第14話 集結
アヴァターラがムラッタルスカに到着して、すでに三日が過ぎていた。空中大陸の各地に散っていた空中戦艦たちは三々五々、艦隊司令部に集結しつつある。空中戦艦たちが日常的に行っている戦略哨戒航行や各種任務は全て中断され、まだ空に浮かんでいる各艦は最大限の警戒をもって艦隊司令部に向かっていた。ムラッタルスカ要塞へ空中戦艦たちが招待された理由、敵艦隊が王国領内に侵入しているという事実は、各艦の艦長を戦慄させるには十分すぎるものだった。艦隊司令部に首都防衛にあたる四隻を除く全ての空中戦艦が集結するには、結果的に一週間ほどの時間が費やされた。
「副長、ご苦労だった」
発令所に上がってきたヴォロス副長を顧みて、ハル艦長は少し落ち着かない様子で彼を労った。彼女はムラッタルスカに入港してからずっとそんな調子だった。昨夜遅くにハル艦長と偶然廊下ですれ違ったラタン軍医長は、迷うことなく懐から缶入りのコーヒー飲料を差し出したのだ。そのコーヒー飲料は精神の緊張を落ち着かせる軽度な精神安定作用と身体の過剰な活動に対する鎮静作用があり、医薬品として認可を受けたコーヒー豆を用いたもので、ラタン軍医長が時たま診察前に頓服薬として服用することから彼女のトレードマークとして知られていた。ハル艦長はすぐにそれを飲み干し、軍医長にこう依頼したという。
「ラタン軍医長、明後日になっても艦隊が集結しなかったらカウンセリングを頼むよ」
そのことをラタン軍医長から聞かされたヴォロス副長は、ハル艦長を研究所からスカウトしたときのことを思い出した。まだ研究者だった彼女に、士官として軍艦に乗らないかと提案したのは彼だった。もともと別の研究者を科学研究局へ引き抜くために技術復興省第一研究所で仕事をしていた彼の眼には、ハル・カランベリという女は自分が付き従い、仕えてさえいれば百戦不敗の実力を持つであろう最高クラスの士官の卵として映った。彼の観察眼は正しかったが、一つだけ誤算があった。ハル・カランベリは彼の第一印象よりもずっと、戦争の終焉と王国の勝利を強く望んでいたということである。それこそ艦隊の誰よりも強く願うほどに、彼女は平和を欲していた。それだけに、彼女は今まさに直面している、動くことができない期間をもどかしく思っているのだろう。
「艦長、艦隊司令部から招集です。艦長会議が始まるようです」
「全員揃った、ということだな」
額に手を当て、うつむいたまま発令所の艦長席に座っているハル艦長を仰ぎ見て、緊張した面持ちのヴォロス副長が司令部からの連絡事項を告げた。それを聞いたハル艦長は軍帽を目深にかぶり、瞼を伏せてつぶやく。いまや各都市群の防衛のために配置されていた駐留艦隊の各艦、特に哨戒に向いた足の長い補助艦の多くは各空中大地に分散派遣され、未だ見つからずに潜伏しているかもしれない反ムガロ連合の艦艇を血眼で探し回っている。召集を受けた艦長たちは皆まるで動く石像のように静かで、重い足取りをしていた。……たった一人、安堵した様子で足取りも軽いハル艦長を除いては、皆がそんな調子であった。




