第四章13『奈落のサーバー遺跡、大魔導士の遺産』
『暁の自由都市』の中央広場。
機魔獣の残骸をヤクザのダンプカーに乗せて回収し、拠点へと戻ってきたハクが、呆れたような声でカイルに呼びかけた。
1. スリープモードの解除、告げられた深淵の座標
「……おい。半分幽霊」
「はい。なんでしょうか、ハク殿」
カイルは、純白の騎士服のまま、背筋をピンと伸ばして直立していた。
彼が身動き一つしないのには理由がある。彼の背中には、依然として黒いオーバーサイズのパーカーを着た銀髪の少女・アノンが、コアラのようにピッタリとしがみつき、スースーと(無表情のまま)スリープモードに入っていたからだ。
「……てめぇ、いつまでそのシステム端末のガキを背負ってるつもりだ。いい加減下ろせよ。あっちでリオナが、フライパン曲げるくらい嫉妬して睨んでるぞ」
ハクが指差した先。
野外キッチンのテントの奥で、純白のドレスの上からエプロンをつけた第一皇女リオナが、無言で分厚い鉄のフライパンを両手でギリギリと捻り曲げている姿があった。その白銀の瞳には、明らかに「私のカイルなのに」というドス黒いオーラが渦巻いている。
「ひぃっ……! リ、リオナ様! 誤解です、これはアノンの充電プロセスであって、僕に他意は全く……!」
カイルが、冷や汗を滝のように流して弁解しようとする。
『……Error。音声による振動を検知。スリープモードを解除します』
その時、カイルの背中で目を閉じていたアノンの緑色の瞳が、パチリと開かれた。
瞳孔の奥で、リング状のデジタルノイズがチカチカと明滅を繰り返している。
「あ、アノン。おはようございます。充電(?)は完了しましたか?」
カイルが、ホッと胸を撫で下ろしながら背中の少女に語りかける。
しかし、アノンはカイルの背中からスルリと飛び降りると、一切の感情を排した声で、広場にいる全員に向けて信じられない報告を口にした。
『……特異点アルファ(シオン)、及びベータ(リオナ)。
充電中に、当個体の深層スキャンが、このローカル領域(大泉町)の地下数百メートルの地点に、異常な【魔力とデータの複合波長】を検知しました。
……照合結果。これは、貴女たちの前世である【管理者(大魔導士)の遺産】のシグネチャーと完全に一致します』
ガシャンッ!!
アノンの言葉を聞いた瞬間、少し離れた場所で魔剣の手入れをしていたシオンの手から、砥石が滑り落ちた。
フライパンを曲げていたリオナの動きも、ピタリと止まる。
「……大魔導士の、遺産ですって?」
シオンが、レザージャケットを翻し、鋭い足取りでアノンの前に歩み寄った。
『……はい。この新世界を創り出す際、貴女が現実世界のネットワーク(ゴミ箱)から箱庭のデータをサルベージした影響で、かつて現実世界に隠されていた「前世の遺産(遺跡)」のデータまでもが、この大地の地下に巻き込まれて構築されてしまったと推測されます』
アノンが、淡々と事実を述べる。
「おいおい、冗談じゃねぇぞ。……てめぇらの前世ってのは、神様のシステムに反逆したバケモノみてぇな天才魔法使いなんだろ?」
ハクが、眉間を深く寄せてシオンを見る。
「そんなヤバい連中の遺産が、俺たちの足元の地下に埋まってるってのか?」
「……ええ。そして、もしそれが本当に『私たちの前世の遺産』なら」
シオンの紫の瞳が、恐怖ではなく、燃え上がるような探求心と反逆の光を帯びて細められた。
「その遺跡の最深部には、神のシステム(現実のメインサーバー)に直接干渉するための『バックドア(裏口)』か、それに類する強大な兵器の設計図が眠っているはずよ」
「バックドア……! つまり、そこから追跡者どもの本拠地に殴り込みをかけられるってことか!」
ハクが凶悪な牙を見せて笑う。
「それだけじゃないわ。追跡者たちが、いずれ必ずこの新世界に『殲滅艦隊』を送り込んでくるなら、迎え撃つための手段もそこにあるはず。……放置しておくわけにはいかないわね」
シオンは、振り返り、拠点に集まっている仲間たちに向けて声を張り上げた。
「ジーグ将軍! ゼッカ! 龍崎!」
「ハッ! ここにおります!」
