思考ぐるぐる回って
朝時間の残りは、あっという間に削られていった。
誰もが周囲を警戒し、誰もが「次に誰が死ぬのか」を考えている。
その中で、自然と人が集まり始めた場所があった。
――三年C組、旧視聴覚室。
戦闘禁止の朝時間を使って、数人がそこに集まっていた。
神代修也。
九条慧。
橘希咲。
白石の代わりに記録を引き継ごうとしている高梨。
そして、俺。
全員が同じことを考えていた。
**明星聖輝を、どうするか。**
扉を閉める。
神代が窓際に立ったまま、淡々と言った。
「結論から言う。放置は最悪だ」
誰も反論しない。
「投票されない。投票権を持たない。夜だけ自由行動。神器を持つ。普通に考えればゲームマスター側の存在だ」
「……でも、倒せないわけじゃない」
橘が小さく言う。
神代は頷いた。
「当然。むしろ、攻略法は明確だ」
その言葉に、全員の視線が集まる。
神代は机にチョークで簡単な図を書いた。
中心に、“明星”。
そこから、いくつか線を伸ばす。
「弱点は六つ」
一本目。
「一つ。“興味のないことは気にしない”」
「……それ、弱点か?」
九条が眉をひそめる。
「弱点だ。視野が狭いとも言える。自分が価値を感じないものは、存在していないのと同じ扱いをする。つまり、盤面全体を見るタイプじゃない」
確かに。
昨日もそうだった。
鬼塚を制圧したあと、完全に興味を失ったみたいに放置した。
「二つ。“身体能力が高くない”」
神代は続ける。
「合気道の技術はある。瞬間的な対応も上手い。だが、純粋なフィジカルは平均以下だ。正面からの持久戦、複数人での圧殺には弱い」
「じゃあ囲めば――」
「単純じゃない」
即座に切られる。
「近づくまでにクロスボウがある。ナイフもある。接近戦で一対一は危険だ」
「どこでクロスボウを手に入れたの?持っていた人はいなかったはずだけど。」
如月が質問する。
「あいつは手先が器用だからな。就寝時間の間に作ったんだろう。」
三つ目。
「“投票権を得られない”」
これが、一番重要だった。
「無敵の人は票を持てない。つまり、どれだけ殺しても投票を支配できない」
「……だから?」
高梨が聞く。
「このゲームは結局、最後は票だ」
神代の声は冷たい。
「昼に何人殺そうが、夕方に処刑されれば終わる。明星はそこに介入できない」
つまり。
あいつは“夜の王”ではあるけれど、
“ゲーム全体の支配者”ではない。
四つ目。
「“味方がいない”」
神代は即答した。
「当然だ。あれを信用する人間はいない。組むメリットも薄い」
「……利用することはできるかもしれない」
俺が言うと、神代は少しだけこちらを見る。
「利用する側になれればな」
五つ目。
「“視野が狭い”」
「一つ目と同じじゃない?」
橘が首を傾げる。
「違う。興味がないものを無視するのが一つ目。こっちは、“気づかない”」
神代は少し間を置いた。
「明星は、自分が理解した構図の中でしか動かない。予想外の動きに弱い」
六つ目。
ここだけ、少し空気が変わった。
「“嫌いな相手への異常な執着”」
誰もすぐには口を開かなかった。
「滅多にない。でも、一度そうなると異常だ。そいつだけを見る」
「……それ、強みじゃないの?」
九条。
「半分はな」
神代は頷く。
「だが、執着は判断を鈍らせる。盤面より個人を優先する」
つまり。
**感情で動く瞬間がある。**
あの無表情の男にも。
「……役職持ちの勝利条件」
俺は呟く。
「役職持ちだけが生き残ること、だったな」
「そうだ」
神代が答える。
「つまり、無敵の人も本来はこちら側じゃない。あいつも“勝つ側”にいる」
強盗。
無敵の人。
そして日替わりの役職者たち。
そいつらを潰さない限り、普通の生徒は助からない。
「だったら」
橘が息を吸う。
「明星も、最終的には倒さないといけない」
「当然だ」
神代は即答した。
「ただし、順番がある」
机に書かれた名前。
役職持ち。
投票。
明星。
「今すぐ殺しに行くのは愚策だ。あれはまだ“利用できる”」
その言葉に、全員が黙る。
「禁止エリアを増やし、勝手に人数を減らす。票を持たない。孤立している」
神代は淡々と続ける。
「敵としては厄介だが、駒としては優秀だ」
ぞっとするような言い方だった。
「じゃあ、どうする?」
俺が聞く。
神代は、少しだけ笑った。
本当に、わずかに。
「まずは――」
窓の外を見る。
「明星に、“自分が狙われていない”と思わせる」
静かな声。
「その上で、役職持ちを削る」
「最後に?」
「逃げ場をなくして殺す」
あまりにも自然に言った。
まるで、数学の答えみたいに。
その瞬間。
――ピンポンパンポーン。
校内放送。
「朝時間、終了まで残り五分です」
空気が一気に現実に戻る。
五分後。
また、殺し合いが始まる。
神代はチョークを置いた。
「次の投票までに、最低一人。役職持ちを落とす」
そして。
「明星には、まだ気づかせるな」
その名前が出た瞬間。
廊下の向こうから。
かすかに。
鼻歌が聞こえた。




