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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第五章 始源の石碑と、還りつく数千年の彼方
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第五章4『霆撃(ていげき)の魔鋼と、森を統べる漆黒』

大湧泉オイズムの夜明けは、常に重厚な鉄の音と共に訪れる。

始源の石碑が目覚め、かつての文明の利器がすべてただの鉄くずへと変わってから数日。都市を包み込むマナの濃度は日を追うごとに増し、それに呼応するように森の生態系もまた、より凶悪で強大なものへと変貌を遂げていた。

生き残るためには、牙を研ぐしかない。失われた過去の技術を惜しむ者は、もはやこの都市には一人もいない。あるのは、大地から掘り出した魔力鉱石と、かつての機械の残骸を溶かし合わせ、全く新しい時代の武具を創り出そうとする職人たちの熱気だけだ。

東の空の彼方、赤黒い暗雲が渦巻く『硝子の廃都トキオ』へと至る険しい道のりを切り拓くため。そして、この理不尽な星の理を敷いた神の首元へ、確実にその刃を届かせるため。

泥だらけの異邦人たちによる、己の魂を削るような苛烈な鍛造の日々が、業火の燃え盛る炉の前で静かに、そして熱狂的に繰り返されていた。

肌を焦がすような熱風が、巨大な吹き抜けの合同鍛冶工房を渦巻いている。

中央に据えられた特大の溶鉱炉は、ただの薪や石炭で燃えているのではない。昼国の鍛冶師たちが組み上げた特殊な魔法陣の底から、絶え間なく純度の高いマナが供給され、炎は太陽の表面を思わせるような目も眩む青白色を放っていた。


「カイルの旦那! もう少しだ、右側の火力が少しブレてる! 白銀の魔力で押さえ込んでくれ!」

「はいっ! ――『白銀・陽炎の息吹』!!」


鍛冶長の怒声に近い指示に、上半身のシャツを脱ぎ捨てて汗だくになったカイルが、即座に応じる。

彼は炉の正面に立ち、両手から凄まじい密度の白銀の光を放出し続けていた。生身の肉体を取り戻したとはいえ、これほどの魔力を長時間、それも繊細な温度管理のために放出し続けるのは、極限の集中力と体力を要求される。カイルの引き締まった肉体には玉の汗が浮かび、それが炉の熱で一瞬にして蒸発し、彼の周囲に神々しい陽炎を作り出していた。


「オラァッ! 極道なめんなよ! 鉄の不純物は俺たちが全部叩き出してやらぁ!!」


炉の反対側では、ヤクザの若頭・龍崎とその舎弟たちが、巨大な鉄槌を振り下ろしていた。

彼らが打っているのは、数日前に仕留めた『岩鎧の巨熊』から剥ぎ取った高純度の魔力鉱石と、動かなくなったダンプカーのエンジンブロックを溶かし合わせた、未知の合金である。

火薬の力(銃)を失った彼らは、自らの命を預ける新しい武器を、自らの腕力と汗で打ち上げることを選んだのだ。規則正しく、一切の乱れなく振り下ろされる鉄槌の轟音が、工房の石壁をビリビリと震わせる。


「……そろそろいいわね。鍛冶長、引き上げなさい。最後の『焼き入れ』は私がやるわ」


工房の入り口で腕を組んでその光景を見守っていたシオンが、レザージャケットを脱いで傍らの木箱に置き、黒いタンクトップ姿で炉の前へと歩み出た。

彼女の紫の瞳が、炉の中で赤熱し、形を成しつつある巨大な大剣の刀身を鋭く見据える。


「承知いたしました、シオン女王陛下! 総員、刀身を引き上げろォ!!」


鍛冶長と龍崎たちが、巨大なやっとこを使って、眩い光を放つ魔鋼の塊を炉から引きずり出した。

その瞬間、シオンは自身の魔剣『雷月』を抜き放ち、刀身に限界まで紫金の雷を纏わせた。大気中のマナがシオンの魔力に呼応し、バチバチと激しい放電現象が工房中を駆け巡る。


「ただの水や油じゃ、この鉱石の魔力伝導率は固定できないわ。……私の雷で、分子の配列ごと『切断』して『再結合』させる!!」


シオンが、赤熱する大剣の刀身に向かって、紫金の雷を纏った魔剣を一閃した。

物理的に叩き斬るのではない。雷月の一撃は、刀身の表面スレスレを通過し、それに伴って放たれた極大の『紫雷』が、網の目のように大剣を包み込んだ。


ガガガガガガガガッ!!!!!


