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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第五章 始源の石碑と、還りつく数千年の彼方
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第五章7『天理の襲来、空を割る神の軍勢』

新星都市・大湧泉オイズムの東の空を覆っていた赤黒い暗雲が、まるで生き物のようにうねりを上げ始めた。

始源の石碑の覚醒と、四人の特異点たちが至った『魂の融合』というバグ。神のシステムは、これを数千年の管理の歴史において最大の脅威と断定した。

もはや間接的な魔獣の狂暴化や、環境の変異だけでは彼らを抑え込めないと判断した冷酷な神は、ついに自らの手足となる絶対的な【概念の執行者】たちを、この反逆の都市へと直接差し向けたのである。

大気を震わせる不気味な鳴動と共に、高く澄み切っていた新世界の空に、巨大な「亀裂」が走る。

それは、魔法と剣の力で新たな日常を築き上げようとしていた泥だらけの異邦人たちに対する、神からの無慈悲な宣戦布告であった。だが、城壁の上に立つ彼らの瞳に絶望の色はない。己の魂を極限まで研ぎ澄まし、真なる魔法の理を手にした暁の星徒たちは、空を割って飛来する神の軍勢を前に、ただ静かに、そして獰猛に牙を剥いていた。

パリィィィィィィンッ!!!!


まるで巨大な硝子のドームが砕け散るような、耳を劈く甲高い轟音が天空から響き渡った。

東の空に渦巻いていた赤黒い雷雲の中心が、物理的に「割れた」のだ。

ひび割れた空の向こう側に覗くのは、青空でも宇宙でもない。純白の光と無機質な幾何学模様が延々と流れる、神の理の中枢空間――【神域】の深淵である。


「……来やがるぜ。頭上の戸締まりを忘れた、迷惑な来客どもが」


新星都市の最も高い城壁の上。

黒いレザージャケットを羽織ったシオンが、吹き荒れる暴風に黒髪をなびかせながら、空の亀裂を鋭く睨み据えた。彼女の背に負った魔剣『雷月』は、抜刀する前から持ち主の圧倒的な闘気に呼応し、鞘の中で紫金の雷をバチバチと明滅させている。


そのシオンの隣には、純白のドレスを揺らすリオナ、白銀の聖剣を構えたカイル、そして漆黒の影の爪を展開したハクが、一歩も退くことなく並び立っていた。

城壁の下では、ジーグ将軍率いる光の騎士団と、巨大な魔鋼の大剣を構えた龍崎ギルドの面々、そして彼らを背に乗せた数十頭の『白銀の幻狼』たちが、迎撃の陣形を敷いて待機している。


空の亀裂から、黄金の光の粒子が滝のように地上へと降り注ぐ。

その光の中から、音もなく「それら」は顕現した。


人間の三倍はあろうかという巨体。純白の滑らかな大理石のような無機質な装甲に身を包み、背中からは光の魔力で構成された六枚の巨大な光翼を羽ばたかせている。顔の部分には目も鼻もなく、ただ一つの黄金の光輪ヘイローが冷たく回転していた。

その手には、空間そのものを貫くような、極度に圧縮された純粋な光の槍が握られている。


『……生体波長、ゼロ。対象は生命体ではなく、神の理が直接構成した防衛プログラムの顕現です』

カイルの背中にピタリと張り付いたまま、アノンが緑色の瞳のリングを高速回転させて告げた。

『名称、【天理の使徒】。……個体数、およそ三百。大湧泉の結界を物理的、および概念的に完全消去するために飛来しました』


「三百だと……!? 冗談じゃねぇ、あんな空飛ぶ大理石のバケモノが三百体も同時に攻めてくるってのか!」

城壁の下で大剣を構えていた龍崎の舎弟が、その圧倒的な威容と数に思わず息を呑む。

天理の使徒たちが放つプレッシャーは、昨日討伐した泥土の巨鰐などの野生の魔獣とは次元が違った。感情も、痛みへの恐怖も持たない、ただ都市を更地にするためだけに創られた「破壊の法則」そのものだ。


