償いと覚悟
「本当にいいんだな?」
「うん、ひと思いにお願い」
「そんなに気合を入れることなのかしら……?」
ライリーの弁償が完了した。明日からは、胸を張ってライリーを弟子と呼べるようになる。そこで、仕事終わりに何かお祝いをしようと提案したのだけど、ライリーからは「気持ちは嬉しいけど、お祝代わりにやってほしいことがある」と言われたのだ。
それが、今まさに行われている、断髪式である。元々償いが終わったら切る、とは言っていたけれど、ライリーはここに来た日から本当に髪を切らなかった。うちに来てから栄養状態が改善されたのか、わりときれいに伸びている。
イスラも大まかに事情を知っているので、三人で一回ずつ髪を切ることになった。理容師さんを呼んであるので後で整えてもらうが、それにしたって人の髪を切るのは不慣れな二人は、ハサミを持つ手がぎこちない。
「エレノアはなんで平然としてんだよ」
「村の子どもの髪を何度か整えたことがあるので、少しは慣れてますから」
あとは、ちょっと伸びただけの前髪は鏡を見ながら自分で切ることもあるからだ。傷んだ毛先を整える程度の話なので、人に誇れるほどではないけども。
「おし、切るぞ。どのくらい短くする気だ?」
「え、うーん。じゃまにならないくらい? もう雑にスパッといっちゃっていいよ」
思い切りが良すぎる。とはいえ確かに毛先だけ切るのでは、断髪式の意味がない。とりあえず、ここに来てから伸びた分だけ切ればいいだろう。余裕を見ても、大体三センチくらいは大丈夫だとユージーンに告げる。それを聞いたユージーンが、意を決したように手を動かし始めた。シャキシャキと音が響く。そして手に持った分を切り終わると、ユージーンは大きく息を吐き出した。
「次イスラな、あーもうとんでもねえくらい緊張した……」
「えぇ、任せてちょうだい。失礼するわね」
イスラは控えめに髪の束を取って、「このくらいかしら?」とユージーンが切った部分と照らし合わせている。そしてハサミを当てて、静かに切っていく。
「イスラ、結構すぐ始めたな……」
「ユージーンが長めに余裕を取ってくれてますからね、あのくらいならちょっと短めになっても修正がききますし」
もしくはユージーンが過剰に緊張していただけかもしれないけど、それは言わないでおく。
「終わったわ。はい、エレノアちゃん」
「ありがとうございます。ライリー、耳の横の髪取りますよ」
そこから躊躇なく切っていく。ずいぶんと時間が経ったものだけど、ライリーはあれから誰かに迷惑をかけるようなことはしていない。まったくではないけど、子どもの成長過程として一般的な範囲で収まっている。なんというか、かなり感慨深い。
私も髪を切り終わったので、あとは理容師さんにお任せした。髪を切り終わったライリーは表情もさっぱりとして、完全に過去を吹っ切ったようだった。
「これからもよろしくね、師匠」
ライリーが笑って言ったその言葉に、涙腺が緩む。私は、いい弟子を持った。