落雷のような轟音と共に、赤熱していた魔鋼の刀身が、紫色のプラズマを吸い込んで一気に冷却・硬化していく。

それは、魔法と科学の知識(大魔導士の前世)を持つシオンにしかできない、魔力を触媒とした強制的な分子結合の焼き入れだった。


光と雷が収まり、工房に静寂が戻る。


そこにあったのは、大人の背丈ほどもある、巨大で無骨な【魔導大剣】だった。

刀身は深い夜空のような漆黒でありながら、刃の表面にはシオンの紫雷が定着した紫色の稲妻の紋様が、脈を打つように微かに明滅している。

さらに、カイルが注ぎ込んだ白銀の魔力によって、剣全体が邪気を払うような清浄なオーラを纏っていた。


「……完成だ。おい龍崎、持ってみな」

シオンが、額の汗を手の甲で拭いながら、顎で大剣をしゃくった。


「おうっ……!」

龍崎は、ゴクリと生唾を飲み込み、火傷だらけの両手で、その大剣の柄を握りしめた。

そして、気合と共に一気に持ち上げる。


「おおおおぉぉぉっ!!」


ズォォォンッ!!

龍崎が刀身を高く掲げた瞬間、剣に宿った紫金の魔力が持ち主の闘気に呼応し、強烈な旋風を巻き起こして工房の熱気を吹き飛ばした。


「……信じられねぇ。エンジンの鉄塊と岩の塊を混ぜたはずなのに、鳥の羽根みてぇに軽く感じやがる。……俺の腕の力と、剣の魔力が完全に一つに繋がってる感覚だ」

龍崎が、歓喜に震える手で刀身を撫でる。

「最高だぜ、シオンの姉御、カイルの兄ちゃん! これが弾の出ねぇ世界で、俺たち龍崎組がテッペンを獲るための新しい『チャカ』ってわけだな!!」


「……チャカなんて陳腐なものと一緒にしないで。それは、あんたの闘気に反応して切れ味と重量を自在に変化させる、この世界に二つとない特注品よ。……名付けて『紫雷魔鋼しらいまこうの大剣』よ」

シオンが、満足げに微笑む。


「よっしゃぁぁっ! アニキ、すげぇ迫力ッス!!」

「俺たちの分の剣も、早く打ち上げようぜ!!」

舎弟たちが、新しい武器の完成に沸き立ち、再び炉に火を入れようと意気込む。


その時だった。


「――緊急事態だ!! 城門の守備隊から急報!!」


工房の入り口に、血相を変えた昼国の伝令騎士が駆け込んできた。


「どうした! 何かあったのか!」

カイルが、即座に汗を拭い、傍らに置いてあった聖剣を手にする。


「森の奥から、強力な魔力反応を持った『幻獣』の群れが、大湧泉の城門に向かって真っ直ぐに接近中!! その数、およそ数十……いや、もっとです!!」

伝令騎士の報告に、工房の空気が一瞬にして凍りついた。


数十頭の幻獣の群れ。

始源の石碑の波動によって狂暴化した魔獣たちが、新星都市の濃密なマナの源(あるいは鍛冶工房から放たれた極大な魔力)に引き寄せられて、大規模な襲撃を仕掛けてきたのだ。


