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空中大陸に閉ざされた世界で、宇宙を見るためにできること  作者: 古井論理
二 竜王城址製造都市の混乱

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第12話 衝角砲

 爆砕榴弾合計三斉射は、全弾怪物に命中した。だが、怪物は未だに速度を緩めずに接近してくる。チトセ砲術長は冷静に報告する。


「質量弾適正距離まで接近しました!」


「よし、主砲に質量弾を装填せよ! 怪物の触手の中央を狙え、確実に命中させるんだ!」


 ハル艦長の命令とともに主砲が再び仰角を落とした。怪物に向けて質量弾が放たれ、副砲の砲撃が散らす火花の中、怪物の触手の中央に命中したようだった。怪物は触手を丸めて前方を守るように固め、わずかに加速しながら接近してくる。艦橋に集団的な恐怖にも似た空気が漂う中、ハル艦長は更なる攻撃を命じた。


「爆砕榴弾ミサイル、撃ち尽くすまで撃て! 主砲は引き続き質量弾を装填、全力射撃!」


 砲撃の振動が艦橋を揺らし、怪物との距離が縮まっていく。距離が二万を切ったあたりでハル艦長は決断を下した。


「このままでは埒が明かない。機を見て衝角砲で攻撃をかけ、埒を明ける! 左に八十度回頭し、怪物に正面を向けられるよう準備をしておけ! 衝角砲、発射準備態勢に移行せよ! 磁場コーティング、最大効率化!」


「こちら航空科、了解。いつでも回頭できます」


 マクノス航空主任が答える。チトセ砲術長は困惑しながら問いかけた。


「衝角砲準備……ですか。艦長、提督からの衝角砲使用許可は?」


「本艦は独立作戦中だぞ、私が提督みたいなものだろう。何かあれば私が責任を取る、気にするな。軍規によって緊急避難行動として許可されているのは危険の回避と、ムガロ王国の資産に対する攻撃の阻止だ。そのためには可能最大限の努力をするのみ! さっさと準備を始めろ、生きて帰れなくなるぞ!」


 ハル艦長の言葉にようやく覚悟を決めたチトセ砲術長が、決意を固めてうなずいた。


「わかりました。衝角砲発射シークエンス開始! 反動吸収装置、展開用意! 衝角砲遮蔽扉、開扉用意!」


 その命令と時を同じくして、オペレーターが叫んだ。


「目標が速度を上げました、相対速度三百メートル毎分で突っ込んできます。距離一万五千、一万三千五百、なおも接近中。コリジョンコースです、このままでは衝突します!」


「よし、衝角砲照準システム用意! 船体強制加速ブースター始動準備! 敵を距離三千、衝角砲攻撃可能距離まで引きつけたら回頭、突っ込め!」


「了解!」


 瞬間、怪物の固められた触手の隙間から鋭い光が漏れた。光に反応して、センサーが向けられる。

「目標口腔前方に高エネルギー点を確認、詳細不明!」


「オペレーター、全システムを閃光防御モードに移行せよ! 機関長、速やかに補機の全動力をもってシールドを駆動するんだ!」


「了解!」


 即座に展開されたシールドの表面が揺らいで、怪物から放たれるエネルギーの大きさを示す。閃光が艦橋を襲い、オペレーターが叫んだ。


「目標、高エネルギー体を発射! 本艦に当たります!」


「総員、衝撃に備えろ!」


 瞬間、閃光の塊が一線のエネルギーの矢となってアヴァターラを襲う。命中するまでの一瞬の猶予に、艦橋では皆が姿勢を下げた。轟音とともに左舷副船体底部のアブレーティブバルジが融け落ち、炎が上がる。


「シールド健在! 損耗率三十パーセント!」


「艦底部に損害、損害不明!」


「艦内で火災、消火システムは正常に作動していますが延焼中! 敵の攻撃の熱量は桁違いです!」


「浮遊機関配管にダメージ、カミエル液温度が継続して上昇中! このままでは十分以内に浮遊機関本体のタンパク質の変性温度を超えます!」


 艦内各所から上がってくる被害報告に、甲板長とティカ機関主任が応急対応を命ずる。


「ダメージコントロール班、出動! 内部への延焼を食い止めろ!」


「カミエル液強制冷却装置始動、液体窒素を使え! カミエル液の漏洩に注意しつつ機関出力を維持する! 落ちたら日頃の苦労が無駄になる、気を抜くんじゃないよ!」


 シールドが明らかに出力を落とし、機関科オペレーターからの報告が入ってくる。


「先の攻撃による熱がシールドを貫通しています! エネルギーフィードバックによりシールド損耗率が七十パーセントに拡大、復元まで三十秒!」


「シールド復元は後回しでいい、艦首衝角砲攻撃可能距離に入った。艦首衝角砲を使うぞ! フルスロットルで増速せよ! 適宜変針しつつ軸線上に目標を捉え続けるんだ!」


「はい!」


 アヴァターラは損傷に軋む船体をさらにギシギシと軋ませ小刻みに舵を取りながら、最高速度に加速した。


「目標の触手が活発に運動しています! 距離一千まで近づけば接触の可能性が!」


「構わん、回避しきれない分は砲撃ではねのけながら接近せよ!」


 アヴァターラはその船体を絡めとらんとする触手を避けながらぐんぐん怪物に接近し、艦首に備えられた口径千二百ミリの巨砲「衝角砲」を露出した。巨砲の空気抵抗で気流の乱れが生じ、船体が小刻みに揺れる。


挿絵(By みてみん)


「空力制御修正、揺動を抑制しています!」


 ティカ機関主任がそう言うのとほぼ時を同じくして、前進するアヴァターラに伸びてきた触手三本を副砲が射撃して遠ざけた。前方からまっすぐ突っ込んでくる触手を主砲ではねのけたアヴァターラの衝角の中で衝撃吸収シリンダーが前方に延び、砲身が前方に進出する。揺れが収まった次の瞬間、船体後部を触手が巻き取った。


「速度ダウン、船体後部が触手に捕まりました!」


「強制方向転換ブースター始動、目標の頭部と思しき触手群の中央を狙う! スラスター出力そのまま、発射用意! 総員、衝撃に備えよ!」


「軸線上に目標の頭部をとらえました!」


「発射!」


 衝角砲が幾千もの雷が同時に落ちたような轟音とともに放たれ、触手はさらに強くアヴァターラの船体を締め付ける。しかしそれは一瞬で、衝角砲の砲弾が命中するとすぐに触手はアヴァターラを離し、機能を停止した古代兵器の口元で小さく巻き込まれていった。

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