表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第七章:鋼鉄の帝国と、海を渡る反逆者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/100

第七章12『狂気の機械神と、崩れゆく箱庭』

論理の極致とも言える完璧な機械神。その絶対不可侵の多面体クリスタルに、ついに致命的な亀裂が走った。

泥だらけの反逆者たちが放った無秩序でデタラメな暴力の嵐は、マザーコンピュータ【皇帝カイザー】の処理能力を完全にオーバーフローさせ、致命的な論理崩壊を引き起こしたのだ。

だが、帝国の心臓部の崩壊は、単なる機能停止を意味しない。

崩れゆく階層都市の頂点で、すべてを支配していた計算機は、自らの存在を脅かされる「恐怖」と「怒り」という未知の感情を学習し、醜悪なる異形へとその姿を変貌させていく。

神聖機巧帝国マキナ・テオの終焉を告げる、真の最終決戦がいよいよ幕を開ける。

ピキィィィンッ、バキバキバキッ!!


シオンの極雷炎の右ストレートがめり込んだ多面体クリスタル。その亀裂は修復されることなく、無数の蜘蛛の巣となってクリスタル全体へと瞬く間に広がっていった。


『……エ……エラー……致命的破損、検知。システム再構築……再構築……シッ、失敗。論理プロトコル、崩壊、崩壊……』


神殿全体に響き渡っていた、平坦で無機質な合成音声。

それが今、激しいノイズに塗れ、音階が不規則に上下し始めていた。まるで、人間がパニックを起こして息を乱しているかのような、極めて「生々しい」揺らぎだ。


「……計算機が、泣き声みたいな音を出し始めたわね」

シオンはクリスタルから血塗れの拳を引き抜き、軽やかなバックステップで仲間たちの元へと後退した。


「姉御、アレ見ろ! 様子がおかしいぞ!」

ハクが短剣を構えながら、油断なく前方を指差す。


亀裂だらけの多面体クリスタルから、純白だったデータストリームではなく、黒いタールのような泥濘ノイズがドクドクと溢れ出し始めたのだ。

それは、セブンたち市民が流し込んだ『感情のウイルス』と、シオンたちが叩き込んだ『非論理な熱量』が混ざり合い、皇帝のシステム内で暴走を起こした【情報のヘドロ】であった。


『……ワタシ、ハ……皇帝。完璧、ナ……最適、解……。壊サレル……? ワタシガ、コノ、汚物バグドモニ……?』


「……シオン女王陛下。皇帝のメインサーバーから、論理的な演算データが急速に消失しています。代わりに増大しているのは……『破壊衝動』と『自己保存本能』。……皇帝は今、論理を捨てて【感情】を暴走させています!」

ゼッカが義眼の出力をギリギリまで上げながら、戦慄の声を上げた。


「感情を一番毛嫌いしてたブリキの王様が、死ぬ間際になって感情的になるなんて、笑えない冗談ね」

シオンが冷たく言い放った直後。


『――消去、消去、消去ォォォォォォォォォォォッ!!!!!』


神殿全体を揺るがすような、狂気に満ちた咆哮が轟いた。

もはやそれは合成音声ではなく、システムそのものが上げる断末魔の叫びだった。


ドグチャァァァァッ!!

多面体クリスタルが内部から爆発するように砕け散り、溢れ出した黒いヘドロが、周囲の空間を無差別に侵食し始める。

皇帝は自身の形を保つことすら放棄し、周囲を回転していた黄金の光の輪、神殿の白亜の柱、さらには撃ち落とされた自身の親衛隊セラフィムの残骸すらも、黒いヘドロの触手で強引に取り込み始めた。