「……チッ。せっかくいい武器が仕上がったってのに、休む暇も与えてくれないらしいわね」

シオンが、レザージャケットを羽織り直し、魔剣を背中に背負う。


「ガハハハ! ちょうどいいじゃねぇか姉御! この『紫雷魔鋼の大剣』の試し斬りには、最高の的だ!!」

龍崎が、新しい大剣を肩に担ぎ、ギラギラとした狩人の目つきで笑う。


「総員、武装して城門へ急行せよ! 民を指一本傷つけさせるな!!」

カイルの号令と共に、工房にいた戦士たちが一斉に表へと飛び出していく。


だが、彼らが城壁の上に駆け上がり、眼下の森から迫り来る「幻獣の群れ」の正体を見た時。

戦士たちの間に走ったのは、恐怖ではなく、完全な『呆れ』と『困惑』であった。


「……おい。あれ、どういうことだ?」

龍崎が、大剣を構えたままポカンと口を開ける。

シオンもカイルも、眼下の光景に言葉を失っていた。


森の木々を薙ぎ倒しながら、猛スピードで城門に迫ってきていたのは、美しい銀色の毛並みと、額に一本の魔力角を持った巨大な『幻狼げんろう』の大群だった。

それだけでも脅威だが、彼らが絶句した理由は他にある。


その数十頭の幻狼の群れの先頭を走る、一際巨大なアルファ個体(群れのボス)。

その背中に。

黒いパーカーのフードを目深に被り、ひどく面倒くさそうな、そして恥ずかしそうな顔をした『ハク』が、腕を組んでどっしりと跨っていたのである。


「……退け退けェ!! 踏み潰されてぇのかお前ら!!」

ハクの怒鳴り声と共に、幻狼の群れは城門の手前でピタリと急ブレーキをかけ、一糸乱れぬ動きで綺麗に整列し、ハクを称えるように「ワォォォォォン!!」と誇らしげな遠吠えを上げた。


「……ハク。あんた、一体森で何をしてたのよ」

城壁の上から、シオンが頭を抱えながら、そのあまりにもシュールな光景を見下ろしていた。


「……ハク。あんた、一体森の奥で何をしてたのよ」


城壁の上から、シオンが頭を抱えながら、そのあまりにも予想外な光景を見下ろしていた。

数十頭に及ぶ巨大な『幻狼げんろう』の群れ。本来ならば人間を容易く噛み砕くであろう新世界の凶悪な魔獣たちが、新星都市の城門の前に綺麗に整列し、大人しく腹を見せたり、尻尾をパタパタと振ったりしているのだ。そしてその頂点アルファとして君臨するかのように、黒いパーカー姿のハクが最も巨大な幻狼の背に腕を組んで跨っている。


「……チッ。俺だって好きでこんな犬っころどもを引き連れてきたわけじゃねぇよ」

ハクは気まずそうに視線を逸らし、幻狼の銀色の背からひらりと飛び降りた。

「森の奥の泉で肉を食ってたら、こいつらが群れで囲んできやがったんだ。だから俺の『漆黒の影』――つまり闇属性の魔力で少し威圧してやったら、急に腹を見せて服従しやがってよ。……高位の精霊獣としての俺の闇の波長が、こいつらの魔力器官に『絶対的な上位個体の匂い』として刻み込まれちまったらしい」


「闇属性の共鳴、ですか……」

カイルが、白銀の聖剣を鞘に収めながら、かつて昼国と夜国で培われた魔法の基本法則を思い出すように顎に手を当てた。

「確かに、ハク殿はかつて夜国の深い瘴気をその身に宿して生きてきた高位の精霊獣です。そしてこの幻狼たちも、森の影に潜み、疾風を操ることに特化した【闇と風の複合属性】を持っているようですね。魔力の波長が完全に噛み合い、より強大で純粋な闇を放つハク殿を、本能的に『群れのお頭』として認識したのでしょう」


「ガハハハ! 最高じゃねぇかハクの兄貴! 俺たち龍崎組に続いて、森の魔獣の群れまで舎弟にしちまうとはな! こいつらを調教すれば、新星都市の城壁警備は盤石だぜ!」

龍崎が、肩に担いだ真新しい魔鋼の大剣をポンポンと叩いて豪快に笑う。

舎弟たちも「さすがハクのアニキッス!!」と城壁の上から喝采を送った。


だが、ハクの表情は険しいままだった。彼は城壁の上のシオンを見上げ、鋭い声を張った。


「馬鹿野郎、呑気に笑ってる場合じゃねぇ! こいつらが森の奥から俺のところへ慌てて逃げてきたのには、理由があるんだ!」


ハクが親指で背後の森を指差した、その瞬間。

都市の南端を東西に横断する広大な境界の水域から、大地をドロドロに溶かすような、悍ましく重たい魔力の波動が膨れ上がってきた。


ズゴゴゴゴゴォォォォォッ!!


