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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第八章:精霊の巨樹と、未開の野生王国

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第八章3『巨樹の集落と、森の長老』

強大なる大自然が支配する未知の密林で、一行を待ち受けていたのは巨大な獣ではなく、森を守る小柄な亜人【森妖族ファウナ】の狩人たちであった。

毒矢と網を用いた計算された包囲網も、死線を潜り抜けてきた極道たちにとっては小細工に過ぎず、シオンは瞬く間に敵のリーダーを制圧する。

だが、彼らの口から語られたのは、この未開の島にも帝国マキナ・テオの機巧兵たちが侵入し、無慈悲に森を荒らしているという事実だった。

「鉄の悪魔の住処を根こそぎぶっ壊してきた」というシオンの言葉を信じ、森妖族は一行を彼らの聖域である集落へと案内することに同意する。

鬱蒼とした原生林を抜け、天を衝く『精霊の巨樹』の足元へ。

濃密なエーテルが息吹く自然の要塞で、泥だらけの反逆者たちが島に隠された真の因縁に触れる、新たな休息と対話の時間が幕を開ける。

「……スゲェな。下から見上げると、首が痛くなるくらいデカいぜ」

龍崎が丸太棍棒を肩に担いだまま、ポカンと口を開けて空を仰ぎ見た。


森妖族の狩人たちに案内され、鬱蒼とした密林を数時間歩き続けた一行の眼前に広がったのは、島の中央にそびえる『精霊の巨樹』の圧倒的な根元であった。

一本の木というよりは、巨大な山そのものだ。苔むした太い根が地表を幾重にもうねり、巨大な天然の城壁を形成している。そして、その複雑に絡み合った根の隙間や、巨大なキノコをくり抜いたような空洞を利用して、森妖族たちの集落が広がっていた。


「ここが、我ラノ村ダ。精霊ノ巨樹ノ懐ニ抱カレタ、聖ナル場所ダヨ」

一行を案内してきた狩人のリーダーである亜人の少年――『ロア』と名乗った彼が、誇らしげに尻尾を揺らした。


「……信じられない。空気に溶け込んでるエーテルの濃度が、森の入り口とは桁違いだよ」

カイルが目を丸くして深呼吸をする。

「本当ね……。息をしてるだけで、枯れ果ててた魔力回路に、温かいお湯が注ぎ込まれてるみたい……」

リオナも両手を胸の前で組み、体内で急速に回復していく魔力の心地よさにうっとりと目を閉じた。


帝国の人工的なエネルギーとは違う、星そのものが呼吸しているような純粋な生命力。その中心地であるこの集落は、極度の魔力枯渇に陥っていたシオンたちにとって、まさに最高級の天然の療養所であった。


「……オマエタチ、鉄ノ臭イガシナイ。ドコカラ来タ?」

「尻尾ガナイ……。ヘンナ服、着テル……」


シオンたちが集落に足を踏み入れると、家々の中から森妖族の村人たちが顔を出し、警戒と好奇心の入り混じった金色の瞳で一行を見つめてきた。

彼らは皆、ロアと同じように小柄で、獣の耳と尻尾を持ち、草木を編んだ素朴な服を着ている。


「ほら、お前ら。変な動きをして脅かすんじゃねぇぞ」

ハクが短剣を完全に隠し、両手をポケットに突っ込んで無害をアピールする。

「……生体反応をスキャン。彼らに敵意はありません。純粋な『未知に対する恐怖と興味』の数値が大部分を占めています」

ゼッカも残された生身の目で村人たちを観察し、静かに報告した。


その中で、最も村人たちの興味を惹いていたのは、セブンをはじめとするサイボーグ市民たちだった。


「……ねえ、これ。あなたが作ったの?」

セブンがしゃがみ込み、おっかなびっくり近づいてきた森妖族の小さな子供に、微笑みかけながら尋ねた。子供の手には、綺麗な花の蜜を固めたような小さなお菓子が握られている。