作業着姿のジーグ、黒スーツのゼッカ、そして柄シャツのヤクザの若頭・龍崎が、一斉にシオンの前に集結した。
「これより、この街の地下深層部へ向けた探索部隊を編成するわ。……ただし、地下に何が眠っているか分からない以上、大規模な部隊は動かせない。探索は、私、ハク、カイル、リオナ、そしてナビゲーターとしてアノンの五人で行う」
「お待ちください、シオン様!」
ジーグ将軍が前に出る。
「我々光の騎士を置いて、主君たちだけでそのような危険な奈落へ向かわせるわけにはいきません! せめて私の剣を……!」
「ダメよ、将軍。あなたたちは、この街(地上の民)を守る絶対の盾よ。……地下でどんなバグが起きるか分からない以上、地上に確かな実力者を残しておかなきゃいけないの」
シオンが、有無を言わさぬ威厳でジーグを制止した。
「……シオンの姉ちゃんの言う通りだぜ、将軍さん。地下のドンパチはあの特攻野郎どもに任せて、俺たちは地上のシマをガッチリ固めようや」
龍崎が、ジーグの肩をポンと叩く。
「……しかし、地下数百メートルとなれば、どうやってそこまで掘り進むおつもりで? 魔法で地盤を消し飛ばせば、上の街が陥没してしまいますよ」
ゼッカが、義眼を光らせて極めて現実的な問題を指摘した。
シオンが口を開きかけた時。
「ガハハハ! そんなもん、俺たち龍崎組の出番に決まってんだろうが!!」
龍崎が、親指で背後のダンプカーの列を指差した。
「異世界転移に巻き込まれたのは、俺たちとダンプだけじゃねぇ! Mドンの建設予定地にあった『重機』も丸ごと引っ張ってきてるんだ! ……野郎ども! アスファルトごとぶち抜く巨大なドリル(ボーリングマシン)を持てぇ!!」
「「「おうッス、アニキ!!」」」
パンチパーマの舎弟たちが、歓声を上げて重機のエンジンを掛け始めた。
「……本当に、あんたたちヤクザが一緒に転移してきてくれて、これほど助かることはないわね」
シオンが、呆れながらも心からの感謝を込めて笑った。
ファンタジーの魔法と、現実の重機。
異色のハイブリッド部隊による、世界の深淵へ向けた「大穴掘り」が、豪快にその幕を開けた。
2. 大地の切開、広がるSFと魔法の融合遺跡
ドドォォォォォォォォンッ!!!!!
数時間後。
自由都市の防壁の外れに、ヤクザたちの操る大型ボーリングマシンと、カイルの魔力(電力供給)、そしてシオンの紫雷による地盤の軟弱化を組み合わせた、超高速の掘削作業によって、直径数メートルの巨大な『縦穴』が開通した。
「……シオンの姉ちゃん! 深度三百メートルまでブチ抜いたぜ! ここから先は、重機のドリルじゃ歯が立たねぇ未知の金属層だ!」
ヘルメットを被った龍崎が、縦穴の底から無線(ルミスの魔導通信機)で報告してくる。
「十分よ、龍崎。引き上げて。……そこから先は、私たちが自力でこじ開けるわ」
シオンは、腰の『雷月』を背中のギターケースにしまい直し、ハク、カイル、リオナ、そしてアノンを伴って、縦穴の入り口に立った。
アノンは、カイルに背負われるのではなく、今回は自分でトテトテと歩いている。
「みんな。地上を頼んだわよ。もし私たちが三日経っても戻らなければ……防壁を完全に閉じて、この縦穴を埋めなさい」
シオンの冷徹な命令に、ジーグもゼッカも、無言で深く頭を下げた。
「行くわよ!」
「オラァッ!!」
ハクの漆黒の影が、パラシュートのように五人の体を包み込み、巨大な縦穴を一気に降下していく。
ゴォォォォォォォォ……ッ。
風を切る音と共に、地上の光がみるみるうちに小さくなり、完全な暗闇へと突入する。
「カイル、明かりを!」
「はい! ――『白銀の光球』!」
カイルが展開した光の球体が、縦穴の底を明るく照らし出す。
そこには、龍崎が言っていた通り、岩盤ではなく、幾何学的な模様が刻まれた『黒い金属の床』が露出していた。
「……これが、前世の遺産の入り口か」
シオンが着地し、その黒い金属の床に触れる。
冷たく、そして魔力を一切通さない、完全な絶縁体の素材。
「……アノン。入り口はどこ?」
シオンが尋ねると、アノンは無表情のまま床の一点を指差した。
『……ここです。生態認証と、魂の波長によるデュアルロックが掛けられています』
