第27話 従軍記者の来訪
ネタがすべて終わり、爆笑とともに舞台を降りたハンニルズに代わって軽快な音楽とともに舞台上に現れたのはマクノス航空主任であった。軽妙な歌詞をラジカルかつシニカルに歌う音楽に合わせた軽快な動きは見ていて安心感すら覚えるほどである。しかしながら、よく考えてほしい。否、よく考えなくても踊っているのはツルツルの禿げ頭に軍帽を載せた初老の士官である。誰がどう見ても異様な光景なのだ。それなのに不思議と、その姿はとても格好良く見えた。
「航空主任、輝いてるな」
「そうだな。しかし戦艦の操舵から歌やダンスまでできるなんて、芸人やったほうが良かったんじゃないか?」
「もう少し若ければアイドルになれたかもしれないよな」
「今からでも芸能界デビューしてみたら数年内にはギャラで食べていけると思う」
「それな」
「なんでそうしないんだろう」
そんな雑談をする電算士官たちに、航空主任の下で働く航空科の士官が小さな声でツッコミの言葉を投げかける。
「あの人は自分の居場所はいつまでも船の上だって言ってたし、現に取らなくてもいい責任を取ってアカデミー教官をやめてここにいるんだぞ」
兵員たちが盛り上がる中、ハル艦長の隣の席にいつの間にかステージ衣装から略装に着替えたヴォロス副長が座る。拍手とともに航空主任が退場したあと皆が眺めるステージには、従軍記者としてアヴァターラに乗る記者が一人、自己紹介に出てきていた。
「夕食会の最中に失礼します。皆さんはじめまして、そしてこんばんは。|ムガロポリスニュースポスト《M N P》から派遣されましたロジカ・フリーマンと申します。今から四年前の六八九一年三月に首都第三大学大学院修士課程を卒業し、ムガロポリスニュースポストに入社しました。この度この拠点からこのアヴァターラに乗り、従軍記者として今次作戦行動の様子を取材し記事にすることになりましたのでよろしくお願いします。記者以外に小説家として本も出しているので、もしかしたら皆さんの中にもご存じの方がいらっしゃるかもしれませんね」
ヴォロス副長は入港時に港で待機していた連絡官が言っていた記者だと気づいてぼそりと声を発した。
「艦長、従軍記者というのは連絡をしない生き物なのでしょうか」
そう言ってヴォロス副長がハル艦長の方を見ると、ハル艦長の視線はステージの記者の方へ釘付けになっていた。
「では皆さん、三か月という短い間ですがよろしくお願いします」
自己紹介を終えた記者がステージを去ると、兵員たちは二食目の夕飯を欲してカウンターに並び、ハル艦長は白平パンを求める列に混じって白平パンを獲得してから挨拶のためにロジカと名乗った青年記者を探した。彼は会場の入り口からほど近いところで兵員に囲まれ、質問攻めにあっているところだった。
「記者さん、あんたいくつだ」
「そうだ、二十六で卒業にしても三十やそこらにはとても見えないね」
「ペンネームはなんだ? よかったら教えてくれよ」
「首都第三大学のどの学科を出てるんだ?」
「従軍記者は初めてか? 前に乗った船があるなら教えてくれよ」
「首都の新聞社から来たんだろ、住んでるのはどの辺りなんだい?」
ロジカ記者は次々に投げかけられる質問に答えようとしていたが、ついに諦めたのか新品のメモ帳を取り出した。その表紙にペンで「質問帳」と書き入れて、彼は声を張り上げた。
「これを置いておくので、質問したいことがあったらここに書いてください。艦長に許可を取ってから、回答を書いたものを廊下に張り出させていただきます。あと、私はまだ夕食を食べられていないので失礼します」
彼はそう言うと、入口から奥に進もうと兵士たちの間を縫って突き進んでいった。質問帳を入口近くの小卓に置いてから食堂ステージ側にある艦長の席に近づいていく彼に、ちょうど席に戻ってきたハル艦長が話しかける。
「ロジカさん、よろしくお願いしますね」
ハル艦長がそう言うと、記者は振り向いて頭を下げた。
「艦長、よろしくお願いします」




