返事
朝、営業準備をしていた時に、配達人が二通の手紙を持ってきた。上品に蝋で封じてあるものと、紐で綴じてあるものだ。紐の方が店宛のもので、蝋の方はイスラ宛のものらしい。イスラ宛の手紙はテーブルの上に置いて、店先の掃除をしているイスラに声をかける。さて、いすに座って店宛の手紙を開封すると、送り主はデュランド公だった。
中には便せん一枚と、営業許可証が入っていた。手紙には、必要な経過期間が過ぎたこと、現段階で不調は見られないこと、功績を認め国内での営業許可証を発行することが書かれていた。許可証の方には、発行人、保証人、そして王の判が押されている。それぞれ発行人がデュランド公、保証人がレオさんだ。
許可証を箱にしまった時、イスラが掃除を終えて戻ってきたので、置いてある場所を手で示す。イスラは小さく、え、と声を漏らした。
「この蝋の色と模様、お父さまからのお手紙だわ」
手紙を手に取って、目を閉じて深呼吸をしているイスラを、静かに見守る。封筒の裏側下部にはきれいな字でセンツベリーと書かれている。開封しようとするイスラの指先が震えているのが見えた。
「エレノアちゃん、わたし、お父さまに地方を巡るとお伝えしなきゃと思って、お手紙を書いたのよ。これまでも何度かお手紙を出していたのだけど、お返事が来たのはこれが初めてなの。……ちょっとだけ、怖いわ」
そう言って眉を下げたイスラの背中に、そっと手を添える。そのままとんとんと軽く叩くように動かすと、イスラはわずかに落ち着いたようだった。
「大丈夫ですよ、私がついてます。それに、内容が悪いものだと決まったわけじゃないでしょう? きっと問題ありませんよ」
ね、と笑いかけると、イスラは「そう、そうよね。えぇ、ありがとうエレノアちゃん」と微笑んだ。
カサリと音がして、手紙が開封される。さすがに内容を見るのはよくないだろうと目をそらすが、イスラの緊張が解けたのは背中に触れた手から伝わってきた。そして少ししてまた紙の擦れる音が鳴り、イスラは泣きそうな声で「エレノアちゃんっ」と私を呼んだ。
「どうでした?」
「お、お父さま、お父さまがわたしに、がんばりなさいって、応援していると書いてくださったわ……!」
ゆっくりと私に振り向いたイスラの目には、うっすらと涙の膜が張っている。「よかったですね、イスラが頑張ってきたのを、みんな知っていますから」と言うと、イスラは私に抱き着いてえぐえぐと泣き出してしまった。テーブルに置かれた手紙が風で飛ばないように重しをのせて、イスラの背中をさする。
タイミングがいいのか悪いのか、ライリーが出勤してきた。ライリーは私に抱き着いているイスラを見ると、私と目を合わせてひとつ頷く。ライリーがテーブルに置いてくれた水は、まだしばらく飲まれないだろう。




