第九章8『白亜の防衛線と、極道の死装束』
若き光の魔法使いたちの完璧なサポートを受け、肉体の限界を意地で凌駕したシオンたちは、新世界の中枢たる『創世の大樹』の根元で、圧倒的な力を持つ白亜の神兵たちと激突します。
次世代への絶対的な引継ぎ(バトンタッチ)を胸に秘めた、命を燃やす総力戦をお楽しみください。
バチバチッ! という空間を焼き焦がすような異音と共に、光の海流から顕現した無機質な『白亜の神兵』たち。
顔に巨大な十字の切れ込みを持つ彼らは、一糸乱れぬ動きで光の矛を構え、新世界の聖域へと突っ込んでくる『反逆の泥舟』に向けて投擲の構えをとった。
「来るわよ! 船の防衛は任せたわ、カイル、リオナ!」
「はいッ! 『聖光・絶対城壁』、最大展開ッ!」
「『霊樹の旋風』、防空領域構築!!」
カイルの杖から放たれた純白の結界がドーム状に船体を覆い、その外側をリオナの荒れ狂う風の刃が二重の盾となって包み込む。
直後、神兵たちの手から放たれた数十本の「光の矛」が、流星群のように泥舟へと降り注いだ。
ズガガガガガガガガッ!!!!
光の矛が風の盾を貫き、カイルの聖なる結界に激突して凄まじい衝撃波を撒き散らす。
「……くぅッ!」
カイルが杖を持つ手に全体重をかけ、歯を食いしばる。神兵の放つ一撃一撃が、これまでのどんな怪異の攻撃よりも重く、高純度の魔力で構成されていた。
「持ち堪えろ、若いの! 防御は数秒でいい!」
龍崎が丸太棍棒を肩に担ぎ、甲板の縁へと跳躍する。
「俺たちが、一番槍をブチ込んでやるよォッ!」
『霊樹の浮風』によって重傷の膝への負担を完全に消し去られた龍崎は、大砲から放たれた砲弾のごとき初速で、海面を蹴って白亜の神兵たちの陣形へと突っ込んだ。
『――排除。旧キ時代ノ害悪ヲ、浄化スル』
最前列にいた神兵が、新たな矛を生成して龍崎を迎え撃つ。
「浄化だァ? 極道(俺たち)の泥汚れは、テメェらみたいな優等生には一生落とせねェよ!!」
龍崎の剛腕から繰り出された丸太棍棒が、神兵の光の矛ごと、その白亜の装甲を真っ向から粉砕した。
メシャァァァァッ!! という硬質な破壊音が響き、神兵の巨体が海面をバウンドしながら吹き飛んでいく。
しかし、倒された神兵の背後にいた別の個体が、一切の感情を交えることなく、隙だらけになった龍崎の死角から光の刃を振り下ろした。
「シィッ!」
だが、その刃が龍崎に届くことはない。
空気を裂くような銀閃。ハクの双剣が、龍崎の背後から迫っていた神兵の両腕を、装甲の継ぎ目から滑り込ませるようにして瞬時に切断した。
「遅ェよ、デカブツ。機械仕掛けの人形じゃ、極道(俺たち)の喧嘩のテンポにはついてこれねェぜ」
ハクは宙で身を翻し、さらに別の神兵の首を刈り取っていく。
龍崎の圧倒的な破壊力と、ハクの神速の連携。
だが、彼らは気づいていた。いくら装甲を砕こうと、首を落とそうと、神兵たちの傷口からは「光の粒子」が漏れ出すだけで、彼らは痛みを感じることも、恐怖で足並みを乱すこともない。倒された端から、後続の神兵が機械的に前線を埋めていくのだ。
「……無尽蔵の兵隊ってわけね。本当に、神様ってやつは戦い方が陰湿だわ」
吹き荒れる光の嵐の中、シオンは甲板の船首に立ち、極彩色の炎を右腕に静かに練り上げていた。
彼女の胸の奥底で、肉体の限界を超えて熱く脈打つ『黎の魂』。
それは、やがて来るべき第11章において、この第一世代の肉体が滅びようとも世代を超えて転生し、新たな器へと受け継がれていく大いなる運命を持った魂であった。
(……だからこそ、ここで終わるわけにはいかないのよ)
シオンは紫の瞳を細め、遥か彼方にそびえ立つ創世の大樹を睨み据えた。
自分たちの役割は、カイルやリオナのような次世代の光を、あの新しい世界へと無事に送り届けること。そして、次なる世代へとこの魂のバトンを確実に手渡すこと。
「さぁ、行くわよ。極道の最後の死装束……派手に燃やし尽くしなさいッ!!」
シオンは泥舟の甲板を蹴り上げ、神兵たちがひしめく海流の只中へと飛び込んだ。
すべてを懸けた炎が、白亜の防衛線を焼き尽くすべく、圧倒的な熱量を持って爆発しようとしていた。
海面に飛び降りたシオンの右腕から、極彩色の爆炎が放射状に解き放たれた。