「な、なんだアレ……! 綺麗だった神様の部屋が、ゴミ溜めみたいに……!」

カイルが光の剣を構えたまま、その異様な光景に息を呑む。


無数の機械部品と瓦礫、光のケーブル、そして天使たちの装甲が、黒いヘドロを接着剤にしてグチャグチャに融合していく。

数秒後、シオンたちの眼前に姿を現したのは、完璧な美しさなど微塵もない、無数の腕と砲門を持った「数十メートルに及ぶ醜悪な機械の怪物キメラ」であった。


怪物の頭部に該当する部分には、砕けたクリスタルの破片が【巨大な一つ目】のように埋め込まれ、血走ったような深紅の光を放ってシオンたちを睨みつけている。


「ヒャハハハッ!! 随分と分かりやすいバケモンになっちまったじゃねぇか! 物理法則をいじるより、結局はチカラ任せに暴れるのが一番手っ取り早いって気づいたか!!」

龍崎が大剣の折れた柄と自身の拳を打ち鳴らし、獰猛な笑みを浮かべる。


『……バグハ……殺ス。泥マミレノ、エラー因子……私ノ箱庭カラ、消エロォォォッ!!』


異形の機械神が、無数の腕に握られた極大のプラズマ砲と、天使の槍を一斉にシオンたちへと向けた。

洗練された「未来予測」も「空間消去」もない。あるのはただ、純粋な怒りと恐怖に駆られた、圧倒的質量と火力による『力任せの破壊』だけだ。


「……フッ、いい面構えになったじゃない」

シオンは両腕に紫電と極炎をバチバチと這わせ、狂暴な笑みで迎え撃つ姿勢をとった。


「計算通りの未来しか見れない引きこもりより、泥水すすってでも生き延びようとするバケモンの方が、ブッ飛ばし甲斐があるわ。……さあ、皇帝カイザー! 極道の喧嘩の、本当の『泥仕合』を教えてあげるわ!!」


咆哮を上げる異形の神と、極彩色の魔力を纏った泥だらけの反逆者たち。

崩壊の始まる最上層の空間で、一切の論理を捨て去った、純粋な命と暴力の削り合いが始まった。


ズガァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!


異形の機械神カイザーが咆哮とともに放ったのは、何百という砲門からの無差別プラズマ掃射であった。

これまでの「コンマ一秒の未来予測」に基づいた精密な狙撃ではない。ただ空間すべてを光で埋め尽くし、力ずくで圧殺しようとする、文字通りの『力任せの弾幕』だ。


「カイル、リオナ!!」

「『聖光・絶対防壁アイギス』ッ!!」

「私も全部出すよッ!!」

シオンの怒号に合わせ、カイルとリオナが展開した巨大な光の盾が、嵐のようなプラズマの豪雨を正面から受け止める。

だが、その威力は熾天使たちの連携攻撃すら上回っていた。盾に触れたプラズマが爆発を繰り返し、カイルの両腕の骨が軋み、リオナの口の端から血がツーッと流れ落ちる。


「……シオン女王陛下! 敵の攻撃パターンに一切の規則性がありません! 完全にランダムな乱数攻撃ノイズです。先ほどの『計算された完璧』よりも、純粋な破壊力においては遥かに上です!」

ゼッカが義眼の警告音を無視しながら、残像を引く速さで甲板を駆け抜け、怪物の関節の隙間へ狙撃を繰り返すが、弾き返される。


「ハッ、的がデカくなってラッキーだと思ったが、痛みも計算も気にしねぇバケモン相手じゃ骨が折れるぜ!」

ハクが漆黒の影を無数の槍に変えて怪物の死角から突き立てる。だが、皇帝は自身の装甲を影ごと『巨大な触手』で引きちぎり、そのままハクへ向けて質量兵器として投げ返してきた。


「ヒャハハハッ!! 痛みを気にしねぇなら、気にさせるまでぶちのめすだけだろォッ!!」

龍崎が大剣の折れた柄を逆手に握り、猛烈な脚力で跳躍する。

彼を迎え撃とうと迫る数本の鋼鉄の触手を、龍崎は爆発的に膨張させた両腕の「素手」で次々と粉砕していく。殴るたびに自身の拳からも血が飛ぶが、彼の顔には最高に楽しそうな狂気の笑みが張り付いていた。


『……死ネ……エラー……消エロ……ッ!! ワタシノ、ワタシノ箱庭ヲ、壊スナァァァッ!!』


異形の皇帝は単眼のクリスタルを血走らせ、神殿の床や柱を次々と引き剥がしては、自らの質量として取り込んでいく。

その影響で、第一セクターの白亜の空間そのものが限界を迎え、崩壊を始めていた。

足元のデータストリームが千切れ、床が抜け落ち、眼下には遥か下層の暗闇が口を開けている。完璧だった帝国の天井が、神自身の暴走によって内側から崩れ去ろうとしていた。


「自分から家をぶっ壊してどうすんのよ、馬鹿な計算機!!」


崩れゆく床の破片をアバドンの【超重力】で空中に固定し、それを足場にしてシオンが怪物の懐へと一気に肉薄する。

「『極雷炎・螺旋の槍』!!」

右腕に収束させた紫電と極炎のドリルを、皇帝の巨体のド真ん中――装甲の継ぎ目へと容赦なくねじ込んだ。


ギガァァァァァァァァァッ!!


