というのも大変だな」


 艦橋に戻ったハル艦長は、基地施設の会議室が置かれた棟の窓に明かりが灯るのを見てつぶやいた。

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