その圧倒的な熱量は、迫り来る白亜の神兵たちを装甲ごとドロドロに溶かし、巨大な水柱と共に光の海流を大きく蒸発させる。
「……ハァッ、ハァッ……!」
着地と同時に炎を振り抜いたシオンは、荒い息を吐きながらマントを翻した。
(……魔力の出力は申し分ない。でも、やっぱり身体が悲鳴を上げてるわね)
カイルの治癒魔法によって表面上のダメージは癒えていても、第一世代として泥の時代から戦い抜いてきた彼女の肉体は、すでに限界のその先にある。一撃最大火力の魔法を放つたびに、命の寿命がゴリゴリと削り取られていくのがわかった。
『――脅威度、再計算。第一指定目標、極彩色ノ魔力保持者』
溶かされた仲間の残骸を踏み越え、後続の神兵たちが一切の躊躇なくシオンへと殺到する。十数本の光の矛が、死角という死角から一斉に突き出された。
「姉御ッ!!」
龍崎が丸太棍棒を振り回し、ハクが双剣で強引に割り込もうとするが、無尽蔵に湧き出る神兵の壁に阻まれてシオンのカバーに間に合わない。
串刺しになるかと思われた、その刹那。
「シオンさん、そのままッ!!」
泥舟の船首から、カイルの悲痛な、しかし力強い叫びが響いた。
直後、シオンの足元から『聖光』の防壁が円柱状に吹き上がり、彼女を包み込む絶対の盾となる。突き出された光の矛は結界に弾かれ、火花を散らして甲板へと軌道を逸らされた。
「リオナ!」
「任せてッ! 『霊樹の烈風』!!」
すかさずリオナが放った風の刃が結界の周囲を駆け抜け、体勢を崩した神兵たちの首を次々と刎ね飛ばしていく。
「……ッ、上出来よ、あんたたち!」
シオンは結界が解けた瞬間に大きく踏み込み、無防備になった神兵の胸倉へと右拳を深々と叩き込んだ。
「『極彩・黎の連華』ッ!!」
至近距離からの爆発が、白亜の装甲を内部から木っ端微塵に粉砕する。
「へっ……大将が若ぇのに守られてるたぁ、時代も変わったもんだぜ!」
血路をこじ開けたハクがシオンの背中合わせに滑り込み、双剣についた光の粒子を振り払った。
「馬鹿言いなさい。これが『ファミリー』ってやつよ」
シオンは不敵に笑い、自らの胸の奥で激しく燃え盛る熱を感じ取っていた。
『黎の魂』。
泥の時代から自分たちを生かし、狂気と絶望の中でギリギリの自我を保たせてきた特別な魂。
今、この激戦の中で、その魂はシオンの老いゆく肉体に見切りをつけるどころか、「次なる器」へと移るための準備をするかのように、かつてないほどの激しい光と熱を放ち始めていた。
(……ええ、わかってるわ。この魂は、あたしで終わりじゃない)
シオンは視線だけで、後方の泥舟で懸命に杖を振るうカイルと、風を操るリオナの姿を確認した。
やがて来る第十章での最後の決着。そして、自分たちの肉体が滅びた後に訪れるであろう第十一章――第二世代の幕開け。
この『黎の魂』は、あの若者たちのように、新しい時代を生きる資格を持つ者の元へと必ず転生し、受け継がれていく。だからこそ、第一世代はここで、彼らの未来を塞ぐ「旧世界の残滓」を、完全に焼き尽くさなければならないのだ。
「龍崎、ハク! 防御は全部若いのに任せなさい!」
シオンの号令に、歴戦の男たちは凶悪な笑みで応えた。
「オラァッ! ならば俺は、前だけ見て突っ走るだけだァッ!!」
「シィッ! 命の使い所としては、最高に上等だぜ!!」
『――排除。排除。排除』
空気を震わせる無機質な声と共に、大樹の根元からさらに巨大な、六枚の光の羽を持つ上位の神兵が何体も姿を現す。
「極道の意地、新しい時代にたっぷりと刻みつけてやるわッ!」
次世代の絶対的なサポートを背に受け、肉体の限界を『黎の魂』の熱量で強引に繋ぎ止めたシオンたちは、さらに分厚くなる白亜の防衛線へと、決死の特攻を仕掛けていった。
『――目標、殲滅』
空気を震わせる無機質な宣告と共に、六枚の光の羽を持つ上位の神兵たちが、上空から巨大な「光の十字砲火」を一斉に放った。
海面そのものを蒸発させるほどの致死の熱線が、逃げ場のない規模で泥舟と極道たちに降り注ぐ。
「カイル、リオナ!!」
シオンの叫びに応え、若き二人が持てる魔力のすべてを解放した。
「『聖光・絶対城壁』、多重展開ッ!!」
「『霊樹の旋風』、全てを弾き飛ばしてッ!!」
純白の結界が幾重にも重なり、その外側を翠緑の暴風がドーム状に覆い尽くす。
ズガガガガガガガガガガガッ!!!!
