表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第七章:鋼鉄の帝国と、海を渡る反逆者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/100

第七章7『階層貫通と、垂直の弾丸』

生命の揺らぎを「エラー」として排除し、完璧な計算のみで構築された神聖機巧帝国マキナ・テオの階層都市。

百二十層にも及ぶその重厚な鋼の箱庭は、これまでいかなる外敵の侵入も許さない難攻不落の要塞であった。

だが今、その最下層から、一切の論理を無視した極彩色の弾丸が撃ち放たれた。

高純度エネルギーと泥臭い不純物を飲み込み、真の姿を取り戻した『反逆の泥舟』である。

彼らに「順路」などという概念はない。塞がる壁があるならば、力ずくでぶち破って進むのみ。

目指すは、この狂ったシステムを統括する皇帝カイザーの座す最上層。

分厚い鋼鉄の天井を次々と粉砕し、瓦礫の雨を降らせながら、泥だらけの反逆者たちによる規格外の「垂直突破劇」が幕を開ける。

ズガァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!

鼓膜を突き破るような轟音と共に、第七十四層の分厚い鋼鉄の床が、下からの極彩色の砲撃によって円形に消し飛んだ。

溶けた金属の雨が降り注ぐ中、空いた大穴をすり抜けるように『反逆の泥舟』が猛烈な速度で垂直上昇を果たす。

「ガハハハッ!! 爽快だぜ! ブリキのマンションを串刺しにしていく気分はどうだァ!!」

龍崎が甲板の縁に仁王立ちになり、眼下へと遠ざかっていく破壊された階層を見下ろして豪快に笑う。

「笑い事じゃねぇ! 姉御、いくらバリアが強力でも、この速度で天井にぶつかり続けりゃ船の骨格が悲鳴を上げるぞ!」

メインマストにしがみつくハクが、重力加速度と船の振動に耐えながら叫ぶ。

だが、舵輪を握るシオンの顔には、微塵の恐怖もブレーキをかける気配もない。

「悲鳴なら、さっき神話のコアが廃油を飲んで元気に上げてるわよ! まだまだ半分も到達してないんだから、ここで減速なんてあり得ないわ!」

シオンは舵輪をさらに押し込み、反重力機関エーテル・ドライブの出力を一段階引き上げた。

ギュイィィィィィンッ!!

船体を覆う極彩色のパルスがさらに輝きを増し、泥舟は文字通り「空飛ぶ弾丸」となって上層を目指す。

『……現在、第七十層を突破。帝国の中枢ネットワークの警戒レベルが【最高・深紅】へと引き上げられました。上層の各階層間ゲートが、物理的・論理的に完全封鎖されつつあります』

