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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
五 ブレイクタイムの無礼講

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第25話 楽しき宵の始まり

 アヴァターラでは、夕食会のために臨時の大食堂の準備が完了していた。夕食会は必要な当直員を交代で捻出しつつ、全乗組員が参加することになる都合上、三千名に迫る乗組員たちのうちでも最大で実に三分の二、二千人の乗組員が一堂に会する一大イベントである。そのために隣接する艦内の兵員食堂二つの壁面隔壁を取り払って一つの部屋となし、二千人の士官と兵の場所を確保している。椅子や机の固定位置を変えての再配置が完了した大食堂で、夕食会と称する無礼講が、ハル艦長の就任以来二回目となる挨拶で始まったのは午後八時のことだった。


「乗組員の皆さん、今夜は士官も兵も、艦長も何もありません。それが許される楽しい夜です。精一杯楽しんで、そして明日以降の戦闘を生き抜く力に変えてください!」


 挨拶をしながらハル艦長は手に持っていたおもちゃのマイクを鳩に変えた。観客席に座るラタン軍医長が、自分の膝の上で猫が尻を振り始めているのに気づき、慌てて猫用のおやつを取り出していた。ハル艦長は手を振って鳩を飛び上がらせながら言葉を続ける。


「この鳩はこの基地の司令部からお借りしてきました、非常用・広報用伝書鳩のナットくんです。基地司令部の皆様にはこの場をお借りしてお礼を申し上げます」


 鳩は再びハル艦長が差し出した左の掌に止まった。そしていつの間にかくわえていた枝をハル艦長に渡す。ハル艦長は右手で枝を握りこみながら鳩を肩に移し、枝を握ったはずの右手からハンカチを取り出して汗をぬぐった後、「ご清聴ありがとうございました」とあいさつを締めくくった。乗組員たちから拍手喝采が巻き起こる。


「すごい!」 


「あれはかなり練習したな」


「前回は手品がスベり倒して、かなり気にしてたもんな」


「あの時は副長も大変そうだったよなぁ」


 演壇から降りてガッツポーズを決めるハル艦長を微笑ましく見る乗員たちには早くも楽しげな空気が流れはじめた。


「続いてヴォロス副長とティカ機関主任のコンビ『ハンニルズ』による漫才です。それではどうぞ!」


 客席に戻ったハル艦長は白平パンを千切ってクリームシチューに浸し、口に運ぶ。視界の端ではラタン軍医長が世話をしているネズミ駆除とセラピーを担当する猫たちが、軍医長からパウチタイプの魚肉ペーストを与えられている。最前線の野戦病院帰りで腕利きながら普段から険しい表情をしているラタン軍医長が、最大級に優しそうな表情で猫たちを眺めている。その光景の珍しさに、ハル艦長の目は釘付けになっていった。猫たちはよほど美味しいのか夢中でペロペロと舐め、目を輝かせている。


 演壇が撤去された簡易ステージでは、チトセ砲術長以下数名の筋肉自慢の士官たちが黒いマットを展開し始めた。演目が描かれた『捲り』が置かれ、『砲術長プレゼンツ ボディビル部発表会』の文字が書かれた一枚目の捲りが食堂の中ほどに置かれたモニターに大写しされると、兵員たちから黄色い歓声が上がった。重厚かつ力強い古典調の壮大なBGMがドラムロールとともに始まり、まずは砲術長以下の砲術科員四人が舞台に上がった。筋肉を披露する彼らに、食堂に詰める兵員たちから掛け声が飛ぶ。


「肩にちっちゃい重機が乗ってるぞ!」


「鉄の身体は軍務の嗜み!」


 熱気を帯びる会場は、普段の様子とは比較にならない密度と活気をもって轟いていた。

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