「な、なんだあの水柱は!?」

城壁の守備兵たちが悲鳴を上げる。

森の奥、豊かな水を湛える境界の湿地帯の水面が爆発したかのように跳ね上がり、そこから超巨大な水と泥の塊が、太い巨木を次々と薙ぎ倒しながら這い上がってきたのだ。


『……生体波長、解析完了』

いつの間にか城壁の縁に立っていたアノンが、緑色の瞳を明滅させて無機質に告げる。

『対象は、境界の水域に蓄積された泥と、水属性の魔力が極限まで濃縮された【泥土の巨鰐マッド・クロコダイル】。始源の石碑の波動により、水脈の主が急速進化した変異体です。幻狼の群れは、自身の属性(風・闇)と極めて相性の悪いこの強大な水と土の巨獣から逃れるため、より強い闇の魔力を持つハクを求めて走ってきたと推測されます』


「水脈の主……! 冗談じゃないわ、あんな泥のバケモノの質量で城壁を叩き壊されたら、都市の南区画が泥沼に沈むわよ!」

シオンが紫雷の魔剣を抜き放ち、即座に迎撃の指示を出そうとした。


だが、それより早く動いた男がいた。


「オラァッ!! ちょうどいい腕試しだ!!」


龍崎が、城壁の上から十メートル下の地面へと、躊躇うことなく跳躍したのだ。

ドスゥゥンッ!! と重い着地音を響かせ、彼は真新しい漆黒の大剣を片手に、森を割って迫り来る泥土の巨鰐の正面へと悠然と歩み出る。


「り、龍崎! 待ちなさい、相手は水と土の複合属性よ! 単なる物理的な剣撃は、あの分厚い泥の流体に威力を吸収されるわ!!」

シオンが制止の声を飛ばすが、龍崎はニヤリと笑って振り返った。


「姉御。俺が持ってるこの新しいドスが、ただの鉄の塊に見えるか?」


龍崎は、シオンとカイルが炉の熱波の中で鍛え上げた『紫雷魔鋼の大剣』を、両手で強く握りしめた。

彼自身の内側から沸き起こる強烈な闘気(生命力)が、剣の柄を通して魔鋼の刀身へと流れ込む。すると、漆黒の刃に刻まれていた紫色の稲妻の紋様が、ドクン! と脈を打ち、凄まじい『紫雷』の放電現象を纏い始めたのだ。


「……そうか! 鍛冶の焼き入れの時、シオン様の紫雷の魔力を、僕の白銀の光で強制的に刀身の分子に定着させたんだ! 龍崎殿の闘気をトリガーにして、剣そのものが強力な【雷属性】の魔力を放出している!!」

カイルが目を見張る。


「ガァァァァァァッ!!」

泥土の巨鰐が、巨大な顎を開き、高圧の泥水弾を吐き出しながら龍崎を飲み込もうと突進してくる。その体表は分厚い泥の重装甲で覆われ、並の刃では傷一つつかない。


だが、かつての昼国・夜国でも絶対の法則として語り継がれてきた通り、水を含んだ対象に『雷属性』は最も致命的な威力を発揮する。


「極道のドスってのはな、真っ直ぐにカチ込むから意味があるんだよォ!!」


龍崎は、巨鰐の吐き出す泥水弾を大剣の腹で弾き飛ばし、真正面から巨体へと肉薄した。大剣を大上段に構え、渾身の力で振り下ろす。

激突の瞬間。

刀身から迸った極大の紫雷が、巨鰐の泥の装甲に触れた途端、その水分を伝って水属性の巨体の内部へと一気に、そして爆発的に駆け巡った。


バチィィィィィィンッ!!!!


「ギャガァァァァァァァッ!!?」

巨鰐が、体内から細胞を直接焼き焦がされるような雷撃の苦痛に絶叫を上げ、その突進の勢いを完全に停止させた。雷の超高熱により、表面の泥の装甲がカチカチに乾燥し、ボロボロとひび割れていく。


「ハクの兄貴!! 今だ!!」

龍崎の叫びに呼応し、ハクが漆黒の影を蹴って宙を舞った。


「オラァッ! お前らも手伝え!!」

ハクの号令と共に、彼をボスと認めた数十頭の幻狼たちが、疾風の如き速度で巨鰐の周囲を取り囲む。彼らはハクの『闇属性』の魔力とリンクし、鋭い【風の刃】と【影の爪】を連続で叩き込み、乾燥して脆くなった泥の装甲を次々と粉砕し、巨鰐の柔らかい肉を露出させていく。


「トドメだ!!」

装甲が完全に剥がれ落ちた巨鰐の眉間目掛け、龍崎が跳躍する。

彼の手にある紫雷魔鋼の大剣が、落雷のような速度と重量を伴って、巨鰐の脳天へと深く突き刺さった。


ドゴォォォォォンッ!!

