第17話 戦闘優勢
「第六戦隊各艦、面舵三十度。北二十度方向へ針路を修正し、微速で前進せよ。各艦、全擲弾発射機を準備状態に移行して急速上昇! 上昇角度は六十度、合図をしたらスラスターを最大出力で噴射せよ。総員、第一種戦闘配置!」
艦内にベルが鳴り響き、アヴァターラは船体を傾けつつ転舵を開始した。アヴァターラ号に続く各艦も一斉に進路を変更し、斜線陣形に移行する。
「戦隊全艦、地形追従飛行を行いつつ上昇準備! 敵艦に探知されるまで接近するぞ」
ハル艦長の命令に従い、第六戦隊の各艦は地形をなぞりつつ敵艦隊に接近していく。山岳の向こうで轟音が響き、にわかに通信が騒がしくなった。
「第八管区警戒班より連絡、敵艦隊を補足! 位置はムラッタルスカ要塞東側のキフラ山脈東四キロ、高度二百メートルの低空域を進行中。艦隊司令部を正面に捉えつつあり。艦種内訳、戦艦八隻。高速ミサイル発射の兆候あり、警戒されたし……とのことです!」
「前線で第二、第三、第四戦隊各艦及び第八戦隊のシヴァが敵艦隊と近接砲戦に移行しました! 第七及び第九戦隊は援護を行う模様です! 第五戦隊及び第八戦隊の残りは要塞砲郡の射線から外れつつ砲撃準備中!」
報告が飛び交うアヴァターラの艦橋から、艦の左舷側の後方に砲弾が落下し、爆発の炎が立ちのぼるのが確認された。数秒の時間をおいて、右舷側の前方にも爆炎が上がる。
「敵艦の砲撃です! 射法はおそらく挟叉法、本艦は捕捉されていると思われます!」
砲術班の士官はめいめいに敵艦の弾種、砲撃の落下角度などから敵の位置を予測しようと試みる。そんな士官にも十分聞こえるような大音声で、ハル艦長は指示を飛ばした。
「今だ、爆発に隠れながら急速上昇! 一番三連擲弾発射機、船体後方に向けてMk.3087スモーキングチャフ弾を発射開始! 観測手、スキャンレーダーを開始せよ!」
ハル艦長の指示とともに擲弾発射機がチャフ機能を持つ煙幕弾を発射し、地上付近に煙の塊ができる。敵艦の砲弾はそれを挟むようにして三回、四回と落下しながら煙の塊に接近していく。
「引っかかってくれたな……! 全艦傾注、このまま上昇を続ける。チャフ効果が切れたら水平航行に移行、周辺を探索せよ。おそらく伏兵がいる」
ハル艦長の号令に従い、各艦は上昇して一気に山脈稜線の上に躍り出た。地形スキャンが開始され、敵艦をあぶりだそうと電算機が処理を続ける。その間にも敵の砲撃はチャフにぐんぐん近づき、ものの二分もしない間にかろうじて残っていた煙の塊は命中した榴弾によって吹き飛ばされた。アヴァターラの艦橋でも、チャフ効果が消失したことが確認される。
「猶予はここまでだ、次はこっちに来るぞ! 船体トリムをゼロに戻し、周辺の地形データとスキャンデータをリアルタイムで比較、敵艦艇の移動情報を割り出せ! まだ各砲は射撃するな、敵が撃ってからだ!」
「出ました! 要塞北東方向、山脈の反対側に敵戦艦四隻です!」
艦橋の空気がピンと張り詰める。
「間違いないか」
「はい!」
「よし、全艦隊に敵艦情報を送信! しかる後に第八戦隊のガネーシャ、ガルダ、ハヌマーン及び第五戦隊の行動可能な二隻にこちらの誘導情報に基づき支援砲撃を行うよう暗号通信で伝えろ。本艦は上空から降下しつつ砲撃、あの敵艦隊を叩く! 主砲及び副砲、ミサイル発射準備!」
「ガネーシャ、ハヌマーン、ヴァルナ、アンシャから応答、『射撃準備はすでに完了、情報を待つ』とのことです! ガルダは正面の敵艦隊からミサイル攻撃を受け、回避及び反撃を行っていると報告がありました!」
「わかった、ガルダの武運を祈る。支援砲撃データ送信準備、ガネーシャ、ヴァルナ、ハヌマーン、アンシャの順に砲撃を開始するよう各艦に伝達!」
「了解!」
「行くぞ! 最大戦闘速度、突進! 敵単縦陣のうち、まずは最後尾の一隻をやる! 前方に指向可能な第一主砲、第一、第二、第四及び第五副砲は全力射撃、砲側照準で撃ちまくれ! ミサイルは爆砕榴弾を装填、全発射管は一斉発射! 各砲塔、発射開始! ミサイル発射、急げ!」
猛烈な砲撃がアヴァターラ号から火箭となって発され、単縦陣でゆっくりと上昇中だった敵艦に着弾していく。敵艦は小刻みに振動し、一瞬の後に全艦が真っ赤な炎に包まれた。
「敵艦を側面に捉え、砲塔を狙って射撃可能な全砲門で射撃せよ! 戦闘能力を可能な限り奪ってから離脱する!」
速射砲の火箭が敵の艦列にミシンをかけたような破孔の列を作り、敵艦の砲塔は副砲に射抜かれ次々と動きを止めていく。王国軍の勝利はほぼ揺るがないように見えた。




