第28話 従軍記者ロジカ・フリーマン
「艦長は技術復興省の出身とお聞きしましたが、それにしてはずいぶんとお若いようですね」
ハル艦長は少し照れながらも突然振られた会話に乗っかる。
「まあそうですね。ダメ元で研究員養成学校の試験を受けた結果が、技術復興省第一研究所職員の肩書でしたから。まあ今は艦隊士官ですが」
ハル艦長がそう言うと、ロジカ記者の目つきが少し変わった。どことなく何かを疑っているような目で、ハル艦長の顔をつぶさに観察する。食卓に料理を置いたハル艦長も、同じように彼の顔を注意深く観察していた。
「差し支えなければ教えていただきたいのですがご出身はどちらですか? 自分はネーヴェンAX-Ⅲの十二番農業区画なのですが」
「奇遇ですね、私も同じです。しかも区画まで」
ハル艦長の顔に確信の表情がよぎる。ロジカ記者が黙ってしまったのでハル艦長が続けざまに質問を投げかけた。
「ではロジカさんの出身初等学校も十二農区第一初等学校、というわけですか?」
ロジカ記者はうなずいて、ややあってから語り始めた。
「そうですね。三歳のころ反ムガロ連合との間で発生した攻防戦で両親が死んで、六つになってからというもの、毎日のように戦災孤児養護施設から初等学校まで通ったものです。もともと一人息子だったので兄弟姉妹の世話なども必要なくて、さらに親戚との連絡もつかなかったものですから飛び級制度の補助金を頼りに大学まで進学して今に至ります」
半分納得した表情のハル艦長は強まった確信を証明するため、さらに問いかける。
「今おいくつですか?」
「二十五です。童顔なのもあってそうは見えないといわれますが」
ハル艦長はとどめとばかりに最後の質問を振り出した。妹を覚えているのならば、彼はあのとき自分に話しかけてきた少年の成長した姿だ。
「初等学校の同期に、マイ・カランベリという子がいませんでしたか?」
その質問を聞いたロジカ記者はうなずいた。
「お知合いですか?」
「いえ、私の妹です」
頷きながら発せられたハル艦長の言葉に、ロジカ記者は驚愕の表情を浮かべつつ頷いた。
「そうですか、やはりあなたはハル先輩だったのですね。私が最終年次の時に科学講演会に来られたこと、今でも覚えていますよ。メガネはやめられたのですね」
「はい、コンタクトレンズにしたので。ああそうだ、ロジカさんの席はそちらのマクノス航空主任の隣です」
「ありがとうございます」
「そういえば、食事は済ませて来たのですか?」
「いえ、先ほど取りに行こうと思ったのですがすっかり忘れていました」
ロジカ記者はそう言って笑うと、再び兵士たちが群れる食堂の隅へと向かっていった。ハル艦長が彼を待つべく席に着くと、彼はすでに料理が多めに盛られた皿を手にしてこちらに戻ってきていた。ハル艦長がその皿をじっと見ていると、ロジカ記者が言い訳をするように口を開く。
「昔から、食べられるだけ食べるようにしているので。そうしないとなんだか不安なんです」
「なるほど。体調には気を付けてくださいね」
その言葉を聞きながら、ロジカ記者は椅子に腰かけた。二人は先ほどまでとは一転し、沈黙したまま料理を口に運んでいく。静かに食事をする二人の脳裏には、血染めの瓦礫、ハル艦長とその妹の過ごした悲惨な幼少期、天才と呼ばれた少年の孤独といった、幼子からみた戦争のすべてが去来する。二度と忘れられないであろうその鮮明な記憶を想起しながらも、これからくぐるであろう死線の数々を思うハル艦長の胸中には、名状しがたくも懐かしい、今の自分の原点となった決意にも似た思いが渦巻いていた。




