第10話 暴れる猛威
エレベーターが上昇を終え、階数表示に「発令所」の文字が見えた直後のことだった。艦内放送がけたたましいブザーを鳴らし始め、ヴォロス副長からの命令がスピーカーから響き渡る。
「総員、第一種戦闘配置への移行準備を行い、第一種戦闘警戒配置につけ! 第一及び第二主砲塔、射撃指揮管制装置及び自動装填装置を待機状態に移行し砲塔旋回装置を起動せよ! 一番から六番副砲塔も同じく、砲塔旋回装置を待機状態に移行せよ! 各区画に通達、ダメージコントロールを最優先で戦闘準備を整えろ! ダメージコントロール班は待機所にて待機! 本放送は演習にあらず、繰り返す、これは演習ではない! 艦長、至急ブリッジへ来てください」
その放送を聞きながらエレベーターの扉がゆっくりと開くのを見ていたハル艦長は、エレベーターの開扉ボタンを押し込みつつ扉が開ききるのを待って、駆け足でエレベーターを出る。発令所後部の扉の開ボタンを連打して扉が開くと、当直士官のほぼ半数がハル艦長の方を見ていた。残る半数は忙しそうに周辺の状況を確認している。窓の外では竜王城址製造都市の外縁都市が燃えていた。激しく渦巻く炎に手が届きそうに思えて、ハル艦長は身震いしつつ炎をにらみつけた。
「竜王城址近郊交通管制センターより緊急連絡、直通港湾は出航不能状態。外郭港湾群に停泊中の船舶及び艦艇は竜王城址製造都市近郊空域から避難せよとのことです!」
「港湾地上設備から連絡。シヴァは出港を開始、アヴァターラの出港作業はシヴァ出港後に開始するとのことです!」
港湾と通信していた士官がそう言った直後、艦艇間通信システムを担当していた通信士が声を張り上げた。
「出港中の戦艦シヴァより連絡、マクマトス艦長より直接です!」
「最優先回線でつなげ!」
ハル艦長が即答する。その言葉に応じ、シヴァからの通信は速やかにアヴァターラに届いた。
「こちらシヴァ、艦長のマクマトスだ。アヴァターラ、先ほど本艦にユディシュティラ号から暗号化回線で届いた情報を共有する。技術復興省の下部組織として設置されているスクーパ財団……そちらの艦長が詳しいから終わってから質問してくれ、まあその財団が管理していた有史以前の遺跡から何か巨大な怪物、おそらくは古代兵器の上位機種が活動状態を回復して飛び出してきたらしい。現在のところスクーパ財団の船が対処に当たっているようだが、大型艦は二隻しか港を出られておらず、戦況もあまり芳しくないという。スクーパ財団はいざとなれば竜王城址製造都市の街区全域を潰してでも出てきた怪物を滅却するつもりのようだ。また、もうすぐ夜が明ける前に、速やかにこの空域を離脱してほしいと言っているらしい。本艦はこれより離脱する。アヴァターラは本艦とは別方向に離脱してくれ。怪物はどうやら古代兵器であり、さらに起動状態に移行したようだ。浮遊機関を稼働している船を追跡するような行動をしているらしい、さっさと逃げた方がいいぞ。ここで粘るのは得策じゃない」
ハル艦長は不服そうな顔でマクマトス艦長の言葉を聞いていたが、その言葉が終わるや否や無線機のマイクをつかんだ。
「こちらアヴァターラ、艦長ハル。情報感謝する。本艦は出航までにまだ時間を要するが、舫が解ければすぐに貴艦とは逆の方向へ針路をとる。幸運を祈る」
「返答感謝す。幸運を……」
スラスターを始動して速力を上げていくシヴァが窓枠の外に出て、遠ざかっていく。遠ざかっていくシヴァからの通信はナラシンハからの通信に割り込まれてかき消えた。
「こちらナラシンハ、聞こえていたら応答を願う。可能な範囲で救助を要請するがそちらの離脱を最優先にしてほしい。急げ、スクーパ財団とかいうよくわからない組織の機動部隊が今なお組織的に応戦し、対応を進めているとのことだが、どうやら彼らは怪物相手にかなり手を焼いているようだ。このままでは滅却装置がいつ起動するかもわからん」
「こちらアヴァターラ、艦長のハル。そちらの状況は把握した。可能な範囲で救援に向かう」
ハル艦長は通信を切ると艦内放送用のマイクを握った。決意を湛えた目には、彼女が長らく忘れていた熱が輝いている。ハル艦長はまるで歌でも歌うかのように言葉を放ち、乗組員たちを鼓舞した。
「全乗員に告ぐ、軍人の誓いを忘れるな。我々は『国家の民、国家の財産、国土の安全のために全力を尽くす』のだ。総員、第一種戦闘配置! 地上施設に出港許可を要請、全部署は出港に備えよ。主機関、起動シーケンス開始!」
ヴォロス副長がハル艦長を尊敬の眼差しで見つめている様子を見て、マクノス航空主任がうろたえた様子で問いかける。
「艦長、それでは我々は……」
緊張に震え言葉に詰まるマクノス航空主任を見据えて、ハル艦長は大きくうなずいた。
「そうだ、あの怪物を鎮圧する! 目の前の、対処できうる脅威を相手に逃げるなどということはあってはならない。脅威に追われて死ぬことを選ぶよりは、脅威を追って生き抜こうとすることを選ぶ、軍人の誓いにはそう書かれているはずだ。通信士、出港許可は」
緊迫した空気が張り詰める艦橋で、通信士官は頷いて応じる。
「出ました、出撃可能です!」
ハル艦長はますます早く打ち付ける心臓の鼓動を感じながら、命令を下した。
「よろしい。舫解け、機関最大出力! 離陸したらひとまず三千メートルまで上昇し、怪物との距離を保つよう努める」




