↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
四 浮遊要塞撃破準備

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/37

第23話 得心

「暗号化ファイルを電算室に回せ! なるべく早く再構成して復号し、検討に回すんだ」


 ハル艦長の命令に従って、受信した暗号化されたデータは電算室の解読専用電算機に入力された。


「本艦の持つ鍵暗号式を使う正規の手段で処理すれば一時間で再構成して復号できます」


 電算士官はそう発言し、電算機を操作して処理を開始した。一ミリ秒間に平均十手順の解読操作を行うアヴァターラの電算機がデータの解読にこれほどまでの時間を要する事例はほとんど存在しない。それだけ複雑な鍵処理がされているのだということが分かるとともに、否が上にも膨らむデータへの期待を胸にしながらチトセ砲術長は、休憩室に向かうハル艦長を見送った。


 日付は変わり、時刻は九月二十九日の午前一時になっていた。


「本日午前一時二十分、時計合わせを行った後、位置の秘匿のため艦隊の無線を封鎖する。一切の高出力電波は発信を停止し、以後別命あるまで発信を禁止する。近距離用敵味方識別応答装置(I F F)

外の無線機は一時二十分より発信を禁ずる」


 ヴォロス副長が艦内放送で下した命令に、艦全体が緊張する。


「一時十分、時計合わせ用意。特一級暗号通信で司令部に位置座標を送信せよ」


 航空士官が無言で座標を暗号化し、司令部に送信した。永遠とも思える沈黙の後に、受信機に時計合わせ用の符号通信が入る。時計が合ったことを確認した瞬間、ハル艦長は通信士官に合図を送った。長距離無線送信用アンテナが格納され、短距離無線アンテナの出力もすぐにゼロになる。アヴァターラは電波的静粛を保ったまま第一層空中大陸への航路を途中で外れ、ジグザグの警戒航行を行いながら艦隊合流地点S2-F36への到着を急いでいた。


 一方砲術科に待機命令を出したチトセ砲術長は、待てど暮らせど届かないデータに痺れを切らし、何度か電算室の士官を急かそうかと考えたほどだった。一時間以上経過してもまったくデータが届かないとなっては、いら立つほかない。


「すみません、再構成終わりました!」


 チトセ砲術長のもとに電算室から復号済みのデータが届いたのは、午前三時を回ってからであった。


「復号内容の検証にかなり時間がかかりましたが、復号できました。お待たせして申し訳ありません」


 頭を下げる電算士官に、チトセ砲術長は最敬礼をもって応えた。


「砲術科計算班、ITMS-3シミュレーターを地中貫通爆弾シミュレートモードにセットして、電算室から届いたデータをもとに格納庫天井部防護装甲の向こう側で発生する衝撃をシミュレートせよ。格納庫内部容積は反ムガロ連合の重爆撃機EMB-32が駐機できるサイズとし、装甲の厚さはデータにある通り反ムガロ連合が加工可能な最大限と想定せよ。まずは刺さるかどうかから計算だ」


 砲術科の士官たちは活気をもって計算にあたり、考えうるすべての可能性をシミュレートした結果、次のような確率が算出された。


一、地中貫通爆弾が格納庫天板を貫通する確率は四十五パーセントであるが、有効衝撃発生深度以上の深さまで格納庫天板に突き刺さる確率は百パーセント。


二、地中貫通爆弾が貫通した場合は敵の全機種が問題なく破壊される。また、貫通しなかった場合でも敵の全機種が圧壊、もしくは飛行不可能に陥る程度の損傷を受ける。


三、滑走路のような施設についても衝撃でひずみが発生し、航空機の帰着はおろか発進すらも不可能となる。


四、爆発点から半径二百メートル以内にある対艦砲、およびその他の武器システムも回路の故障により短時間は使用不可能状態となる。また、半径二十メートル以内の対艦砲などの武器システムは再起不能となる。


五、敵要塞上面すべてを武器システム含め、再起不能となる威力効果範囲に収めるには百二十五トン地中貫通爆弾が三万発必要となり、現実的ではない。


 以上のシミュレーション結果から、航空機関連施設の攻撃には地中貫通爆弾が適切であると結論したチトセ砲術長は、まとめたデータをハル艦長に提出した。


「ありがとう。これで作戦計画書の通りに作戦が遂行できる」


 翌朝からの当直の際にデータを仔細に見たハル艦長がチトセ砲術長に礼を言うと、彼女は神妙な面持ちで発言した。


「『精密攻撃』とは最初からこのことだったのではないでしょうか。作戦の情報が通信の傍受や解析、書類の漏洩などを通じて外部に漏れないために、我々に対しても書面上では秘匿していたと考えるのが自然です」


 チトセ砲術長はそう言い終えると、ハル艦長に敬礼して発令所から自身の持ち場である砲術指揮所へと戻っていった。通信の傍受や解析はムガロ王国陸海軍統合情報部も日常的に行っていることであるため、手の内がばれるのを警戒するのは当然のことである。ただ、現場としては真意を汲むのにかなり時間がかかるものだとハル艦長は実感したのであった。夜明けにたどり着いた艦隊合流地点S2-F36には、すでに三隻の空中戦艦が待っていた。


「右舷側より発光信号、第五戦隊のヴァルナおよびアンシャのものです。同じく右舷側、第六戦隊のヴァーマナからの発光信号です。IFF確認完了、友軍です」


「よろしい。合流後は作戦指示書に則りヴァルナの指揮板および発光信号の指示に従いつつ艦隊行動を開始する。味方艦隊の合流を待つため巡航速度で現航路を維持、十月四日午前零時の作戦開始に備える。ヴァーマナの後ろにつけ、巡航速度まで加速せよ」


 アヴァターラは発光信号を打ち上げつつヴァーマナの艦尾側安全位置につけ、艦隊に加わった。補給艦も何もかも一切いない短期作戦となっているあたりからも「新戦力の実戦投入実験」の雰囲気が伺える臨時混成機動艦隊は、翌日と作戦開始ぎりぎりに控える残り四隻の合流を待ちながら速力三百十ノットで巡航していく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。