子供はセブンの生身の左目と、機械の右目を見比べながら、コクリと頷いてそのお菓子を差し出した。

「……ありがとう」

セブンがそれを受け取り、口に含むと、甘く爽やかな花の香りが広がった。彼女の顔に、心からの嬉しそうな笑顔が咲く。

それを見た森妖族の子供たちも、尻尾をパタパタと振ってセブンたちの周りに集まり始めた。


「ハッ、すっかり懐かれちまったな。まあ、機械の箱庭で育った奴らには、こういう泥臭くて温かい連中との交流が一番の薬だろ」

シオンはその光景を頼もしく見つめながら、軽く肩をすくめた。


「ロア! 戻ッタカ。……ソノ者タチハ、何者ジャ?」


その時、集落の一番奥、巨樹の最も太い根の洞穴から、一本の杖をついた年老いた森妖族がゆっくりと姿を現した。

白髪が混じった豊かな毛並みと、深く刻まれた皺。そして、他の村人たちとは一線を画す、静かで重厚なエーテルを身に纏っている。


「長老様!」

ロアが慌てて駆け寄り、深く頭を下げた。

「彼ラハ、森ノ外カラ来タ迷子デス。……我ラノ森ヲ荒ラス『鉄ノ悪魔』ノ住処ヲ、根コソギ破壊シテキタト、ソウ言ッテオリマス」


「……ホウ?」

長老の鋭い金色の瞳が、ロアの言葉を受けてシオンたちを真っ直ぐに射抜いた。

その視線は、彼らが嘘をついているかどうかを魂の底まで見透かそうとする、深い知性と魔力に裏打ちされたものであった。


「私はシオン。ご覧の通り、船が壊れて遭難中のしがない極道よ」

シオンは長老の威圧感に一切怯むことなく、自然体で前に進み出た。

「あんたたちの森を荒らしてるっていう『鉄の悪魔』どもには、私たちも散々世話になったからね。……宿とメシ、それに魔力を回復する場所を提供してくれるなら、その残党狩り、私たちが手伝ってあげてもいいわよ?」


シオンの堂々たる取引の提案に、長老はしばらく無言で彼女の紫の瞳を見つめ返していたが、やがてフッと口元を緩め、低くしゃがれた声で笑い声を漏らした。


「クックックッ……。ヨカッタ。久シブリニ、骨ノアル『人間』ガ来タヨウジャ」


長老は杖をつきながら、深く皺の刻まれた顔にニヤリと笑みを浮かべた。

「その紫ノ瞳、そして身ニ纏ウ凄マジイ死線ノ匂イ。嘘ヲツイテイル目デハナイ。……ヨカロウ、迷子ノ客人タチヨ。我ラハ、オマエタチノ滞在ヲ歓迎シヨウ」


長老の言葉に、周囲で警戒していた村人たちの空気がふっと緩み、ロアも安堵の息を吐いて尻尾を揺らした。


「話が早くて助かるわ。それで、あんたたちの森を荒らしてる『鉄の悪魔』について、詳しい話を聞かせてもらえる?」

シオンは長老に促され、巨樹の根元に設けられた広場の中央、温かな焚き火の周りへと腰を下ろした。仲間たちもそれぞれリラックスした様子で周囲に座り込む。


「……オマエタチガ『鉄ノ悪魔ノ住処ヲ壊シタ』トイウノハ、恐ラク真実ジャロウ。ダガ、ヤツラハ生キテイル」

長老は焚き火に薪をくべながら、静かに語り始めた。


「数ヶ月前カラ、海ノ向コウカラ巨大ナ鉄ノ船ガ来テ、コノ島ノ北側ニ陣取ッタ。ソシテ、中カラ無数ノ『鉄ノ兵隊』ガ現レ、森ノ木々ヲ薙ギ倒シ、大地ヲ掘リ返シテイル。……ヤツラノ狙イハ、コノ精霊ノ巨樹ガ大地カラ吸イ上ゲル、純粋ナ『星ノエーテル』ジャ」