シオンとリオナが顔を見合わせ、二人で同時にそのポイントへ手を置いた。
紫金の魔力と、白銀の魔力。
前世で「一つの魂」であった二人の魔力が、金属の床に流れ込む。
ピピッ……。ウィィィィン……。
かすかな電子音と共に、重厚な金属の床が、カメラのシャッターのように滑らかに開き、その奥へと続く『螺旋階段』が姿を現した。
「……開いたわ。行くわよ」
シオンを先頭に、五人は階段を下っていく。
階段を降りきった先で彼らを待っていたのは、想像を絶する光景だった。
「……なんだこりゃあ。魔法使いの遺跡っていうから、もっとカビ臭い石の神殿みたいなのを想像してたぜ」
ハクが、紫の瞳を限界まで見開いて驚愕する。
そこは、見渡す限りの広大な地下空間だったが、ファンタジーの遺跡とは全く異なっていた。
壁や床は、白亜の大理石で精巧に造られた『神殿』のようでありながら、その柱には無数の『光ファイバーケーブル』が蔦のように絡みついている。
天井からは、魔力で発光するシャンデリアの隣に、無機質なLEDの蛍光灯が並び、神聖な祭壇の裏には、チカチカと明滅する巨大な『サーバーラック群』が林立していた。
「魔法と科学が……完全に融合している」
カイルが、息を呑む。
『……これが、貴女たちの前世である大魔導士が、神のシステムに反逆するために独自に構築した【独立演算領域】です。
……魔法の非論理性を、科学の論理で裏打ちした、狂気のハイブリッド空間』
アノンが、一切の感情を交えずに解説する。
「……前世の私たち、相当イカれた研究者だったみたいね」
シオンが、苦笑しながらも、その光景にどこか懐かしさ(魂の既視感)を覚えていた。
「お姉ちゃん、見て! あっちの奥の扉から、すごく強い光が漏れてる!」
リオナが、神殿の最奥にある、ひときわ巨大な金属の扉を指差した。
「……あの奥に、私たちが求めるものがあるはずよ。慎重に進むわよ」
3. 起動する番人、過去からの刺客
五人が、静寂に包まれたサーバー神殿の通路を進んでいく。
カイルの光が照らす先には、かつての大魔導士が残したと思われる、難解な数式と魔法陣が混ざり合ったホログラムが、空中に浮かんだまま静止していた。
「……気味が悪いぜ。これだけデカい施設なのに、生き物の気配が全くねぇ。……システム(機械)の気配だけが、嫌な感じで張り詰めてやがる」
ハクが、影を足元に広げながら警戒する。
そのハクの直感が、最悪の形で的中した。
ピィィィィィィンッ……!!
空間全体に、高周波の警報音が鳴り響いた。
同時に、神殿の柱に巻き付いていた光ケーブルが一斉に赤く発光し、サーバーラックから凄まじい排気音が上がり始める。
『……警告。防衛システムの強制起動を検知しました。
……侵入者(特異点)の波長は認証されましたが、この遺跡は【管理者への反逆】を目的としているため、システム側(追跡者)が仕掛けていた「トロイの木馬」が反応した模様です』
アノンが、素早く状況を分析する。
「トロイの木馬!? つまり、追跡者の罠が残ってたってこと!?」
リオナが聖剣を構える。
「来るわよ!! 構えなさい!!」
シオンが魔剣『雷月』を抜き放った。
神殿の暗がりから、無数の赤い光の目が浮かび上がる。
だが、それは先ほど地上で戦った「機魔獣」や「サイバー犬」のような雑魚ではなかった。
ガシャンッ……ガシャンッ……。
重々しい金属音と共に姿を現したのは、全身を白銀の特殊合金で覆われ、背中に六枚の『機械仕掛けの翼』を持った、身の丈三メートルを超える巨大な【機械天使】だった。
それが、三体。
「……天使……! だけど、昨日の純白のバケモノとは違う! 完全に物理的な装甲を持ってるわ!」
リオナが息を呑む。
『……名称【殲滅用・機械天使】。
追跡者が、大魔導士の遺産を封印するために配備した、自律型物理破壊兵器です。……魔力結界と電磁シールドを併せ持ち、極めて危険です』
「チッ、御託はいい! ぶっ壊すだけだ!!」
ハクが、最も早く動いた。
「オラァァァッ!!」
漆黒の影を巨大な大剣の形に変形させ、一体の機械天使の胴体目掛けてフルスイングで叩きつける。
ガギィィィィィンッ!!!!