「ビビってんじゃねぇぞ! 相手が神様の手先だろうがなんだろうが、俺たちのシマ(都市)に土足で踏み込んでくるなら、ドスで叩き斬って追い返すまでだ!!」


龍崎の野太い一喝が、戦士たちの恐怖を強引に吹き飛ばす。

彼が跨るアルファ個体の幻狼が、天の軍勢に向かって「グルルルルッ……」と獰猛な唸り声を上げた。


天空の使徒たちが、一斉に光の槍を天に掲げる。

三百本の槍の穂先に、太陽が凝縮したような極大の光の魔力が集束し始めた。彼らは言葉を発することなく、一切の感情を交えずに、大湧泉の都市全域を消し飛ばすための『無差別な光の爆撃』のモーションに入ったのだ。


「――撃たせるかよ!! ハクの兄貴!!」

「言われるまでもねぇ!!」


龍崎の叫びと同時に、ハクが城壁の上から空に向かって漆黒の影を爆発的に展開した。

ハクの影が巨大な暗雲のドームとなり、使徒たちと都市の間に割り込もうとする。だが、神の概念で構成された使徒たちの光の集束は、ハクの単独の闇の魔力を上回る速度と質量で膨れ上がっていた。


「ハク殿、単独の防壁では防ぎきれません! リオナ様、あの時と同じ『掛け算』を!!」

カイルが、背中のアノンを庇うように素早く前へ出ながら、白銀の聖剣を大地に突き立てた。


「うん! カイルの盾に、私の浄化を混ぜ合わせる!!」

リオナがカイルの背後に回り、両手から純白の光の粒子を溢れ出させる。


天空から、三百の光の槍が流星群のように大湧泉へと降り注いだ。

直撃すれば、石造りの城壁ごと都市の半分が蒸発するであろう、理不尽なまでの神の鉄槌。


「――『聖王の浄化陣ホーリー・イージス・リライト』!!」


カイルの盾から展開された白銀の防壁に、リオナの浄化の光が螺旋を描いて完全に融合する。

始源の試練で掴んだ、相反する、しかし寄り添う二つの光の『魂の融合』。

降り注ぐ無数の光の槍が、カイルとリオナが展開した巨大な「白銀と純白の複合防壁」に激突した。


ドガァァァァァァァァンッ!!!!


天地を揺るがす轟音と、目を開けていられないほどの閃光が弾ける。

だが。

都市を焼き尽くすはずだった使徒たちの光の爆撃は、防壁に触れた瞬間、その「破壊」という概念自体をリオナの浄化魔法によって完全に書き換えられてしまった。

猛烈な熱と破壊力は瞬時に中和され、無害でキラキラと輝く光の雪となって、大湧泉の城壁の上へと美しく、そして静かに降り注いでいく。


「……な、なんだと!?」

「防ぎきった……! あの神の軍勢の爆撃を、完全に無効化しやがった!!」


ジーグ将軍や光の騎士たちが、その信じられない光景に驚愕の声を上げる。

カイルとリオナは、息をピッタリと合わせ、額に汗を滲ませながらも、一歩も退くことなく完璧な防衛の天蓋を維持し続けていた。


「すごいわ、二人とも……! これで上空からの攻撃は完全に封殺できる!」

シオンが、降り注ぐ光の雪の中で歓喜の笑みを浮かべる。


神の理に基づく絶対の攻撃を、完全に計算外の『バグ(融合領域)』によって弾き返された天理の使徒たちは、明らかな動作の硬直エラーを起こした。

彼らの黄金の光輪が高速で回転し、次なる攻撃パターンを再演算しようと虚空で停止する。


「エラーを起こして止まってやがるぜ。……隙だらけじゃねぇか!!」

ハクが凶悪な笑みを浮かべ、城壁の下で待機する幻狼たちへ向けて、漆黒の影の波長テレパシーを飛ばした。


「行け、龍崎!! 地上に降りてきた前衛のモブどもを、俺の手下(犬っころ)の機動力で全部叩き斬っちまえ!!」


「オラァァァッ!! 言われるまでもねぇ!!」


ハクの影の合図と共に、龍崎率いる【白銀の狼騎兵】が、城門から爆発的な速度で平原へと飛び出した。

目標は、上空からの爆撃を諦め、白兵戦へと移行するために地上へと降下してきた数十体の天理の使徒たちである。


「神様の使いっ走りだろうがなんだろうがなァ……極道のドスの射程に入った時点で、テメェらの負けなんだよ!!」


龍崎を乗せたアルファ個体の幻狼が、使徒の放つ光の牽制射撃を、風属性の魔力を駆使した驚異的なジグザグ走行で完全に回避する。

使徒の懐に完全に肉薄した瞬間。

龍崎の体から立ち上る任侠の闘気と、幻狼の風の加速が、彼が握りしめる『紫雷魔鋼の大剣』へと一気に注ぎ込まれた。


刀身の紋様が赤熱し、極大の紫雷が迸る。


「消え失せろォォォッ!!」


龍崎の放った雷鳴の一撃が、無機質な大理石の装甲を誇る天理の使徒の胴体を、斜めに深く叩き斬った。

ガァァァァァンッ!!

