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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
四 浮遊要塞撃破準備

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第21話 新機軸

 ハル艦長は今回の作戦に参加するダウザ級高速母艦の資料を熟読した。ダウザ級とは、哨戒艇二十四隻と定数四十八機の一個哨戒飛行隊を搭載して艦上で運用できる哨戒専用艦艇「八号型哨戒母艦」の設計を改修することで、主力艦隊に追従できるよう速力を底上げしたうえで、哨戒艇搭載区画を航空機の整備区画に変更し、さらに攻撃機や制空機も搭載できるよう改造したものである。


挿絵(By みてみん)


 高速母艦は装甲が薄く、戦艦とともに敵前に進出するような任務には不向きであるが、航空隊との針路同期さえ行ってしまえば航空隊側での減速や速度同期を行うことなく、連続して航空機を安全に収容することができる圧倒的な航空機運用能力を持っている。つまるところ、これまでも提唱されていた艦載機の持つ打撃力の低さを活用し、手加減のできる兵器として運用するというコンセプトを実現するにあたって、航空機の航続距離の短さという課題を解消する手段として発艦と着艦を別の艦で担当する手法を検証する手段として建造された着艦専用の『母艦』なのだ。


「今回の作戦、新兵器の実験としての意味が強いようだな」


「そのようですね」


 ハル艦長の大きな独り言に、ヴォロス副長が同調する。ハル艦長は手元の作戦要綱に付された艦隊編成を見た。つい最近更新された改明暦六八九五年九月二十四日付の常備艦隊編成からは空中戦艦と重空中戦艦、重空中戦闘母艦がそれぞれ二隻ずつ派遣され、警備艦隊から高速母艦二隻が回されている。そして、問題となる重戦闘母艦の直掩時の分隊編成は重戦闘母艦二隻の直掩にアヴァターラと同じ第六戦隊のヴァーマナ、本隊上方に布陣して敵の注意を引きつつ航空機の突入を支援する役割にアヴァターラが充てられている。つまり、この支援の際に敵の艦艇および防空用小型艇の格納庫も攻撃することが掩護という言葉の指す行動らしい。


「まったく、難しいことを言ってくれる」


 ハル艦長はそうつぶやいて艦長席に腰を下ろした。狙撃砲は射撃精度がよく、重点的な攻撃力に長ける。だが、たかだか三十センチ半の砲弾しか撃てない狙撃砲の火力では、装甲に守られた目標を一撃のもとに破壊するのははっきり言って不可能だ。となれば主砲か副砲を命中させるしかないわけだが、そう簡単にいく話ではない。そんなことを考えている間に、ヴォロス副長は定時休憩に入ってしまった。


「主砲や副砲が当たれば……いや、そんな精密に射撃ができる大威力の大砲が主砲や副砲になっていれば、速射砲を兼任する狙撃砲なんて搭載されていないな。主砲の命中精度は観測精度よりも精密な角度調整と装薬量調整、そして敵との距離に影響される。低伸性が抜群に良いわけではないから当然だが、直射での命中は期待しがたい。直射を行う場合、その成功率は艦ごとに大きく違う。このアヴァターラはそこまで小さな目標への直射など訓練以外ではやったことがないから完全な未知数、となればつまり……」


 ハル艦長は頭を抱えてしまった。砲術長はどのような意見を述べるだろうか。彼女も実際にこんな特異な状況での精密直射を指揮したことがないのだから、即答というわけにはいかないだろう。作戦自体が実行不可能ではないのか。そんな考えばかりが頭をよぎる。日が暮れて交代時間の二十分前になりヴォロス副長が発令所に現れるまで、彼女はずっと脳裡に考えを巡らせていた。


「艦長、そろそろ交代時間です」


「ああ、ありがとう。副長、砲術長は今から定時メンテナンスに上がってくるんだったね?」


 顔を上げたハル艦長は、何か迷いを吹っ切ったような表情で尋ねた。その表情に若干の不安を感じながら、ヴォロス副長はうなずいた。


「はい、そうですが」


「丁度いい、砲術長が上がってきてから数十分後まで私は残業をするとしようか」


 そう言ったハル艦長は立ち上がって艦長席からの発令権限を副長に譲ると、発令所後部に配された予備座席の背もたれに肘をかけ、どこかわくわくしたような表情を見せながらただひたすらにチトセ砲術長を待っていた。だが鼻歌の曲想はどれも暗く、発令所につめている士官たちは何かただならぬものを感じ始めていた。


「艦長は何をしているんだ?」


 交代でやってきた士官がさっきまで持ち場についていた同じ部署の士官に尋ねると、彼らは決まってこう言った。


「いつもと違うことを考えているんだ、それも不安と期待が同時に来てる。砲術長はこれから大変だろうな」


 思考しすぎて過熱した頭を少しでも冷やそうと軍帽を脱いだハル艦長は短く切った髪をかき上げ、発令所後部のドアを開けてちらりと外を窺った。そうしてしばらく待っていると、艦内に時報のブザーが鳴る。


「午後十時になった、か」


 ハル艦長がボソリと声を漏らす。ヴォロス副長も独り言を始めるかのように口を開いた。


「チトセ砲術長、遅刻……か? 珍しいな」


 そう言いかけたヴォロス副長の背後で扉が開いて、チトセ・ハトヤカイ砲術長が入ってきた。定時メンテナンスのために薄暗い照明の下で艦橋構造物トップ、発令所より一階層高いところに設けられた砲術指揮所につながっている壁際の梯子を登ろうとする彼女を、ハル艦長が呼び止める。


「砲術長、少し急ぎの質問がある」


 ハル艦長に言われたチトセ砲術長は振り返り、何か察した表情をしてから梯子に再び手をかけた。


「自分の担当場所で伺います」


「わかった。ありがとう」


 ハル艦長は背筋をすうっと伸ばして手に持っていた作戦要綱の束の上にメモの束を載せる。そうしてハル艦長は軍帽を再び被り、チトセ砲術長の後に続いて砲術指揮所へと伸びる梯子を登り始めた。手袋越しに伝わる冷たい鉄の感触が、ハル艦長には少しありがたかった。

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