「やっぱりな。あのブリキの皇帝カイザーめ、自分たちの箱庭のエネルギーを賄うために、こんな遠くの島まで自動資源採掘部隊ドローンを送り込んでやがったのか」

ハクが忌々しそうに舌打ちをする。


「……ですが、マザーコンピュータはすでに消滅しています。中央からの指揮系統が失われた今、なぜ彼らは活動を続けているのでしょうか?」

ゼッカが義眼の代わりに残った生身の目で、冷静な疑問を投げかけた。


「システムが死んだからこそ、厄介なんだろ」

龍崎が丸太棍棒を地面に突き立て、腕を組んで鼻を鳴らす。

「親玉が死んで命令の更新が止まった連中ってのは、『最後に受けた命令』をバカみたいに繰り返すだけだ。資源を奪え、邪魔者は殺せ。……そういう単純なプロトコルだけで動く、タチの悪い暴走機械になっちまってるんだ」


「その通りジャ」長老が重々しく頷いた。

「以前ハ、ヤツラモ一定ノ距離以上ハ森ニ入ッテコナカッタ。ダガ、数日前……丁度、オマエタチガソノ住処ヲ壊シタトイウ頃カラ、ヤツラノ動キガ狂暴ニナッタ。一切ノ手加減ナク、目ニ付ク命ヲスベテ消シ炭ニシヨウトシテイル。コノママデハ、イヅレコノ集落モ、精霊ノ巨樹モ、ヤツラノ毒炎ニ焼カレテシマウ」


その言葉に、カイルとリオナがハッとして顔を見合わせた。

数日前。それはまさに、シオンたちが帝国のマザーコアを完全に粉砕したタイミングと一致している。


「なるほどね。皇帝が死んで論理エラーを起こした末端の機械どもが、見境なく発狂してるってわけか」

シオンは焚き火の炎を見つめながら、自嘲気味に笑い声を漏らした。


「私たちが大元をぶっ壊したせいで、被害が拡大してるなんてね。……なら、なおさら放っておけないじゃない」

「姉御。やるのか?」

「当然でしょ。極道が自分の起こした喧嘩の『ケツ拭き』を他人に押し付けるなんて、それこそ三流のやることよ」


シオンは紫の瞳に、極炎のような獰猛な光を宿して立ち上がった。


「長老。その鉄のスクラップどもは、私たちが責任を持って全部スクラップ工場へ送り返してあげる。だから、今は少しだけ時間をちょうだい。……私たちの魔力が満タンになるまでの、ほんの少しの時間をね」


第八章:精霊の巨樹と、未開の野生王国

第三部:巨樹の集落と、森の長老(後半)

「……フハハハッ! ケツ拭キ、カ。良イ言葉ジャ!」


シオンの迷いのない宣言に、長老は杖で地面を叩きながら腹の底から笑い声を上げた。

「自分ノ行動ニ責任ヲ持チ、逃ゲズニ立チ向カウ。オマエタチガタダノ暴力ヲ振ルウダケノ無法者デハナイコトガ、ヨク分カッタ。……ロアヨ!」


「ハイ、長老様!」

「コノ客人タチニ、一番エーテルノ濃イ『聖水ノ泉』ノ使用ヲ許可スル。存分ニ体ヲ休メ、力ヲ蓄エルガヨイ!」


長老の言葉に、ロアをはじめとする村人たちの顔にもパッと明るい希望の光が差した。圧倒的な暴力で森を焼き払う鉄の悪魔たちに、彼らは成す術もなく森の奥へと追いやられていたのだ。そこに現れた、鉄の悪魔の「大元」をぶっ壊してきたという規格外の人間たち。彼らは今や、森妖族にとって最大の切り札であった。


