第11話 目覚めの一撃
ハル艦長はチトセ砲術長が待機している統合武装管理所に連絡する。
「チトセ砲術長、対象の反応は特定できたか」
「はい!」
打てば響く声とともに、オペレーターが報告を始める。
「センサーで古代兵器の浮遊機関反応を確認しました。目標は竜王城主塔上空に停止しています。光学的にも補捉、対象はイカと紡錘形の殻を合わせたような姿です。攻撃手段は触腕による打撃と思われ、付近のスクーパ財団所属と思われる大型船を触腕で攻撃中です!」
ハル艦長は頷くと、大きく息を吸い込んだ。
「よし、竜王城主塔から距離五万を保って都市北方の多雨森上空域に侵入、同空域に対象を誘い込む。狙撃砲、高速徹甲弾を装填し挑発射撃を準備せよ! 発砲警告電波発信用意!」
満を持して発せられた命令に、艦橋の空気は一瞬凍り付いたように硬直して、それから熱を持ち始めた。舫が解かれ船体が上昇を始めたときには攻撃準備の号令とともに熱気を帯び、戦いに備える戦士たちがそこにいた。マクノス航空主任は艦の操作をてきぱきとこなし、艦は戦闘高度へと昇りながら北上を始める。チトセ砲術長の号令とともに艦橋上部の射撃管制装置が旋回を終え、報告が艦橋を揺らした。
「射撃準備完了、照準補正よし。狙撃砲、いつでも撃てます!」
船体側面に備えられた狙撃砲が狙いを定めて、まさに射撃を開始する直前、通信士が暗号化通信の受信を報告した。
「シヴァから暗号化通信です! 音声データと認識、再生を開始します」
スピーカーがほんの短いノイズの後、音声を艦橋に響かせる。それはまぎれもなくマクマトス大佐の声だった。
『こちらシヴァ、艦長のマクマトスだ。アヴァターラ、ご厚意は立派だが反転をお勧めする。スクーパ財団によればこいつはアトミカル叙事詩六記にある生体兵器マハラーティに比定される古代兵器らしいぞ』
ハル艦長はほんのわずか眉をひそめると、確固たる信念を胸に進行方向を指さし言い放つ。
「余計なお世話だと伝えろ。現在スクーパ財団は手こずっており、本艦が退けば竜王城址製造都市全域が危険にさらされるが、そんな事態は避けるべきだ。針路そのまま、速力にも変更はない。狙撃砲、射撃開始! 怪物の殻と頭部の接合部を狙え!」
艦側面の砲郭に独立稼働型の単装砲として備え付けられた口径三十センチ半、砲身長五十口径の狙撃砲三門がゆっくりと仰角を修正し、精密に怪物の殻と頭部の接合部分に狙いを定めて極超音速の砲弾を順番に射撃する。乾いた爆音を立てて砲弾が飛び出し、怪物に向けて風を切りながら突き進んでいった。
「浮遊機関、最大出力で稼働せよ! 敵がこちらに注意を向けたような挙動をしたら距離を保ちつつ北上、多雨林上空域にて停船。市街地域からリスクをそらす!」
「了解!」
狙撃砲の砲弾が弾着し始める。その背景では、怪物と戦闘していたスクーパ財団の特務艦一隻が艦首を触手にもぎ取られて後退を始め、もう一隻が触手に側面をえぐられながらもなんとか耐えて浮かんでいた。スクーパ財団の指揮官が滅却装置を発動する判断を始める寸前で、怪物が竜王城址製造都市を出て多雨林上空の空域へと入り込んだ。市街地がアヴァターラの主砲射程圏を外れると、ハル艦長は素早く命令を下した。
「主砲及び副砲に徹甲榴弾を装填、砲撃準備! 航空主任、減速しつつ変針して敵の側面に回れ! 砲術長、ミサイル発射塔を起動しろ。爆砕榴弾ミサイルを装填し、発射準備が完了し次第照準を固定せよ! 全砲門はいつでも撃てるよう待機、しかし合図があるまで撃つな! 機関主任、シールド展開準備! 船体表面に磁場コーティングを展開しろ!」
数秒おいて、アヴァターラの船体はゆっくりと減速を始めた。そして多雨林の上空で、一隻の戦艦と一匹の怪物が相対しながらにらみ合う。アヴァターラと怪物との距離が四万を切ったあたりで、ハル艦長は次の命令を発した。
「主砲及び副砲、砲撃はじめ! ミサイル発射!」
アヴァターラの饅頭型の四十一センチ連装副砲塔が素早く旋回していくのを追って、巨大な六十一センチ連装主砲が箱型を組み合わせたような砲塔の緩やかな旋回を止め、仰角を固定し、轟音とともに砲弾を投げ放つ。打ち出された砲弾は緩やかな弾道を描きながら怪物を目指して突き進み、怪物の表面で炸裂した。怪物の表面で破片が飛び散り、触手表面にクレーター状の穴が形成されたのが観測された。しかしその穴は瞬く間にふさがり、怪物は速度を変えることもなく、じわじわとアヴァターラに向かってくる。
「主砲及び副砲、初弾命中! 目標に明確な損害を認めず!」
「副砲、排莢及び次弾装填完了! ミサイル第二射用意よし!」
「ミサイル、あと三秒で着弾します! 二、一、弾着、今!」
その声とともに、怪物の側面で連続して爆発が起こった。連続する雷のような爆発音に、怪物の身体が揺さぶられている。怪物は少し悶えるように触手を震わせ、こちらに向きを変えた。触手の中央でぼんやり何かが光っているのが見える。
「爆砕榴弾ミサイル、第一射命中! 目標、針路を変更! 接近速度、上がります!」
オペレーターの発言に、チトセ砲術長が軽口をたたく。
「艦長、どうやら怒らせてしまったようですよ」
ハル艦長はその軽口に頷いて、口角を上げながら言った。
「なるほど、ミサイルは効いたようだな。やはり高圧力による攻撃が効果的なのだろう。主砲に高威力爆圧榴弾を装填、着発信管にセット。質量弾適正距離に入るまで撃ち続けろ!」
「了解! 榴弾射撃開始、主砲仰角上げ!」
チトセ砲術長の号令で主砲の仰角が上がり、大火力の榴弾が放たれる。怪物の表面でひときわ大きな爆発が起こり、怪物は身もだえした。




