第29話 ポーカーへのお誘い
食事を終えたロジカ記者は艦長に一礼して立ち去る。艦長は礼を返した後、そのままぼんやりと座っていた。
「艦長、一緒にカードしませんか? なんだかいつもと違って寂しそうですよ?」
一番狙撃砲担当の砲術士官に率いられた女性兵の一団が、艦長のもとに集まってきた。ハル艦長は少し気の抜けた声で「ああ」と返し、ふらつく足を無理矢理伸ばしながら席を立つ。兵たちはすこし心配そうにしていたが、艦長は彼女たちを手で制してついていく。やがて一団は確保してあった士官休憩室の円卓に着いた。四人の兵士たちと艦長の様子を見ながら、砲術士官がカードの箱とチップのケース、それと三枚の円盤を手元に用意して説明を始める。
「ポーカー、様式はテキサスにしたいと思います。休憩室備品の汎用チップと艦隊備品のカードを一そろい使って、全員でゲームを一巡させます。五ゲームやって、最後まで勝ち残った方が最強です。その方には次の上陸のときに私がパフェを奢りましょう。ルールは皆さんおわかりですね?」
ハル艦長はパフェという言葉に目を輝かせながらも、見慣れない三枚の円盤を凝視し首を傾げた。手製らしいその円盤には、それぞれにディーラーボタン、ビッグブラインド、スモールブラインドと書かれている。艦長は首をかしげて、砲術士官に質問した。
「すまない、私は知らないので説明してくれるとありがたいな」
砲術士官は少し驚いた表情で説明を始める。
「ポーカーはご存知ですか?」
「ああ、一応。カードを五枚手元に持って、役を比較する遊びだろう」
「まあ、おおむねその通りです。テキサスは大破壊以前から存在する古式ゆかしいポーカーの一形式です。ゲームの名称に使われている固有名詞は古代に存在した大国の都市名であると推測されていますが、そのあたりの詳しい説明は一旦置いておきましょう。テキサス様式というのは二つの要素で成り立っています。はじめに意思表示による心理戦で人数を減らして、最終的に残った人たちで直接対決を行い勝者を決める、というものです。ともあれ、その説明をする前に、まずはこの三つの円盤の説明をしましょうか」
砲術士官は三枚の円盤を皆に見えるように掲げた。そこにはそれぞれ「ディーラー」「スモールブラインド」「ビッグブラインド」と書かれている。それをディーラー、スモールブラインド、ビッグブラインドの順に並べて、彼女は続ける。
「ゲーム自体には参加せずにカードを配る役であるディーラーが、この「ディーラー」と書かれた、一般的に「ディーラーボタン」と呼ばれる円盤を持つプレイヤーを指名します。次に、ディーラーボタンを指名されたプレイヤーの左隣の人が「スモールブラインド」、そのまた左隣の人が「ビッグブラインド」と書かれた円盤を持ちます。これらの円盤は一ゲームごとに左の人に移動します」
円盤の前にそれぞれ一枚と二枚のチップを置いて、砲術士官はさらに続ける。
「後半の二つの円盤を持った人は参加費として、今回はスモールブラインドがチップを一、ビッグブラインドがその二倍の二を出してもらいます。他の人たちはビッグブラインドが出したチップを基準に、賭けを行っていきます」
そう言うと、砲術士官は机の中央に三枚のカードを並べる。
「ディーラーが場札を三枚出してからビッグブラインドとスモールブラインドが参加費を出し、それから全員で一回目の意思表示を行います。その後はディーラーが追加で場札を一枚ずつ出して五枚にし、場札が追加されるたびに一回ずつ、合計三回チップを出しながら意思表示を行い直接対決する人数を減らします」
「ちょっと待ってくれ、意思表示っていったい何のことだ?」
「意思表示というのは、要は賭けに参加するかしないかを示すことです。もっと端的に言うと、最後以外は賭けに参加するかしないかの意思表示になりますね。具体的には、賭けに参加する意思がある場合は単に前の人と同額のチップを出して賭けに乗る、前の人より多くのチップを出して掛け金を上乗せする、という二つの行動から選択することになります。賭けに参加したくない場合は、チップを出さずに賭けを降りることになります」




