第31話 祭りの終わり
チャンスを待つうちに迎えた五ゲーム目、艦長のチップ総額は四百二十、全体で三位。パフェが食べたいハル艦長は、勝負に出ることにした。艦長の手札はダイヤの三と四で、場札はハートの七、クラブの九、スペードのクイーンである。直接対決になればほぼ確定で敗北だが、心理戦を制すれば十分勝てる見込みがある。スモールブラインドとビッグブラインドが参加費を出し、戦いが始まった。一回目の意思表示では誰も降りず皆が緊張したまま額面八のチップを出し合っている。そして、四枚目の場札にハートのエースが出た後で、ビッグブラインドになっていた兵とスモールブラインドになっていた准士官が賭けを降りた。
「上乗せします」
五枚目の場札にスペードのジャックが出た直後、ビッグブラインドの次、ハル艦長の直前にいた機関科兵が出していたチップに加えて、額面百のチップを四枚出して言った。艦長は落ち着き払っているように装いながらチップを数え、その賭けに乗る。
「私も四百を出す」
その行動を目にすると、隣にいた電算科下士官は手元に残るチップとにらめっこを始めた。そして、少しの躊躇とともにそのすべてを前方に押し出す。
「全賭けします」
「ここでサイドポットの説明、ですか」
内心驚いているのを何とか隠そうとしているハル艦長を顧みて、砲術士官が少し意外そうな顔をした。彼女は電算科下士官が出した百五十チップを手元に置き、説明を始める。
「全賭けで出されたチップの総額が百五十で、艦長と機関科の彼女が出したチップはそれぞれ四百です。また、二週目までに出たチップ額の合計は四十七ですので、まずは電算科の彼女が出したチップを基準に参加人数の三をかけた四百五十チップがメインポットとなります。そのうえで、残りの五百四十七チップがサイドポットとなります。この三百は、艦長と機関科の彼女の二人が取りあうこととします。二人のどちらかが一番勝っていれば、その方がサイドポットとメインポットを合わせた九百九十七チップを総取りできます。しかし電算科の彼女が一番勝っていれば彼女がメインポットのみを獲得し、艦長と機関科の彼女の二人のうち役が強い方がサイドポットを獲得することになります。さて、全員が続行すれば三人での直接対決ですが……お二人とも続行でよろしいですね?」
二人は無言でうなずいた。もう後には引けない。艦長は機関科兵の手札が二と三であってくれと祈っていた。
「では、直接対決といきましょう。手札を開けてください」
全員が手札を開示した直後、ハル艦長は顔から血の気が引いていくのを感じた。機関科兵はハートのジャックを持っており、場札にあるスペードのジャックと合わせてワンペアだった。自分はノーペア、ハイカードは四。そして、電算科下士官の手札はダイヤの二とクラブのキング。場札のクイーン、ジャック、エースと合わせてストレートである。
「おめでとうございます、あなたが最強です」
機関科兵にサイドポットの五百四十七チップを渡して、砲術士官が微笑む。ハル艦長は機関科兵に拍手しながら、パフェは自腹で食べればいいと思い直して笑っていた。機関科兵は満面の笑みで、砲術士官に具体的な予算を尋ねている。やがて会はスイーツ談義になり、一番おいしいスイーツについての討論が始まった。
「艦長はどう思います?」
「私? パフェにつられて参加したのにパフェより勝るものを贈呈するわけにはいかないだろう」
「あるんですか?」
「ああ、シリアルが入ったパフェよりはプリンかコーヒーゼリーのほうが好きかな」
「艦長、シリアル入りのパフェなんておごられる側からしたら拷問になりかねませんよ。中途半端にふやけて、奥歯にくっつくようなシリアルが嫌いな人は意外とたくさんいるんですから。あれはパフェの範疇に入れるのをためらってほしいところですね」
「そうなんだ? じゃあ果物とクリーム系のパフェだなあ……」
そんな議論が数十分ほど繰り広げられた後に「この会ではパフェが多数派」という結果で討論が決着すると、砲術士官が腕時計に目線を落とした。
「さて、そろそろ日付が変わります。お開きにしましょうか」
砲術士官がそう言うと、皆はタブレット端末で時間を確認して頷いた。時刻は十一時五十五分を回ったところである。
「では私はもう寝ることにする。ありがとう、楽しかったよ」
「お疲れさまでした!」
「みんなも早いうちに休息を取っておくんだぞ」
ハル艦長は休憩室を出て、着替えを取りに自分の居室へと向かう。午前一時にはベッドの中で眠っているだろうと考えながら、階段に足をかけた。




