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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
四 浮遊要塞撃破準備

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第22話 作戦読解

砲術指揮所に上がると、チトセ砲術長は既に、壁のくぼみに収まるように折りたたまれている机と椅子を展開していた。簡素ではあるものの頑丈な構造をしている椅子は、がっしりした体格のチトセ砲術長が座っても軋む音すら立てない。ハル艦長は机に作戦要綱を置くと、チトセ砲術長の対面に座り、説明を始めた。


 「今回の作戦では、航空機隊を助けるために敵の装甲された格納庫や航空機発進設備を重点的に破壊し、目標に対する水平距離をかなり詰めたうえで、相対高度にして十キロ以上の高所を飛びながら、主砲や副砲の直射に匹敵する火力投射を行わなければならない。目標の装甲は主砲などの重砲でやっと破壊できるような強度を持っていると推察され、狙撃砲や対地砲程度ではびくともしないだろう。砲術長、本艦の兵装でそのような目標に攻撃を行い、破壊することは本当に可能なのだろうか?」


 ハル艦長は険しい表情で問うた。高空を飛ぶ空中戦艦からはるか下方にある目標へと攻撃を加える、という状況での命中率は、高度差が同じ場合では地図上の距離が近ければ近いほど低下する。船体を水平に保った状態では、主砲や副砲のような強力な武装は十度以上の俯角をつけて発射することはできない。それはすなわち、多くの層で構成される特殊装甲や防御力を高めるために幾重にも施された耐熱コーティング、融解して攻撃を吸収するアブレーティブバルジなどによって地上からの攻撃を一手に食い止め、上部構造の盾となるために構成された大きな船体が地上への大威力砲による攻撃範囲に、大きな死角を生むことを意味する。それ以上下を狙うなら船体を傾ける必要があるが、その姿勢は対空中戦艦砲に対して極めて脆弱となるリスクをはらんでいる。


「爆弾艙と対地下方掃射砲は使えない、という前提でよろしいですか?」


 机に肘をついて額を支え、うつむきながら片手で机の上の作戦要綱をパラパラとめくるチトセ砲術長の言葉に、ハル艦長は大きくうなずく。


「そうだ。言い忘れていたが要件には装甲貫徹力が高いことだけでなく、敵地上方に航空隊が到達するまでに、敵の航空設備を再起不能にできるほどの火力をもつことも求められる。つまり、基地の航空隊施設をピンポイントで破壊できる兵器が必要だ。下方掃射砲では威力不足だし、爆撃では精度が問題だろう。爆撃なんて数発は外れるものだ」


 チトセ砲術長は眼鏡の奥の穏やかそうな瞳の内に鋭い眼光をたたえ、すっかり臨戦態勢である。彼女の脳内では相対しうる堅固な標的を、与えられた制約の中でいかに素早く無力化するかが考えられていた。


「爆弾艙の使用自体は可能なのですね?」


「ああ、爆撃照準器や爆撃センサーも使用可能だ」


 チトセ砲術長の念押しに、ハル艦長は即答した。その瞬間、チトセ砲術長は眼鏡の位置を整えてタブレット端末を取り出すと、爆撃照準器について記された資料とにらめっこを始めた。数分の沈黙の後、チトセ砲術長はとんでもないことを口走る。


「ならばいっそのこと敵空中要塞にぎりぎりまで接近して、重力による加速をかけた地中貫通爆弾を精密投射機から飽和的に投下し、敵の航空機を圧壊させればいいのではありませんか? 見たところ作戦空域は風が弱く、そのうえ読みやすいことで有名なナクロ空域ですから、慣性誘導の地中貫通爆弾でもなんとかなるはずです。それで無理な分は自分が補正して百パーセントに近づけます」


 ハル艦長は訳が分からず一瞬驚いた声を上げたが、すぐに反証意見のようなものを見つけた。砲撃のスペシャリストとして戦略兵器の砲術長を任されているチトセ砲術長が考えていない訳がないような反証意見であったが、とりあえずそれを投げかけてみようとハル艦長は口を開いた。


「待ってくれ、爆発威力で攻撃するにしても敵砲台や敵の装甲板は当然ながら圧壊対策がなされている。爆圧で攻撃をかけたところで航空機の撃破は不可能だ」


 するとチトセ砲術長は分厚い掌を水平に伸ばし、胸ポケットから取り出したペンを爆弾に見立てて身振りを交えた説明を始めた。


「圧力が航空機にかかればそれでいいのです。重力加速度によって最大速度まで加速された地中貫通爆弾は、大抵の装甲板に突き刺さります。貫通しなかったとしても、装甲板表面に刺さるはずです。そうすれば爆発によって生じる振動と爆圧は装甲板を貫通し、直接敵艦の内側を攻撃します。どうなるかはもうお分かりでしょう」


「ああ、人間程度の構造は衝撃に全身を押しつぶされて、さらに爆発直後の減圧に伴って発生する強烈な衝撃波の連鎖を受けムースのような流動体になってしまうような圧力を受けるはずだ。航空機は問題なくバラバラになるな」


 一連の状況を想像して、ハル艦長は身震いした。自分たちがそんな攻撃を受けるなら、それは間違いなく悪夢のような情景である。


「……計算してみないとわかりませんが、恐らくは効果が見込めるでしょう。現在確認されている敵機の情報があれば……特に内外の圧力に関する耐久限界についてのデータが艦隊司令部にあれば取り寄せていただきたい。データを取り寄せていただければこの当直の間にでも効果範囲と攻撃威力を算定できます」


 ハル艦長は息を大きく吐いて感心した。敵の航空機に圧力が届けばそれでいいという彼女の意見は、ジャミングされにくい慣性誘導式の爆弾をある程度精密に投下するという簡易な方法で達成可能であり、また投下高度が一万から二万メートル程度で爆弾の質量が百トン以上ならば、風の影響を加味しても精密な攻撃が可能だ。さらに、攻撃位置は風の流れが比較的読みやすいといわれるナクロ空域。かなりの精度が期待できるはずである。それを確信したハル艦長は一年前にスタビリテス海軍基地で搭載した、四百発の百二十五トン型地中貫通爆弾が持つ衝突威力と反ムガロ連合が加工可能な最大強度の装甲、そして反ムガロ連合軍が持つ軍用機の耐久力に関するデータを司令部に要請した。データは審査が完了し次第送付するという電文を受け取った直後には、審査完了の証明書を添えたデータ共有システムのアクセスコードが着信し、暗号化されたファイルが速やかに共有された。

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