しかし、機械天使は全く揺るがず、その右手に持っていた『レーザーブレード』でハクの影を軽々と弾き飛ばした。
「なっ……! 俺の影が、力負けしただと!?」
「ハク、下がって!! 相手は純粋な機械の出力よ! まともに打ち合わないで!」
シオンが叫び、魔剣に紫雷を纏わせて横から斬りかかる。
「――『紫雷・神断』!!」
紫金の雷が機械天使の装甲を捉えるが、表面に展開された電磁シールドが激しくスパークし、シオンの魔法の『切断』の概念を強引に相殺してしまう。
「くっ……! 電磁シールドの出力が、地上の機魔獣の比じゃないわ!!」
『……目標、排除』
機械天使の無機質な声と共に、六枚の機械翼から、無数のマイクロミサイルと緑色の消去レーザーが一斉に発射された。
「リオナ様、アノン、僕の背後へ!!」
カイルが、即座に『白銀の神盾』を最大出力で展開する。
ズガガガガガガガガッ!!!!!
凄まじい爆発と衝撃が、カイルの盾を叩きつける。
「ぐぅぅぅぅっ……! 装甲貫徹力が、高すぎます……! この盾でも、長くは持ちません!!」
カイルが、歯を食いしばりながら生身の足を踏ん張る。
「……シオン! 雷銃は撃てねぇのか! あいつの装甲なら、あの対物ライフルの弾丸でぶち抜けるだろ!!」
ハクが、レーザーを躱しながら叫ぶ。
「ダメよ! 地上にライフルを置いてきちゃったわ! そもそも、銃身が溶けて使い物にならなかったでしょ!」
シオンが、舌打ちをして回避に専念する。
物理と魔法のハイブリッド兵器。
それを打ち破る手段(魔導銃)の触媒がない。
三体の機械天使が、無慈悲に包囲網を縮め、シオンたちを神殿の壁際へと追い詰めていく。
4. 天才の閃き、白銀のレールガン
「……くっ、このままじゃジリ貧よ。何か、物理的な『弾丸』になる質量と、電磁加速のレールを構築できるものは……!」
シオンが、高速で周囲の環境を演算しながら、決死の回避を続ける。
その時だった。
「お姉ちゃん!!」
カイルの盾の後ろにいたリオナが、突然、自分の手にした『白銀の聖剣』を、シオンに向かって力いっぱい放り投げたのだ。
「えっ……!? リオナ、あんた武器を手放してどうするの!」
シオンが慌てて聖剣を空中でキャッチする。
「お姉ちゃん、対物ライフルがないなら、私の『聖剣』を弾丸にして!!」
「……はぁっ!? あんたバカなの!? こんな大きな剣を、レールガンで撃ち出せるわけ……」
シオンが言いかけて、ハッと気づいた。
(……いや、待って。リオナの聖剣は、純粋な『白銀の魔力金属』でできている。普通の鉄とは違い、私の紫雷の魔力(電磁力)に対する『伝導率』は、鉛の弾丸の数千倍……!)
「……シオン様! リオナ様の意図が分かりました!」
盾を構え続けるカイルが、血を流しながら叫んだ。
「僕の『半霊体の光』を使ってください! 僕の魔力を、砲身の代わりにして、シオン様の紫雷を包み込めば、摩擦で溶けることはありません!!」
「……カイル。あんたたち、本当に狂ってるわね」
シオンの唇に、絶望の淵に立たされた反逆者特有の、狂気的で美しい笑みが浮かんだ。
「最高よ。……やってやるわ!! ハク!! 三体を一直線に並べて!!」
「無茶言うな!! ……だが、やってやらぁ!!」
ハクが、自身の影を巨大な「網」のように広げ、被弾を覚悟で三体の機械天使の足に絡みつかせ、強引に一体の背後に他の二体を一直線に引きずり込んだ。
「ガハァッ……! 早くしろ、シオン!! 俺の影が千切れる!!」
「カイル! 砲身を展開!!」
「――『白銀・電磁砲身』!!」
カイルが、盾の魔力を前方に集束させ、中空に「白銀の光でできた巨大な筒」を構築する。
シオンは、左手に自身の魔剣『雷月』を、右手にリオナの『聖剣』を構えた。
「リオナ! 聖剣に、あんたの限界の魔力を込めなさい!!」
「うんっ!!」
リオナが、遠隔で自らの聖剣に白銀の浄化魔力を限界突破で注ぎ込む。剣が、太陽のように眩く発光する。
シオンは、その聖剣を、カイルの構築した光の砲身の中にセットし、自身の『雷月』を起爆装置のようにその後ろに構えた。
「魔法と科学のハイブリッドがなんぼのもんよ! こっちは、前世の天才(私たち)と、最高の騎士たちの魂のハイブリッドよ!!」
シオンの全身から、これまでにないほど強烈な、空間を歪ませるほどの『紫金のプラズマ』が爆発的に放射された。
「――『双極・電磁神断投射』!!!!」
ドグゥゥゥゥゥゥゥゥンッ!!!!!!!