という鈍い鐘のような音と共に、使徒の装甲に亀裂が走り、そこに流れ込んだ紫金の雷が、神の防衛プログラムの内部構造を完全に破壊する。

天理の使徒は、一切の悲鳴を上げることなく、黄金の粒子となって平原の風に散っていった。


「よっしゃァァッ!! アニキに続けェ!!」

「光の盾を構えろ! 幻狼たちの道を切り拓くのだ!!」


舎弟たちと昼国の騎士たちが、幻狼の機動力を活かした一撃離脱の突撃で、次々と降下してくる使徒たちの陣形を蹂躙していく。

神の概念すらも両断する魔鋼の剣と、属性を巧みに操る戦士たちの猛攻。


「アハハハハ! 最高だぜ! 俺の闇とシオンの雷の出番がねぇくらい、下のおっさんたちが暴れ回ってやがる!」

ハクが、城壁の上からその蹂躙劇を見下ろして愉快そうに牙を剥く。


「……いいえ、ハク。喜ぶのはまだ早いわ」

だが、シオンの紫の瞳は、眼下の勝利に酔いしれることなく、上空の「亀裂」の奥底を真っ直ぐに睨み据え続けていた。


彼女の視線の先。

三百体の使徒たちのさらに奥……空の亀裂の最深部から、周囲の使徒たちとは全く異なる、途方もない質量を持った『異質の概念』が、ゆっくりと姿を現そうとしていたのである。


シオンの視線の先。

三百体の使徒たちのさらに奥……空の亀裂の最深部から、周囲の量産型使徒とは全く異なる、途方もない質量を持った『異質の概念』が、ゆっくりと姿を現そうとしていた。


ギギギギギギギッ……!!


空間そのものが軋み、悲鳴を上げるような不快なノイズが大湧泉オイズムの平原全域に響き渡った。

亀裂から這い出てきたのは、他の使徒たちのような美しい大理石の装甲ではない。神の理の中枢機構を直接切り取って固めたような、黒光りする多面体の巨像だった。

背中からは、光ではなく「空間の歪み」そのもので構成された六枚の黒翼が広がり、顔にあたる部分には、周囲の光を吸い込むような漆黒の虚無がぽっかりと空いている。


『……生体波長、計測不能。対象の脅威度、これまでの使徒を完全に凌駕しています』

カイルの背中で、アノンの緑色の瞳がかつてない速度で激しく明滅し、警告の赤いノイズを走らせた。

『名称、【ことわりの代行者】。神のシステムが、バグである特異点を直接消去するためだけに派遣した、高位の執行プログラムです。……周囲の物理法則、とくに「運動」と「距離」の概念に対する強制的な干渉能力を確認!』


アノンの無機質な警告が終わるか終わらないかのうちに、理の代行者は、空から地上へと「落下」したのではない。

瞬きをする間もなく、空高くにあったはずのその巨体が、地上で戦っていた龍崎たち【白銀の狼騎兵】の陣形のド真ん中へと、空間をスキップするように「転移」して存在していたのだ。


「なっ……!? いつ下りてきやがった!」

龍崎が驚愕し、咄嗟に幻狼の手綱代わりの銀毛を引き絞る。

「アニキ、危ねぇ!!」

舎弟たちが一斉に魔鋼の剣を構え、代行者へと斬りかかろうとした。


だが、彼らを乗せた幻狼たちが風属性の魔力で爆発的な加速を生み出した瞬間。

ピタリ、と。

幻狼と極道たちの動きが、代行者から半径数十メートルの領域に踏み込んだ途端、まるで琥珀に閉じ込められた虫のように、空中で完全に静止してしまった。


「……ッ!? なんだこりゃ、体が……剣が、一ミリも前に進まねぇ!!」

龍崎が全身の筋肉をはち切れんばかりに膨張させても、幻狼がどれほど風の魔力を噴射しても、空間に縫い留められたように動けない。


『……代行者の周囲に展開された【停滞の領域】です。対象に近づくほど、空間の距離と運動エネルギーの概念が「ゼロ」へと無限に分割されます。……物理的な攻撃は、永遠に届きません』