神兵たちの十字砲火が防壁に直撃し、視界が真っ白に染まるほどの閃光と衝撃波が巻き起こった。カイルの杖にヒビが入り、リオナの風が悲鳴を上げる。しかし、次世代の光は決して破られない。大人たちを守るという強靭な意志が、圧倒的な暴力の前に見事な盾として機能していた。
「よく耐えた、ウチの若い衆ッ!」
光の奔流が収まるか収まらないかの刹那、防壁の死角から龍崎の巨体が空高く跳躍した。
「オラァッ! 空飛ぶ鳥は、叩き落とすのが極道(俺たち)の作法だァッ!!」
龍崎が上空から渾身の力で振り下ろした丸太棍棒が、一体の上位神兵の頭部を捉える。
メキィィィッ! という硬質な音と共に、白亜の装甲が砕け散り、巨体が海面へと真っ逆さまに墜落した。
「右舷は俺がもらったぜッ!」
龍崎と交差するように駆け上がったハクの双剣が、流星のような銀閃を描く。
「シィッ!」
卓越した刃筋が、もう一体の上位神兵の六枚の羽の根元を正確に切り裂き、その機動力を完全に奪い去った。
二人の歴戦の極道が左右の陣形を完璧に崩した。
その中央――最も分厚い上位神兵の壁の中心を、シオンが一陣の炎となって駆け抜ける。
『――第一指定目標。排除』
残された最大個体の上位神兵が、シオンを真っ向から迎え撃つべく、巨大な光の矛を振り被った。
コンマ数秒、シオンの肉体に老いによる硬直が走る。
しかし、彼女の瞳に恐怖はなかった。彼女の背後から、カイルの聖光とリオナの霊風が、彼女の背中を力強く、そして優しく押し出していたからだ。
(……ああ。なんて心強い風かしら)
シオンは右腕に限界まで魔力を圧縮させながら、胸の奥で激しく明滅する『黎の魂』の鼓動を感じていた。
この魂は、やがて来る第十一章――第二世代の幕開けと共に、次なる器へと受け継がれていく。泥の時代を這いずり回った自分たちの肉体が滅びようとも、この若者たちと共に、新しい世界で必ず芽吹く。
ならば、第一世代の最後の役目はただ一つ。
次代へ続くこの道を、一片の曇りもなく切り開くこと。
「極道の死装束、特等席で見せてあげるわッ!!」
シオンの右腕から、かつてないほど巨大で、圧倒的な熱量を持った極彩色の爆炎が吹き上がった。
『黎の魂』が限界を超えて放つその輝きは、白亜の神兵の無機質な光すらも飲み込むほどの力強さを持っていた。
「『極彩・黎の連華――【覇断】』ッ!!!!」
シオンの拳が、上位神兵の胸部装甲に深々と突き刺さる。
ドゴォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
空間そのものを揺るがす大爆発が巻き起こり、巨大な神兵の体が内部から完全に消し飛んだ。その余波は後続の神兵たちをも巻き込み、海面を二つに割るような極彩色の炎の道が、真っ直ぐに大樹の根元へと切り開かれた。
「……ハァッ、ハァッ……」
炎が晴れた後、シオンは荒い息を吐きながら右腕を下ろした。
無尽蔵に湧き出ていたはずの白亜の神兵たちは、彼女の放った魂の一撃を前に完全に沈黙し、光の粒子となって海へと溶けていく。
「やった……! 防衛線を、突破したわ!」
泥舟の甲板から、リオナの歓喜の声が響く。
「へっ……流石だぜ、大将」
着地したハクが双剣を納め、龍崎も痛む膝を庇いながら不敵な笑みを浮かべて歩み寄る。
彼らの目の前。
光の海流が流れ着く終着点には、世界を支える巨大な『創世の大樹』の根元――澄み切った魔力で満たされた『大いなる泉』が、静かに波打っていた。
全てを懸けた過酷な航海。
次代へのバトンを胸に秘めた極道たちは、ついに新世界の中枢、その真の深淵へと足を踏み入れようとしていた。
無尽蔵に迫り来る「白亜の神兵」たちとの激戦。
肉体の限界を迎えつつあるシオンたち大人組が、次世代であるカイルやリオナの完璧なサポートを背に受け、自らの命を燃やして道を切り開く「第一世代の死装束」たる総力戦を描きました。
本作は、「1世代につき全10章、各章10部構成」という絶対的な枠組みで進行する重厚なサーガです。
シオンの胸の奥で激しく鼓動する『黎の魂』。この特別な魂は、確実に受け継がれていくことになります。
自分がここで終わることを受け入れ、むしろ次代への希望として魂を燃やすシオンの姿に、極道としての生き様を感じ取っていただければ嬉しいです。
さて、白亜の防衛線を突破した『反逆の泥舟』は、ついに大樹の根元にある「大いなる泉」へと辿り着きました。
この泉の奥底で彼らを待ち受ける最後の試練とは何なのか。
次世代への引継ぎを胸に秘めた、泥だらけの極道たちの終盤戦。
次回も、全力で執筆してまいりますので、どうぞお楽しみに!