アノンのホログラムが激しく明滅し、帝国側の動きを報告する。

「……無理もありません。下から一直線に天井を突き破ってくるバグなど、彼らのプログラムには存在しないでしょうから」

ゼッカが義眼のレンズを明滅させ、次なる天井――第六十九層の防衛機構を解析する。

「シオン女王陛下。上の階層は、これまでのようなただの装甲板ではありません。高密度のエネルギーシールドと、迎撃用のレーザー砲台が網の目のように展開されています」

「上等じゃない。シールドごと力ずくで食い破りなさい!」

シオンの足元では、セブンが甲板の手すりに必死にしがみつきながら、生身の左目を限界まで見開いていた。

彼にとって、最下層の暗闇こそが世界の全てだった。だが今、船が上の階層を突き破るたびに、周囲の光景は劇的に変化していく。

無機質な工場地帯から、幾何学的な居住区へ。そして今、彼らが通過しているのは、人工的な光で照らされた巨大な商業プラントの立ち並ぶ中層エリアだった。

「……すごい……。世界が、こんなに……」

セブンの震える声に、カイルが優しく肩に手を置いた。

「驚くのはまだ早いよ、セブン。僕たちが目指すのは、こんな人工の光じゃない。本物の太陽が輝く『空』なんだから」

「そうよ。こんな作り物の景色、一瞬で通り過ぎてやるわ!」

『――警告。第六十九層、防衛ゲートのレーザー網が起動。全方位からの迎撃が来ます』

アノンの声と同時に、頭上の天井から無数の赤い光線が、雨霰のように泥舟へと降り注いだ。

「リオナ! 出番よ!」

「うんっ! 『聖光・絶対反射の盾』!!」

リオナが甲板の中央に杖を突き立て、莫大な魔力を解放する。極彩色の船体バリアに純白の光が重なり、降り注ぐ帝国のレーザー網を鏡のように反射した。

跳ね返されたレーザーが自身の砲台を破壊し、頭上の防衛システムが次々と連鎖爆発を起こす。

「そこだ! ブチ抜けェェェッ!!」

龍崎が大剣を振りかざし、爆発の隙間を狙ってシオンが主砲のトリガーを引いた。

極彩色の魔力砲が、レーザー網の中心を貫き、分厚いエネルギーシールドと鋼鉄の天井をまとめて消し飛ばす。

再び空いた大穴へと、泥舟は機関を咆哮させながら突入していく。

完璧な秩序で構築された箱庭を、泥だらけの反逆者たちが下から上へと蹂躙する。誰にも止められない垂直の狂騒は、さらに激しさを増しながら階層都市の深部へと迫っていた。

第六十層、第五十五層――。

幾重もの天井を紙切れのように吹き飛ばし、凄まじい速度で上昇を続ける『反逆の泥舟』。

しかし、第五十層へと差し掛かろうとしたその時、アノンのホログラムがこれまでにないほど激しく赤色に明滅した。

『……警告、警告! 第五十層にて、超質量の物理的変動を検知。帝国はこれ以上の垂直貫通を完全に阻止すべく、上下層を分断する【絶対隔壁アブソリュート・ゲート】の緊急閉鎖を開始しました!』

「絶対隔壁……。アレは、上層の『選ばれた市民』と、下層のワーカーを物理的に隔絶する壁。……超圧縮された対魔鋼たいまこうの塊で、どんな魔力も、レーザーも通さない……ッ!」

セブンが顔面を蒼白にして叫ぶ。

見上げれば、頭上の空間を覆い尽くすほどの巨大な漆黒の金属板が、左右から恐るべき速度でスライドし、完全に空を塞ごうとしていた。

「チィッ、ビビりやがって! 上からの迎撃じゃ止められないから、今度は船ごとペチャンコに潰そうって腹か!」

ハクが舌打ちをする。

さらに最悪なことに、第五十層の壁面から無数の【重力アンカー】が射出され、泥舟の装甲にガキィィンッと食い込んだ。船体が強烈な力で下へと引っ張られ、猛烈だった上昇速度が急激に削り落とされていく。

「させません! 『聖光・白銀の剣』!!」

「オラァァァァッ!! 邪魔くせェ鎖だ、離しやがれ!!」

カイルの光の剣と、龍崎の大剣が唸りを上げ、船体に食い込んだ重力アンカーを次々と粉砕していく。

だが、速度を落とされたこの数秒のロスが致命的だった。頭上の絶対隔壁はすでに9割方閉鎖され、わずかな隙間を残すのみとなっている。

「シオン様! 主砲のチャージでは間に合いません! それに、魔力を通さない壁なら撃っても防がれます!」

「わかってるわ! なら、魔力じゃなくて『純粋な力学』でこじ開けるまでよ!」

シオンは舵輪を片手で固定すると、もう片方の手にサラマンダーの【極炎】を極限まで圧縮し始めた。

「ゼッカ、ハク! あのデカい鉄板の『継ぎ目』を狙うわよ!」

「……了解しました。先ほどの主砲の余波で、右側のスライドレールに0.02秒の遅延ラグが生じています。接合部にわずかな『歪み』あり」

ゼッカが義眼のレンズを限界まで絞り、分厚い隔壁の唯一の弱点をミリ単位で見抜く。

「ハッ、なら俺の影で、その隙間を押し広げてやるよ!!」

ハクが甲板から漆黒の影を巨大な「くさび」の形に変えて上空へと射出する。影の楔は、ゼッカが指定した隔壁の接合部の僅かな歪みへと正確に突き刺さった。

ガガガガガガガッ!!

影の楔が対魔鋼の圧力でひしゃげそうになる中、泥舟はその僅かな隙間目掛けて突っ込んでいく。

「熱で溶けないなら、内側から爆発させて関節を外すわよ!! ――『極炎・爆圧突破』!!」

シオンが放ったのは、敵を燃やすための炎ではない。影の楔が作った僅かな隙間に極限まで圧縮した熱量を送り込み、対魔鋼の内部で「急激な熱膨張」を引き起こすという、物理法則を兵器化した一撃だった。

ズドゴォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!

魔力を弾くはずの絶対隔壁が、接合部の内側から発生した常識外れの爆発圧に耐えきれず、激しい金属音と共に大きくひしゃげて上に跳ね上がった。

「道が開いたわ!! 振り落とされるなァッ!!」

「ヒャハハハッ!! ぶち抜けェェェェッ!!」

ひしゃげた絶対隔壁の隙間を、反逆の泥舟がギリギリの摩擦で火花を散らしながら通り抜ける。

上下を分断する絶対的な境界線を、泥だらけの反逆者たちは力ずくで突破した。

黒煙を突き抜け、彼らの眼前に広がったのは、先ほどまでの中下層とは全く異なる、輝くような白銀に統一された帝国の上層階――【第一セクター】へと続く、真の支配者たちの領域であった。