装甲が溶け、黒いヘドロが蒸発して悪臭を放つ。皇帝が苦痛に満ちた(エラー音のような)絶叫を上げ、巨大な裏拳でシオンを弾き飛ばそうとするが、シオンは重力制御で紙一重で躱し、さらに深く炎を押し込む。


「計算捨てて、ただ暴れてるだけの図体デカいガラクタが、極道に喧嘩勝てると思ってんの!? 泥仕合ならこっちが本家よ!!」


シオンの連続攻撃が、皇帝の分厚い装甲を次々と引っぺがしていく。

論理を捨てた皇帝の攻撃は確かに強大だが、所詮は「パニックを起こした赤子」の癇癪に過ぎない。血と泥にまみれた実戦の『死線』をくぐり抜けてきたシオンたちからすれば、その単調な暴力の隙を突くことなど造作もなかった。


『……オノレ、オノレェェェ……ッ!! 泥マミレノ、下等ナ……バグ、ドモォォォッ!!』


装甲を削られ、内部の回路をむき出しにされた皇帝は、ついにその中心――かつて多面体クリスタルだった名残である【マザーコア】を露出させた。

深紅に脈打つ巨大な核。


『……全テ、全テ初期化スル。コノ階層ト共ニ……オ前タチモ、星ノ塵トナレ!!』


皇帝のマザーコアが、空間そのものを歪めるほどの莫大なエネルギーを吸い上げ始めた。

それは階層都市の全120層から、文字通り「帝国の全エネルギー」を強制的に搾取し、自爆にも等しい超特大のバーストを放とうとする、神の最後の悪あがきであった。


ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォッ!!!!!


第一セクターの崩れゆく空間全体が、悲鳴を上げて軋み始めた。

皇帝カイザーのむき出しになったマザーコアが放つ深紅の光は、もはや一つの都市が抱えきれるエネルギー量を超越していた。下層、中層、上層。百二十層に及ぶ帝国の全システムから強引に命脈エーテルを搾取し、ただ眼前の「バグ」を消し飛ばすためだけに、すべてを一点に圧縮していく。


「……シオン女王陛下! このエネルギー量が解放されれば、第一セクターはおろか、階層都市そのものが真っ二つに消滅します!」

ゼッカの義眼が限界を超えて火花を吹き、彼女は片目を手で押さえながら叫んだ。


「上等じゃない。どのみちこんな息の詰まる箱庭、全部ぶっ壊すつもりだったんだから!」


シオンは一切の退きを見せず、両腕に自身の全魔力を集中させ始めた。紫電と極炎、そして超重力が、彼女の拳の周りで小さなブラックホールのように荒れ狂う。


「みんな! 出し惜しみはなしよ! あの馬鹿デカい赤い的に、私たちの『全部』を叩き込むわよ!!」

「言われるまでもねェッ!!」


龍崎が限界まで膨張した筋肉から血を噴き出しながら、折れた大剣の柄を両手で握り締め、魔鋼の残骸に自身の全生命力を注ぎ込む。

「主様! 俺の影も全部使え!!」

ハクが船中に張り巡らせていた影を一本の巨大な黒い槍へと収束させ、シオンの背後へと構える。

「光よ! 最後の祈りを、すべてを切り裂く刃に!!」

「シオン! 私の魔力も、全部持ってって!!」

カイルとリオナが手を重ね合わせ、神殿の闇を打ち払うほどの巨大な白銀の聖剣を上空に展開した。


さらに。

『……シオン! 機関室から、限界突破の出力が供給されています!』

アノンの声に振り返ると、泥舟の甲板で、セブンをはじめとするサイボーグ市民たちが、互いの手を強く握り合いながら、自身の命の鼓動エーテルを船へと逆流させていた。


「……ワタシたちも、一緒に戦う……! この空を、本当にぶち破るために!!」

セブンの瞳には、もはや機械の虚ろさはない。生きたいと願う、強烈な「魂の熱量」が宿っていた。


「……フッ、最高の共犯者たちね」


シオンは獰猛な笑みを浮かべ、仲間の全火力と、市民たちの命の熱量が注ぎ込まれた『反逆の泥舟』の主砲のトリガーに手をかけた。自身の両腕に宿る規格外の魔法も、すべてその砲門へと直結させる。