「案内スルヨ! コッチダ!」

ロアが尻尾を弾ませながら、巨樹のさらに奥、巨大な根がドーム状に覆い被さった場所へと一行を導く。


そこには、巨樹の根から染み出した純度の高いエーテルが、透き通った青い水となって湧き出る『聖水の泉』があった。

泉の周囲に立つだけで、空気中に満ちた濃密な魔力が肌から直接浸透してくるのが分かる。


「うわぁ……すごい。これなら、数時間もあれば完全に魔力回路が元通りになるよ!」

カイルが泉の水を手にすくい、その暖かな波動を感じて顔を綻ばせる。

「回復どころか、前の箱庭にいた時よりも出力が上がりそうね。……最高級のエステも顔負けのデトックス効果だわ」

シオンもボロボロだった右腕の包帯を解き、泉の霊水に腕を浸した。焼け焦げていた皮膚が、みるみるうちに再生していく。


魔法組が泉の恩恵で急速に力を取り戻す中、物理組である龍崎とハクもまた、森妖族の持ち込んだ果実や肉を豪快に平らげ、限界を超えていた肉体を驚異的なスピードで修復していた。


一方、広場の隅では、セブンたちサイボーグ市民と森妖族の子供たちが、言葉の壁を越えてすっかり打ち解けていた。

「ほら、こうやって木に登るんだよ」と身振り手振りで教える森妖族の子供たち。転んで泥だらけになりながらも、心から楽しそうに笑うセブンたち。

システムに管理された無機質な箱庭では決して見ることのできなかった、命と命が直接触れ合う、温かくも生々しい光景だった。


「……良い連中じゃない。あのブリキのスクラップどもに、これ以上この森を荒らさせるわけにはいかないわね」

シオンは泉から上がり、完全に傷の癒えた右腕を軽く握り込んだ。

彼女の指先には、以前よりもさらに色濃く、純度の高い『極炎』と『紫電』がバチバチと火花を散らしている。星の純粋な生命力エーテルを取り込んだことで、彼女の中の「黎の魂」もまた、より力強い鼓動を打ち始めていた。


「待たせたわね。……準備はいい?」

シオンが獰猛な笑みを浮かべて振り返ると、そこにはすでに闘志を漲らせた仲間たちの姿があった。


「おう! 腹も一杯、筋肉も超回復だ! いつでも暴れられるぜ!」

龍崎が新しく削り出した巨大な丸太棍棒を肩に担ぐ。

「ああ。俺たちの魔法も、もうすっからかんなんて言わせない」

カイルとリオナも、互いの手を取り合い、背中から溢れんばかりの光のオーラを立ち昇らせた。

ゼッカは義眼の代わりに借り受けた森妖族の特製ゴーグルを左目に装着し、ハクも研ぎ澄ませた短剣を弄びながら不敵に笑う。


「さあ、案内しなさい、ロア。……島を荒らす無粋な機械どもに、極道の『ケジメ』の付け方を叩き込んでやるわ」


純度の高い魔力と野生の闘争本能を取り戻し、完全復活を遂げた反逆の極道たち。

森の小さな狩人を道案内に、暴走する鉄の悪魔たちが巣食う島北部のドローン基地へ向け、泥だらけの「ケツ拭き」の戦いがいよいよ幕を開けようとしていた。

森妖族の集落へと招かれたシオンたちは、長老の口から、島を荒らす「鉄の悪魔」の正体とその暴走の理由を知ることになります。

皇帝システムが死んだことで、最後の命令だけを忠実に繰り返す暴走機械と化してしまった帝国の残党部隊。自分たちの引き起こした事態の「ケツ拭き」として、シオンが真っ向からその残党狩りを引き受ける決断は、彼女の極道としての責任感と任侠心を示すものでした。


巨樹から湧き出る高純度のエーテルの泉によって、枯渇していた魔力と傷ついた肉体を急速に回復させていく一行。

単に元通りになるだけでなく、この未開の大自然の純粋なエネルギーを取り込むことで、シオンたちの力は帝国の箱庭にいた時よりもさらに野生的で力強いものへと昇華されています。


セブンたちと森妖族の子供たちとの心温まる交流の風景も、彼らが命の尊さと自由を実感する大切な時間となりました。

万全の準備を整え、ついに完全復活を果たしたシオンたち。次なる第四部では、暴走する鉄の残党が陣取る島の北部へと突入し、自然の魔力と極道の暴力が融合した新たな大立ち回りが描かれます。

新天地での怒涛の反撃戦に、引き続きご期待ください。

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