対物ライフルの時とは比較にならない、地下遺跡の空間そのものを破壊するような絶大なる衝撃波。
シオンの紫雷の電磁力によって極超音速の何倍もの速度まで加速された『白銀の聖剣』は、光の砲身を抜け、文字通り『一筋の巨大な光のレーザー(物理)』となって放たれた。
ズバァァァァァンッ!!!!
最前列にいた一体目の機械天使の電磁シールドを、紙屑のように粉砕し、強固な白銀合金の胴体を巨大な風穴と共に貫通。
そのままの勢いで、背後にいた二体目、三体目の機械天使のコアをも正確に撃ち抜き、神殿の最奥の分厚い金属の壁に深々と突き刺さった。
「…………」
数秒後。
三体の機械天使は、胸に空いた大穴から激しくスパークを散らし、そのまま崩れ落ちて完全に沈黙した。
「……ハァッ、ハァッ、ハァッ……」
シオンが、その場に膝をつき、肩で激しく息をする。
「……やった……! お姉ちゃん、凄い!!」
リオナが、カイルの背後から飛び出し、シオンに抱きついた。
「……てめぇら、本当に加減ってものを知らねぇな。俺まで吹き飛ぶかと思ったぜ」
ハクが、影を収めてドサリと座り込み、呆れ顔で笑う。
「カイルとリオナの無茶振りに応えただけよ。……カイル、あんたの光のバレルがなかったら、聖剣が途中で溶け落ちてたわ。ありがとう」
シオンが、カイルに向かって親指を立てる。
「光栄です、シオン様」
カイルも、疲労の色を見せながらも、嬉しそうに一礼した。
『……観測終了。特異点アルファ、ベータ、及び護衛ユニットの連携攻撃。
……予測演算を300%超過。……貴女たちは、本当に理不尽なエラー(バグ)ですね』
アノンが、いつの間にか安全な柱の陰からひょっこりと顔を出し、無表情のままパチパチと拍手をした。
「ふふっ。神様の一部にそう言ってもらえると、ゾクゾクするわ」
シオンが、立ち上がり、壁に突き刺さったまま輝きを失わない『聖剣』の元へ歩み寄る。
5. 扉の奥の深淵、そして明かされる『計画』
「さて。番犬の相手は終わったわ。……いよいよ、本番ね」
シオンは、聖剣を引き抜き、それをリオナに返した。
彼らの目の前にあるのは、機械天使たちが守っていた、神殿の最奥の『巨大な金属の扉』。
「……アノン。この奥に、何があるの?」
シオンが、アノンを振り返って尋ねる。
アノンは、トテトテと扉の前に歩み寄り、その小さな手を金属の表面に触れた。
『……この奥にあるのは。かつて、貴女たち(大魔導士)が、神のシステムを破壊し、人類を運命から解放するために創り上げた、未完成の【次元ハッキング・エンジン】です』
「次元ハッキング・エンジン……」
『……はい。そして、このエンジンを使えば。
現在、貴女たちの箱庭を完全に破壊しようとしている追跡者の本拠地(現実世界の中枢サーバー)へと、直接【物理的なゲート】を開くことが可能になります』
アノンの言葉に、シオンとリオナ、そしてハクとカイルの間に、電流のような緊張感が走った。
「……現実世界へ繋がる、ゲート」
シオンが、ゴクリと唾を飲み込む。
それは、彼らがこの新しい世界でただ防衛戦を続けるのではなく。
自ら敵の本拠地たる「東京の摩天楼(サイバーパンクの世界)」へと殴り込みをかけ、世界の理を司る『管理者』を直接打ち倒すための、究極の反逆への切符だった。
「……開けなさい、アノン」
シオンが、決意に満ちた声で命じる。
『……了解しました。主電源を、貴女たちの魔力波長と同期させます』
アノンの緑色の瞳が激しく発光し、巨大な金属の扉のロックが、重々しい音を立てて解除されていく。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッ!!
ゆっくりと開かれていく扉の向こう側から。
圧倒的な青白い光と、途方もないデータ通信のノイズ音が、彼らを包み込んだ。
暁の星徒たちの旅は、終わらない。
彼らの創り出した新しい世界の地下で、神を殺すための最終兵器が、静かにその産声を上げようとしていたのである。