アノンの解説が、絶望的な事実を突きつける。


代行者の顔の虚無から、空間を抉り取るような真っ黒なエネルギーの球体が生成され始めた。

身動きが取れない龍崎たちを、領域ごと完全に消去しようとする絶対の破滅。


「……ッ、下っ端どもが調子に乗って突っ込みすぎるからだ! 龍崎、舌噛むんじゃねぇぞ!!」


城壁の上から、漆黒の影が一直線に伸びた。

ハクが展開した闇の触手が、停滞の領域の外側から龍崎や舎弟たちの身体に絡みつき、強引な力で後方へと乱暴に引きずり戻す。

直後、彼らが一瞬前まで静止していた空間ごと、代行者の放った黒い球体が音もなくすべてを抉り取り、巨大なクレーターを穿った。


「ハァッ、ハァッ……。助かったぜ、ハクの兄貴。……だが、なんだあの理不尽なバケモノは。ドスが届かねぇんじゃ、極道の喧嘩は成立しねぇぞ」

引き戻された龍崎が、冷汗を拭いながら悪態をつく。


「物理的な距離の概念を弄るなんて、まさに神様のチートプログラムね。……龍崎、あんたたちは下がっていなさい。あれは、私たち(特異点)の獲物よ」


レザージャケットの裾を翻し、シオンが城壁の上からふわりと飛び降りた。

彼女の隣には、パーカーのフードを目深に被ったハクが、影を揺らめかせながら並び立つ。


「カイル、リオナ! 上空のモブども(使徒)がこれ以上ちょっかいを出してこないように、光の天蓋の維持をお願い!」

「承知しました! シオン様、ハク殿、ご武運を!」

カイルとリオナが城壁の上でさらに魔力を高め、都市を覆う防壁を強固にする。


「……さて。始源の試練の復習と行こうじゃない、ハク」

シオンは、魔剣『雷月』をゆっくりと上段に構えた。

刀身から溢れ出す紫金の雷が、空気を焦がし、バチバチと激しい放電現象を周囲に撒き散らす。あえて制御を外し、暴走の一歩手前まで極限に高められた、致死の雷属性魔力。


「チッ。またあの無茶苦茶な魔力制御をやらされるのか。俺の影が焼き切れちまっても文句言うなよ、シオン」

ハクは憎まれ口を叩きながらも、シオンの背後に回り、その華奢な身体を包み込むようにして自身の『絶対的な闇の魔力』を限界まで展開した。


理の代行者が、シオンとハクを明確な「排除対象バグ」と認識し、六枚の黒翼を広げてゆっくりとこちらへ滑るように向かってくる。その足元から、運動をゼロにする【停滞の領域】が波紋のように広がっていく。


「距離を無限に分割するなら……その空間の概念ごと、私たちの『新しいルール』で書き潰すだけよ!!」


シオンの咆哮と共に、ハクのドス黒い影が、シオンの暴走する紫雷に絡みついた。

闇が雷の暴走を抑え込む砲身となり、相反する二つの属性が、互いの波長を完全に理解し、反発と調和を繰り返しながら、一つの『全く新しい概念』へと昇華していく。

それは、純粋な物理攻撃でも、単なる魔法の放出でもない。

世界そのもののルールを上書きする、特異点たちによる【魂の融合領域】。


「……喰らいなさい!! 泣き虫の神様!!」


シオンが魔剣を振り下ろす。

解き放たれたのは、紫でも黒でもない。光も音も、空間の歪みすらも完全に飲み込んで直進する【黒紫こくしの極光】だった。


ズバァァァァァァァァァァンッ!!!!


