第26話 伝統的お笑い芸人
ボディビルの演目が終わり、マットが撤去された舞台では、ヴォロス副長とティカ機関主任がマイクスタンドを挟んで並んでコントを始めた。
「どうも、ハンニルズのヴォロスです!」
「ティカです! よろしくお願いします!」
頭を下げた二人がまだ頭を上げ終わらないうちに、ティカ機関主任がネタ振りを始めた。
「そういえば皆さんですね、ハンニルズという名前についてどう思われました?」
ボケ担当のヴォロス副長が礼をする頭を跳ね上げてボケ始める。
「我々、二人とも苗字がハンニルなんですよ。だから我々、ハンニルズなんですよね」
「嘘だあ」
すっとぼけるようなジェスチャーをしたヴォロス副長が、突然真顔に戻って言う。
「嘘です」
「早い早い、ネタバラシが早い」
ティカ機関主任の電光石火のツッコミに、会場からは拍手が響いた。
「嘘は下手なので」
「なんでそれで嘘なんかついたの」
「コントに正しい説明なんて不要ですので」
「そんな極論捨てちまえ」
ヴォロスが首を傾げ、わざとらしく疑問を投げる。
「でもコントでマジレスしてもつまらないでしょ」
「ならなんでさっきマジレスみたいな嘘ついたの? いらないよ、それ」
「適当なスタイルでやっております、改めまして我々、ハンニルズです。それではコント、『始まらない』」
観客席が期待のまなざしを向ける中、二人は十秒ほど沈黙を続けた。ティカ機関主任が何度か目配せをしても、ヴォロスは無言で棒立ちのままである。
「どうしたの」
しびれを切らしたようにティカ機関主任がツッコむと、ヴォロス副長は悪びれもせずに応じる。
「いや、待ってくださいよ。『コント、始まらない』ですよ」
「いや始まらないってそういうこと? お笑い芸人の真似事をする必要あった?」
「それは前の艦長がお笑いを伝統行事にしたからですね」
「そんな伝統も捨てちまえよ」
観客席から空気が抜けるような絶妙な笑いが聞こえる。
「それは私も思ってるんですが」
「漏れてる!」
「えっ、何がですか?」
ティカ機関主任のツッコミに、ヴォロス副長が目線を上下左右に大げさに振り回す。ティカ機関主任は口元を指して言った。
「本音だよ」
「えっ? 今『ペンねえ』って言いました?」
ヴォロス副長のボケが再び始まる。
「言ってないよ。お耳大丈夫?」
「ペンがないなら貸してあげましょう。はいどうぞ」
そう言うと、ヴォロス副長がペンをどこからともなく取り出した。
「なんで持ってんだよ」
「ハル艦長から教えてもらったんです」
「手品か」
ハル艦長が自分を指さして首を傾げるところに、スポットライトがあてられる。観客席は再び爆笑に包まれた。
「だからティカさん、これ持って『ペンねぇ』、ってやってくださいよ」
「だからってなんだよ、妙な節付けてペンねぇってやらなくたっていいだろ」
「じゃあここをこうして『変ねぇ』、でもいいですよ」
ヴォロス副長がキャップを取ると、ペンの中からハンカチが出てくる。
「手品のネタバレはしないであげて」
「種も仕掛けも捨てちまえって?」
「誰も言ってないよ」
「でも手品ですよ」
「なんで種も仕掛けもあることになってるんだ、手品だよ? 言っちゃだめだよ」
「え、手品って種も仕掛けもないんですか」
「あるって言ったのはそっちじゃん?」
「じゃあこの仕掛けと……あとこの種は存在しないってことですね」
ヴォロス副長が懐からビニール袋に入った市販の園芸用種子を取り出す。
「それなんの種?」
「笑いの種です」
「じゃあ蒔いておくか……ってそんなわけあるかーい」
会場内に笑いが巻き起こる。ハル艦長はスープを危うく吹き出しかけた。ボケとツッコミが暴れまわる絶妙な塩梅には流石としか言いようがなかった。
「どうも、ありがとうございました」
ハンニルズの二人がお辞儀をして舞台袖にはけると、次の演目の準備が始まった。次はマクノス航空主任の担当演目である。