最後の大放電が巨鰐の巨体を貫き、内部の魔力器官を完全に破壊する。大地の主は痙攣しながら崩れ落ち、二度と動かなくなった。


「……フゥーッ。最高に痺れる切れ味だぜ、姉御」

龍崎が、黒焦げになった巨鰐の頭から大剣を引き抜き、空に向けて高く掲げた。刃に纏っていた紫雷が、シュゥゥと音を立てて静かに刀身の紋様の中へと収まっていく。

その圧倒的な一撃に、城壁の上の舎弟たちや昼国の騎士たちから、割れんばかりの歓声が沸き起こった。


火薬を失った極道は、シオンの雷属性とカイルの光属性が宿る大剣を振るうことで、この未知の生態系における『雷鳴の剣士』として完全なる覚醒を果たしたのである。

敵の属性(水・土)を見極め、自らの武器に宿る属性(雷)で弱点を突き、仲間(闇・風)と連携して巨大な脅威を打ち倒す。


「……まったく。本当に無茶苦茶な連中ね」

シオンは、安堵の息を吐きながらも、その口元には隠しきれない誇らしげな笑みが浮かんでいた。

かつての箱庭で培った魔法の基本法則が、数千年後の地球というこの新しい舞台で、極道たちの腕力と見事に融合している。それは間違いなく、彼女たちがこの厳しい自然を生き抜くための「確かな力」の証明だった。


始源の石碑から溢れ出るマナを含んだ風が、大湧泉の平野を吹き抜けていく。

シオンは風に黒髪をなびかせながら、眼下に広がる広大なマナの平原と、仲間たちの頼もしい背中を見つめた。武器の鍛造と、属性魔力を駆使した戦術。大湧泉オイズムの防衛と彼らの日常は、確実に盤石なものになりつつある。


だが、彼女の紫の瞳は、やがて平原の遥か東――赤黒い暗雲が常に渦を巻いている『硝子の廃都トキオ』の方角へと向けられた。

始源の石碑の覚醒により、この星の生態系は劇的な進化を遂げた。水脈の主がこれほど強大であるならば、神の理が直接管理するあの廃都の奥には、一体どれほど絶望的な力を持つ概念の化身たちが待ち受けているのだろうか。


「……待っていなさい、泣き虫の神様。私たちが最強の牙を研ぎ澄ませて、そのふざけた玉座ごと、すべてを雷で叩き割ってあげるから」


シオンの静かな、しかし熱を帯びた誓いが、風に溶けていった。

夕陽が平野を赤く染め上げ、大湧泉の堅牢な城壁に長い影を落としていく。

広場では、ハクに懐いて顔を舐め回す銀色の幻狼たちと、まだ熱を帯びている大剣の手入れに余念がない極道たちの野太い笑い声が交差していた。

彼らの日常は血と汗に塗れながらも、現代の冷たいコンクリートの中にいた頃には決して得られなかった、熱気と根源的な生命力に満ち溢れている。

カイルの放つ白銀の光と、シオンの紫金の雷。二つの属性が織りなす魔法の炉の炎は、夜通し消えることなく、次なる戦士たちの魔鋼の剣を打ち上げ続けるだろう。


だが、この星に満ちるマナの波動は、まだ完全に安定したわけではない。

彼らが倒した泥土の巨鰐は、過酷な生態系のほんの一角に過ぎないのだ。東の廃都から流れ込む不穏な気配は、少しずつ、しかし確実に、大湧泉の平穏な結界を削り取ろうとしている。

次なる脅威が空を裂いて飛来するその日まで、暁の星徒たちによる己の魂と刃を研磨する苛烈な日々は、熱く、そして騒がしく続いていく。

神代の理に還りついた数千年後の地球で、泥だらけの異邦人たちが紡ぐ神話は、まだその序章を終えたばかりである。

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