黒煙を突き抜け、ひしゃげた絶対隔壁を背後に見下ろしながら、『反逆の泥舟』はついに帝国の上層階へとその巨体を躍り出させた。

「……こいつはまた、下とは随分と空気が違うな」

龍崎が大剣を肩に担ぎ直し、周囲をぐるりと見渡す。

そこに広がっていたのは、白銀とガラスで統一された、極めて洗練された未来都市の光景だった。下層に漂っていた油と鉄の匂いは完全に消え失せ、無臭で徹底的に浄化された空気が満ちている。空には幾何学的な光の軌道が美しく交差し、巨大な空中庭園が幾つも浮かんでいた。

しかし、その庭園にある木々や花は、すべてが精密に作られた「造花」であり、生命の息吹は一ミリも感じられない。

「……綺麗……。これが、上層の景色……」

セブンが目を輝かせながら呟くが、シオンはつまらなそうに鼻を鳴らした。

「綺麗? 冗談でしょ。ただ汚れを隠して、綺麗に見せかけてるだけの『空っぽの箱』じゃない。……下で泥まみれになってる連中の上に胡座をかいて、自分たちだけ安全な場所で作り物の花を愛でてるなんて、反吐が出るわ」

シオンの瞳に宿る怒りの炎は、上層の洗練された景色を見ることで、むしろ激しく燃え上がっていた。

ズゴォォォォォォォンッ!!

泥舟が空中に乱立する白銀の空中庭園や光の軌道を、一切の躊躇なく強引にへし折りながら垂直上昇を続ける。完璧に計算されていた上層の交通網は、下から突如として現れた極彩色の巨大なバグによって大混乱に陥り、あちこちで連鎖的な爆発と衝突事故が引き起こされていた。

『……警告。我々の上昇軌道上、第四十層から第十層にかけての全防衛システムが、帝国中枢からの直接命令により【完全独立駆動】を開始しました。……シオン、これまでの防衛システムとは次元が違います。皇帝カイザーの親衛部隊が動きました』

アノンのホログラムが、これまでにないほど冷たい光を放ちながら警告する。

「親衛部隊ね。いよいよ本丸のお出ましってわけだ」

ハクが影の刃を研ぎ澄まし、ゼッカが義眼のレンズを上空のさらに奥深くへと向ける。

「上層の防衛は、下層のような『数の暴力』ではありません。個々の戦闘力が極限まで高められた、特化型の機巧兵オートマタ……いえ、中には【サイボーグ化された帝国将官】の反応も混じっています」

「ガハハハッ! やっと血の通った(?)奴と戦えるってわけか! ブリキのオモチャ相手じゃ、どうにも張り合いがなかったからな!」

龍崎が獰猛な笑みを浮かべ、カイルとリオナも互いに頷き合って魔力を高める。

「セブン。ここからは、あの綺麗ぶった箱庭の連中が、本気で私たちを殺しに来るわ。……怖いわよね?」

シオンが優しく問いかけると、セブンは生身の左目を真っ直ぐにシオンへと向けた。

「……怖くない。ワタシ、本物の空が見たい。シオンたちと、一緒に」

その言葉に、シオンは最高に悪戯っぽい、だが力強い笑みを浮かべた。

「いい子ね。なら、特等席で見せてあげるわ。この腐った鉄の天井を全部ぶち抜いて、一番乗りでね!!」

シオンが舵輪を思い切り引き上げる。

『反逆の泥舟』は、極彩色の魔力パルスをさらに激しく撒き散らしながら、白銀の都市のド真ん中を一直線に貫いていく。

目指すは、この階層都市の頂点――第一セクター。

皇帝の玉座まで残り五十層。

激しさを増す帝国中枢からの刺客を迎え撃つべく、泥だらけの反逆者たちは笑いながら上空へと牙を剥いた。

強固な絶対隔壁アブソリュート・ゲートすらも、力学と魔力を融合させた力技で強引にこじ開け、ついに上層階へと突入したシオンたち。

下層のむさ苦しい工業地帯から一転、彼らの前に姿を現したのは、白銀に輝く洗練された未来都市でした。しかし、どれほど外見が美しかろうと、そこが生命の揺らぎを排除した「空っぽの箱庭」であることに変わりはありません。シオンたちの目には、下層のワーカーたちを犠牲にして成り立つその完璧な秩序が、この上なく醜いものとして映っていました。

全十四部構成で描かれる第七章も、ちょうど折り返し地点を過ぎました。

階層都市の頂点まで残り約五十層。ここから先は、量産型の機械兵ではなく、皇帝の直属である特化型の親衛部隊や、サイボーグ化された帝国の将官クラスが立ちはだかります。

泥と魔法の非論理な力が、帝国の最高峰の技術とどのように激突するのか。

次なる第八部からは、上層階を舞台にした苛烈な空中戦と、強敵との死闘が本格的に幕を開けます。

一切の減速を知らない垂直の弾丸が、どこまで帝国の天井を食い破れるのか。次回もどうぞお楽しみに。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