黒紫の斬撃が、代行者の展開する『停滞の領域』に激突する。

だが、距離をゼロに分割するはずの神の絶対防御は、シオンとハクが創り出した「未知の概念」を前にして、まるで薄いガラスのようにパリンッと呆気なく砕け散った。

システムには、相反する属性が魂のレベルで融合するというバグを演算することができなかったのだ。


「オラァァァッ!! そのままブチ抜け、シオン!!」

ハクの影がさらに加速を後押しする。


黒紫の極光は、停滞の領域を突破し、理の代行者の黒光りする多面体の巨体を、脳天から股下まで完全に両断した。

時が止まったかのような一瞬の静寂の後。

神の最高位の執行プログラムは、その断ち割られた断面から紫雷と闇の魔力を爆発的に噴き出し、二度と再生することなく、黄金の粒子すら残さずに完全に消滅デリートされた。


代行者が消滅したことで、上空の亀裂を支えていた魔力供給が絶たれる。

「ピシッ……ピシピシッ……!」

空に走っていた巨大な亀裂が、まるで逆再生の映像のように急速に収縮し、最後に残っていた数百体の天理の使徒たちもろとも、元の澄み切った青空の向こう側へと強制的に吸い込まれ、完全に塞がった。


強烈な爆風が吹き抜け、後には、ただ平穏な大湧泉の風が残された。


「……ハァッ、ハァッ……」

シオンが魔剣を振り抜き、ゆっくりと鞘に収める。

ハクも、肩で息をしながら影の爪を引っ込めた。


「……やったな、シオン。あの理不尽な防壁ごと、綺麗に両断してやったぜ」

「ええ。私たちの『融合』は、もう神のシステムでも止められない。……完璧な証明になったわね」


二人が振り返ると、城壁の上に立つカイルとリオナ、そしてアノン。平原で大剣を掲げる龍崎たちと、銀色の尾を振る幻狼の群れから、天地を揺るがすような大歓声が沸き上がった。


「うおおおおおぉぉぉぉぉっ!! シオン女王陛下、万歳!! ハクの兄貴、万歳!!」

「神の軍勢を叩き返しやがった!! 俺たちの、大湧泉の完全勝利だァァァッ!!」


龍崎が歓喜のあまり、幻狼の背から飛び降りて舎弟たちと抱き合う。

純白の防壁を解いたカイルとリオナも、互いの無事を確かめ合うようにハイタッチを交わし、満面の笑みを浮かべていた。


現代兵器を失い、ファンタジーの理へと強制的に回帰させられた日から数日。

彼らはついに、自らの力と魔法、そして仲間との絆だけで、神の理が差し向けた大軍勢を完全に退けるという、神話的とも言える偉業を成し遂げたのである。

大湧泉オイズムの青空の下、泥だらけの異邦人たちの勝利の凱歌が、誇り高く鳴り響いていた。

夜。

大湧泉の広場では、勝利を祝うかつてない規模の大宴会が開かれていた。

龍崎ギルドの男たちは樽酒を呷り、昼国の騎士たちと肩を組んで歌い、幻狼たちはご褒美の魔獣肉の山に囲まれて至福の寝息を立てている。都市の誰もが、今日の圧倒的な勝利に酔いしれ、明日からの新生活への絶対的な希望を胸に抱いていた。


だが、城壁の最も高い楼閣のバルコニーでは、シオンが一人、宴の喧騒から離れて夜風に吹かれていた。

彼女の視線は、もはや暗雲の晴れた東の空――満天の星空の果てに位置する『硝子の廃都トキオ』へと真っ直ぐに向けられている。


「……宴には混ざらないんですか、シオン様」

背後から、二つのグラスを持ったカイルが、静かな足音で歩み寄ってきた。


「みんなの笑顔を見てるだけで十分よ。……それに、これが『終わり』じゃないってことくらい、カイルも分かってるでしょう?」

シオンがグラスを受け取り、紫の瞳を細める。


「はい。今日の軍勢は、あくまでシステムが遠隔で差し向けた自動防衛プログラムに過ぎません。……本命は、あの廃都の最深部でシステムの人柱として玉座に縛り付けられている、私たちの『前世の親友(管理者)』」


「そう。だから、大湧泉の防衛は完全に龍崎たちに任せるわ。私たちはついに、神を殺すための武器(魂の融合)を手に入れた。……ここから先は、特異点である私たち四人だけで、あのダンジョンへ突入する」


シオンの言葉に、迷いはなかった。

大湧泉での日常と防衛戦は、彼らが己の牙を研ぐための準備期間だったのだ。次なる舞台は、数千年の時と神の魔法が結晶化した絶対の迷宮。

かつての世界の残骸が眠る廃都で、前世からの因縁を断ち切り、親友を運命の呪縛から解放するための、暁の星徒たちの本当の『神殺しの旅』が、いよいよ静かに、そして決意と共に幕を開けようとしていた。

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