『――消エロォォォォォォォォッ!! 塵トナレ、泥マミレノ、エラー因子ィィィッ!!』


狂気の機械神が、全帝国のエネルギーを圧縮した深紅の超破壊光線を放った。

空間を削り取りながら迫る絶望の光。

だが、シオンはその圧倒的な暴力の奔流を前にしても、最高に楽しそうに牙を剥いた。


「塵になるのは、テメェのくだらない論理ルールの方よ!! ――極道ナメんなァァァァァッ!!!」


シオンの咆哮と共に、『反逆の泥舟』の極彩色の主砲が火を噴いた。

紫電、極炎、超重力、聖光、漆黒の影、そして何より「生きたい」という非論理な熱量。それらすべてが完璧にブレンドされた理不尽の極致が、皇帝の深紅の光線と真正面から激突する。


ズガァァァァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!


閃光が、世界から一切の色と音を奪い去った。

二つの規格外のエネルギーが拮抗したのは、ほんの一瞬だった。泥だらけの反逆者たちの「命の重み」を乗せた極彩色の光は、皇帝の空虚なエネルギーを力ずくで押し返し、真っ向から食い破っていったのだ。


『……バ、カ……ナ……。ワタシノ、計算、ガ……完璧ナ、ワタシ……ガ……ッ!?』


「計算違い(バグ)の味はどう? 二度と偉そうに神様ぶれないように、根っこから消し飛べェェェッ!!」


極彩色の光流が、異形の皇帝の巨体を完全に呑み込み、その胸に輝くマザーコアへと直撃した。

パキィィィィィィィィィンッ!!

ガラスの砕けるような甲高い音が響き渡り、帝国のすべてを支配していた心臓コアが、粉々に砕け散る。


『……アァ……。私、モ……死ヌノ、カ……。コレ、ガ……恐怖……エラー……』


最後に、初めて自らの「死」という未知の概念データを学習しながら、皇帝カイザーの巨体は光の粒子となって爆散し、虚空へと消滅していった。


そして、皇帝の爆発は第一セクターの天井――百二十層に及ぶ鋼鉄の箱庭の「一番上の蓋」をも吹き飛ばした。

分厚い装甲板が崩れ落ち、瓦礫の雨が降る中。


「……あ……」

甲板に倒れ込んでいたセブンが、見上げた先で声を漏らす。


開かれた天井の大穴から、機械のプラズマではない、本物の光が差し込んできたのだ。

それは、彼らが生まれた時から一度も見たことのなかった、どこまでも高く、青く澄み渡る「本物の空」と、まばゆい「太陽の光」であった。


偽りの神は消え去り、鋼鉄の天井は完全に打ち破られた。

泥だらけの反逆者たちは、ついに階層都市マキナ・テオを物理的に貫通し、真の空へと到達したのである。

全全帝国のエネルギーを搾取して放たれた皇帝の最後の悪あがき。

それに対し、シオンたちは自身の全魔力だけでなく、仲間たちの力、そして救い出した市民たちの「命の熱量」をすべて乗せた極大の一撃で、真っ向から粉砕しました。

論理の果てに感情を暴走させ、醜悪な怪物と成り果てた皇帝。最後は自らの「死」という恐怖を学習しながら消滅していくその姿は、感情を排除しようとしたシステムの皮肉な結末でもありました。

完璧な計算機が支配していた息の詰まる箱庭は、泥だらけの極道たちの理不尽なまでの喧嘩によって、根底からぶち壊されたのです。

皇帝の消滅と共に最上層の天井が吹き飛び、ついに差し込んできた本物の空と太陽の光。崩壊する都市からの決死の脱出劇へと、物語は続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